オッドと黒髪の乙女
「ごしゅじんさまどうしましたか?」
夕飯も食べ終わり、後は寝るだけと言う時間、翔は明日のことで悩んでいた。
『明日は実際にモンスターと戦って貰います。ルナが同行するので問題ありません』
と訓練の終わりにローラが言っていたからだ。
「同年代の女の子と二人きりなんて無理だよ」
翔は友達がいない。異性は当然として同性とすらまともに話したことが無かった。
ローラは年がけっこう離れていた為それほど苦手意識は出なかったが、ルナとはほぼ同年代であり、何を話していいのかさっぱり解らなかった。
それにルナは好意的では無い。
そんな状態で二人きり、モンスターなんかよりもルナの存在の方がモンスターである。
ベットに座りオッドの身体をなで回していた。
「ごしゅじんさま、わたしも年頃のおんなのこなのですが?」
「そりゃオッドはネコだからだよ」
「……わたし、ぜんらですよ? いせいがぜんらではなしかけているのに、どうして服をきているルナはだめなのですか?」
「そりゃオッドがネコだからだよ」
「しかもありとあらゆるぶぶんをなで回していますよ」
「そりゃオッドがネコだからだよ」
オッドはすっと立ち上がり枕を占拠した。
「ごしゅじんさま、きずつきます。オッドはオッドなりにごしゅじんさまを助けたいのです」
「話してくれるだけでも十分ありがたいよ。もしもオッドがいなかったらこの不安をどう発散していいか俺には解らなかった。オッドを傷つけるつもりは無かったんだ。ごめん」
「良いんです。けっきょくオッドはネコなのですから」
そう言うとオッドは部屋から飛び出していった。
オッドは一人夜の城下町を歩いて行く。
オッドは翔についていくべきでは無かったのでは無いかと悩んでいた。地球に居た時には仲間達のおかげで翔を助ける事が出来たが、この世界ではオッドが助けるような事は特にない。
『話してくれるだけも十分ありがたいよ』
翔はそう言ってくれたが、翔はすでにこの世界になじみ始めている。
オッドがいなくても生活ができるようになっている。
オッドは自らの手を見る。肉球がついて何も掴めない自らの手を。
オッドが噴水広場の前を通る所だった。
「そこのネコちゃんお困りですか?」
黒い髪をした少女が噴水の縁に腰を掛けていた。
「わたしのことでしょうか?」
「えぇ貴方の事です。とても困っているように見えました」
「それにしてもわたしがしゃべれるとよくわかりましたね」
「私これでもけっこうな魔法使いですので、お名前はなんと言うのですか」
「オッドと言います。あなたのことはなんとよべばいいでしょうか?」
「そうですね。黒髪の乙女とでも呼んでください」
オッドは黒髪の乙女の隣に座り、そして自分の現状について黒髪の乙女に語り始めた。
「そうですか、なら私が解決してさしあげましょう」
黒髪の乙女は茶目っ気たっぷりにそう言った。
「ほんとうですか?」
「ただ、一つだけ約束してください。私の事を誰にも話してはいけません。私の事を話したら貴方は灰になってしまいます」
「わかりました約束します」
翔はいつも以上に早く起きてしまった。ルナと二人きりで話す事に緊張しすぎて熟睡できなかったからだろう。
目を開けると同じベッドで少女が寝ていた。
少女には猫耳が生えており、髪は奇麗な青みがかった灰色をしていた。
何がどうしてこうなった? 翔はまだ自分が夢を見ているのでは無いかと思ったが、自分のほほをつねって見たら痛みがあった。夢を見ていると言うのなら、この世界に来ている時点で夢みたいなものである。
猫耳少女は目を覚まし、大きく口を開き両手を伸ばして上半身だけ起こした。
少女は服を着ていなかった。小ぶりながらも形の良い乳房が見えてしまう。
「おはようございます。ごしゅじんさま」
少女の瞳は青と黄色のオッドアイだった。
「も、もしかしてオッドなのか」
「はい、ごしゅじんさまのオッドです」
「何で人間の姿に?」
オッドは少しの合間考えた後に
「気合でなれました」
と答えた。気合でなれるようなもんじゃねぇだろと心の中でツッコミを入れるが、ネコが化けて人間を騙すなんて昔話もある事に気付いた。
異世界があるのだ。ネコが人間に化けても不思議では無いだろう。
深く考えても解りそうも無いので翔は深く考えることを止めた。とりあえず今すべきことは……
「オッド服を着てくれ」
「もってないです」
「じゃあせめて胸隠してくれ」
「どうしてですか? 昨夜はわたしの身体で散々もてあそんでいたじゃないですか?」
「その姿で誤解を生みそうな発言は止めてくれ、昨日までネコだっただろ!?」
「はい、でも今は人間の姿です。これならルナさんとの会話の練習になりますね。オッドはごしゅじんさまの役に立ててとても嬉しいです」
オッドは無垢な笑顔でそう答えた。
「似合いますかごしゅじんさま?」
「あぁ凄く似合ってる」
偶然近くにいたメイドにメイド服を持ってこさせ、とりあえずオッドに着せた。さすがにパンツ等を借りるわけにもいかず、ノーパンメイドと言うある意味では全裸よりもハレンチな物体が完成してしまった。
そのメイド服を着せるのも一苦労であった。
『オッドはごしゅじんさまの物なんですよ? どうしてオッドがごしゅじんさまから隠れて着替える必要があるのですか?』
と言い始めて翔の目の前で着替えようとするのだからそれを止めるのに必死であった。
結局
『お楽しみは後にとっておきたいんだ』
の一言でオッドは納得した。
「ローラさん一つ頼みがあるんですが良いですか?」
昨日と同じようにローラと朝食を取っている時だった。
「どうしたのですか? コショウですか塩ですか?」
「いえ、そう言うわけでは無くて、女性物のパンツとブラが必要になりまして」
直感的に椅子から飛びすさった。
椅子が真っ二つになっていた。
「私が連れてきてしまった邪悪です。私が全ての決着を付けなければなりません!」
ローラは剣を構えもう一度斬り殺す構えをしていた。その目は本気だ。
「すいません説明不足でした。お願いですから話を聞いてください!」
翔は土下座した。異世界で通用するかどうかは知らないが、これ以外の説得の方法が思い浮かばなかった。
「ごしゅじんさまになにする!」
オッドが耳と尻尾を逆立てながらローラに近づいていた。
「オッド止めるんだ!」
「これが翔殿と一緒に来たネコ?」
「はい。わたしはごしゅじんさまのオッドです」
「……それならちゃんと言ってください」
ローラは剣をしまった。
「まぁ考えて見ればそれぐらいで殺そうとしてしまった私も、大分軟弱になってしまいましたね。昔の王と言ったら十股ぐらい出来なくて何が男だと言いふらしていましたから……あの時に王の首をはね飛ばさなくて本当に良かったです」
とローラはしみじみと語った。
ローラとオッドと共に朝食を取り、一般兵士が使っている短剣と石を受け取った。
「伝説の勇者が使っていたみたいなのでは無いんですね」
「最初から武器の力に頼るのはよくありません。どんな武器でも使いこなしてこその一流の剣士ですから、もっとも翔殿は魔法使いとしての才能の方が優れていますでしょうが……」
「所でこの石は」
「緊急時代が発生したときにこちらから振動するようにしています。大体三十秒後には城に戻って貰うようにテレポートして貰います。常に携帯してください。あと、テレポート出来る範囲は町の中に限られています。オッド殿の扱いに関しては翔殿の専属メイドと言う事で良いですか?」
「はい」
オッドは頷いた。
「では私からそのように手配しておきます」
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