魔法の才能

 これ以上の無駄話は不要とばかりにローラは咳払いをした。


「魔法には五大属性がある光、闇、水、火、自然の五つ。通常の人間は一つから二つ多くても三つの属性の魔法を扱う事ができます。しかし五大属性全て使えるのは歴史上でも見たことが無い」

「そんなに凄いことなんですか?」


 さきほどローラが『その属性を伸ばす方向で訓練をします』と言っていた事が翔は気になっていた。つまり属性がどれほど多く使えても一つに特化する方向にしか出来ないのならば使える属性の多さはさほど関係が無いので無いのか。


「凄まじいことです。全ての属性を混ぜた複合魔法が使えますからね。まぁそれは将来的な話として。今はセオリー通りに一つの魔法を習得する事から始めましょうか」


「どうして一つだけなんですか?」


「その一つを完全に使いこなすことが重要だからです。実際に見せた方が早いでしょう」


 ローラは訓練場にある二十個あるカカシの内一つを指さした。翔達の位置からおおよそ十メートルほどにある。


「私は火属性しか使えません。今からあのターゲットにファイアを使います」


 ローラの左腕に炎の弾ができあがる。腕をまっすぐに伸ばしターゲットに当てた。

 ターゲットは燃えていくが、燃えながらすぐさま再生していった。


「ではもう一度ファイアを」


 ローラの左腕に炎で出来た蛇が巻き付いていた。それをなぎ払うように腕を振った。炎の蛇はターゲットに絡みついた。


「どちらも同じファイアとして扱われる。さらに言えば」


 ローラは剣を地面に突き刺し両手で炎の弾を持った

 そしてそれをターゲットに向かって放ったが、今度のは今までのとは違って散弾のように飛び散らかっていった。


「これもファイアに属します。つまりこういった細かい使い分けをするためには一つの魔法の練度を上げていくしかありません。多方面に対応しようとすればするほど一つの魔法を極めていくのが効率的になっていくのが解りますか」


「俺は何を鍛えれば良いでしょうか?」


 ローラは手にアゴを当てて長い合間考えてからゆっくりと発言した。


「一つや二つなら私が指定したのを鍛えて貰うつもりだったのですが。しかし全属性ともなると私だけの判断で決めて良い物やら」

「ドラゴンロアーとしては何が必要なんですか」

「私が近接をルナが後衛で援護してくれています。しかし現状では多数の敵が出てきたときの対処が難しい。私も魔法で広範囲のファイアを使いますが、魔法使いとしてはハッキリ言って弱いので頼りになりません」


「それで魔法ってどうやって使うんですか?」

「魔法というのは自分のイメージを現実に投影する事。だからイメージしてみればできるはずです。やってみてください」


 イメージすることは翔にとって得意な事の一つだった。もっとも得意な理由が授業中に授業が解らなくて、妄想に浸っていたからなのだが……

 翔はどんな魔法を覚えるべきか少しの合間思案した。


 そこで一つ大事な事を思い出した。スマホの充電手段である。

 翔は自分の右腕をまっすぐのばし、ターゲットに狙いを定めた。そこに稲妻が走る想像をした。


 その瞬間であった。

 翔の手から稲妻が走った。


「稲妻ですか」


 翔はさらに応用を試してみることにした。


 集中するのは右手ではなくて十指。


 対象は目に見えるターゲット二十個。


 そこから強烈な稲妻の形をした蛇をイメージする。

 その瞬間翔の目の前ではイメージ通りの光景が現れた。ターゲットが回復するよりも早く燃えていき、ターゲットは黒焦げになってそのまま消し炭になってしまった。


「本当に初めて魔法を使ったのですか!? これは大魔道士級ですよ!」

「そうなんですか?」


 あんまりにもあっさりと出来てしまったのでどう凄いのか翔には理解出来なかった。


「えぇ、五大属性に初めての魔法でこの威力、応用性、師団を率いてもおかしくありません」


 ローラは思わず翔の方を掴んで思いっきり揺らしていた。


「す、すいません。取り乱してしまいました」

「ちょっと他の魔法も使って見ますね」


 そこからは凄まじい状況であった。光、闇、炎、水、自然すべての魔法を一発で使い簡単な応用もすることが可能だと判明した。


「もう、私から教えることはありません」

「いや、あの俺全然魔法解っていないんですけど……」

「私も魔法の専門家ではありません。今日は基礎的な事だけと思っていたのですが、これ以上はルナから直接教わった方が良いでしょうね」

「ルナさんですか」


 さきほどのルナの応対を考えると翔に好意的であるとはとてもでは無いが言えなかった。


「魔法の腕で言えばこの国でも五本の指に入ります。それに今は人手不足ですからね。ドラゴンロアー内でどうにかできるのなら、それでどうにかしたい国側の都合もあります。確かにあのような出会い方では不安でしょうが、とても良い子ですので安心してください」


 そう言われても翔には不安しか無かった。

 何よりも同年代の女性と一対一で話すような事がほとんど無かったので、どうやって会話を持たせれば良いのか、それが最大の悩みであった。


 なおスマホの充電は無事に成功した。


****************




 アストラル連合王国議会の円卓では議員達が、自らの利益のために討論をし続けていた。

「エーテルフレームを首都で独占しようと言うのはどういう意図かね?」


「今の所ゲートが出ている場所は首都に限定されている。出てくる所に戦力を集中させるのは間違っていない。」


「それで救世主の方はどうなった。あれだけの膨大なマナと魔力を使ってローラを異世界に送ったんだ。成果無しでは責任問題になる。農業や工業分野に使えばどれほど発展していた事か」


「ローラと預言書からの報告によるとエーテルフレームを使えなかったそうじゃないか、とんだ救世主様だ」


 議会から失笑が漏れる。


「ただ全属性の魔法が使える大魔道士級であるとも同時に伝えられている」


 議会全体からどよめきが走り、徐々に沈黙へ向かっていく。

 議会での失言はそのまま失脚を意味する瞬間がある。

 皆が皆言葉を慎重に選んでいる中で、一人声を上げた。


「D計画の生け贄として丁度良いのでは?」


 議会に出席する人間全てが国王に視線を向ける。


「確かにドラゴンロアーの部隊よりもD計画を推進させた方が結果的に国家の安定に繋がるのでは?」


「しかし預言書の発言を無視しても良い物か……救世主なのだろ。エーテルフレームは使えなくとも常識では考えられない魔力を持っている。それだけで十分に魔獣共と対抗する戦力になる」


「故に勇者か魔王どちらかになるとも預言書は言っているのだろう。魔王になる可能性を考慮すればD計画に使うのはあながち間違っていない」


「D計画で使うにせよ。現状まだD計画その物が進んでいない。エーテルフレームの量産計画も難航。予算とマナばかりが浪費されていく。これ以上の増税は反乱を起こす貴族共が出てきてもおかしくありません」


「様子見か……まぁ救世主の発見だけでも良しとすべきか」

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