ルナ ホーリードラゴン

「おきてくださいごしゅじんさま」


 オッドに顔をぽちぽち叩かれて翔は目を覚ました。


 昨日メイド達に部屋に案内されたは良いが疲れていたのですぐに眠ってしまったのだ。

 スマホで時刻を確認してみると朝の六時であり、柱時計も六時を伝えていた。どうやら時刻は同じらしい。


 翔はスマホの電源を切った。電波が届かなくとも、電子書籍などで役立つ時があるかもしれないと判断したからだ。

 部屋はビジネスホテル程度の大きさしかなく、本当に寝るための場所でしか無かったが、翔には文句無かった。


 ドアがノックされる音が聞こえる。


「翔殿起きていますか?」


 ローラの声だった。

「はい」

「では早速ですが、具体的な任務と訓練……の前に朝食を頂きましょうか」




 食堂と言うには狭すぎた。本来は密会用の場所であるとローラは説明した。一般兵士の使う食堂を使うと騒ぎになる可能性があると言うことでの特別待遇らしい。


 異世界と言う事で翔はとんでもない物が出てくるのでは無いかと不安になっていたが、朝食は目玉焼きトーストであった。オッドに出されたのも魚の切り身である。


 不安もあったが期待もあったぶん翔は肩すかしを食らった気分であった。


「どうかしましたか?」


 トーストを口いっぱいに頬張りながら、ローラが翔に尋ねてきた。


「いや大丈夫です」




「翔殿は特殊部隊ドラゴンロアーに配属されます。

 街中で黒いゲートが出現し住民をさらう事件が多発し、通常兵器では有効な攻撃手段になり得ない事も判明。その為エーテルフレームを使った精鋭部隊が必要になりました。それで新設されたのが特殊部隊ドラゴンロアーになります」


「でも、俺はエーテルフレームがまだ使えないです」

「エーテルフレームは使用者の魔力に影響されます。つまり魔法の特訓をしなければエーテルフレームが使えるようになっても十全に使いこなせません。それに私たちの任務はこれ以外にもあります。例えばゲートからの避難誘導等も私たちの任務です。」


 ローラと翔は訓練場に来ていた。学校のグラウンドほどの大きさがあるが、今は翔達しかいなかった。


「まずは魔法の傾向を調べましょう」

「傾向ですか?」

「はい。属性がありますので、その属性を伸ばす方向で訓練をします」


 ローラは懐から水晶玉を取り出した。


「手をかざしてください」


 翔は言われた通り手をかざした。


「……どうでした?」

「5大属性全てに適正がありますね……本来なら多くて3属性なのですが……私もこんなパターンは初めてでどう指導していいやら」

「なら素直にオールマイティーになって貰うべきじゃ無いかしら?」


 上空から声が聞こえてきた。

 翔は思わず上を見るとしまパンが見えた。しかしその次の瞬間には衝撃が走った。


「あら失礼、救世主ならこれぐらい簡単にキャッチしてくれると思ったのだけれど、どうやら見込み違い見たいね」


 少女はわびる様子もなく立ち上がり砂埃を払った。

 まず目に付くのは長く奇麗な青髪だろう。それをサイドテールにしている。瞳は大きいながらも切れ目で意志の強さを感じられた。


 150センチよりも少し大きいぐらいで中学生ぐらいの年齢に思えたが、胸が大きかった。


 服装はセーラー服のような少し不思議な服を着ている。防具と呼べるのは胸当てぐらいで、スカートもかなり短い。


「ルナ、翔殿に向かって失礼だろ」

「これぐらいお姫様だっこキャッチしてくれないと困るわね。半端な戦力なら居ない方がマシよ」

「……お姫様だっこされたかったの?」


 頭がクラクラする中で翔は言った。きちんと言ってから飛んで来てくれるなら今の翔なら出来ただろう。


「違うわよ!」


 ルナは顔を少し顔を赤くしながら叫ぶと、転んでいた翔に手を差し伸べた。


「ご、ごめん。キャッチできなくて」

「そこで素直に謝られても困るんだけど……まぁいいわ。私はルナ、ルナ ホーリードラゴン。特別にルナと呼ぶことを許すわ」

「三島翔です」

「カケルね。異世界の名前ってやっぱりエキゾチック」

「一応私からも紹介しよう。彼女はルナ ホーリードラゴン ホーリードラゴン家の一人娘でドラゴンロアー部隊の一人だ。現状は私と君とルナで三人の部隊だが今後増員していく予定だ。ルナ、エーテルフレームを見せてやってくれ」


ルナは嫌そうな顔をしながらも、渋々スマホサイズのカードを取り出した。


「リリース」


 その言葉と共にルナの手には銃身にドラゴンが絡みつく装飾の施されたマスケット銃が握られていた。


 翔は直感的に避けた。銃から光が発射される。


「あら、良い勘してるわね」

「ルナ! 何をしている!」


 ローラはルナに駆け寄り胸元を掴もうとした。


「大丈夫よ。あの銃弾は癒やしの銃弾当たったところで何も問題無いわ。ただ、あんなのに当たるようじゃ仲間として認めたくないだけ。

 まぁギリギリ合格ね。

 私のエーテルフレームはマスケット。連射も可能で中に詰め込む銃弾は魔法にすることも出来るこれで超遠距離からの支援も可能。

 さらには魔法の威力も倍増できる。魔法属性は光で基本的に回復要員ね。これだけ解れば十分でしょ。私はこれから休暇を貰う事にするから」


「ルナ!これから仲間になる相手ですよ!? 一緒に訓練しましょう!」

「ローラが居ない合間に結構な回数出撃要請が来てて、それを全部私だけでどうにかしたのよ? 少しぐらい休ませて」


 そう言うとルナはジャンプし、城のてっぺんまで登ってしまった。


「……すみませんルナが失礼な事をしまして」

「いえ、俺は大丈夫です」

「ルナも普段は優しいんですが……いや、これ以上は本人が直接喋るべきでしょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る