異世界と預言書
「救世主?」
「そう救世主、我が世界の預言書が告げていた異世界にいる救世主。私はその救世主を探し出すのが目的で、今その目的が果たされました」
女性騎士は恭しく片膝で礼をした。
「我が名はローラ」
「三島翔です」
「翔殿、真に勝手なお願いですか。我が国を助けて貰いたい。先ほどのような魔獣が我が国を襲っています。翔どのにはその魔獣と戦って貰いたいのです」
「でも、俺、今だって全然戦いにならなかった」
「それは戦い方を知らないだけです。それに武器も特別な物で無ければ有効な一撃を与えられません。それらはこちらで用意させていただきます。もちろん強制ではありません。命懸けの仕事になります」
「もし俺が行かないと言ったらどうなる?」
「その場合は魔力の封印だけさせていただきます。そうしないと先ほどと同じようにモンスターに狙われるでしょう」
翔は考えた。自分をゴミのように扱ってきた世界と、自分を必要としてくれる世界どちらを選ぶべきか。
「……俺は、自分が、必要とされる場所にいたいです!」
翔にとって生きているとは言えなかった。死んでいないだけだ。この選択は翔がようやく生きる自覚を手に入れる為の選択に思えた。
「戦いたいです! 連れて行ってくださいローラさんの世界に!」
「オッドもいっしょにいきます。オッドはかけるさまの、ごしゅじんさまのお手伝いがしたいです」
「ネコですか、まぁそれぐらいなら良いでしょう。別れの挨拶などは必要ですか。少なく見積もっても数年は戻ってこれないでしょう」
「……いらない」
翔にとって未練と呼べるような物は無かった。
ローラは懐から水晶玉を取り出すと、それを地面に叩きつけた。白いもやの中から城内のような場所が見れた。
「ではついてきてください」
白いもやを抜けると、そこは中世の城のような場所であった。
「私の後についてきてください。この場所は迷うように出来ていますので」
ローラの後を翔とオッドはついていく。階段を何度も登り、そして何度か下る。
「ここです。私はと共にお入りください。オッド殿はここで待機していてください」
目の前には大きな門があった。門がゆっくりと開いていく。
祭壇のような場所に一人の幼女が奉られていた。幼女は白いベールに一枚身を包んでいるだけだった。翔はその幼女のそばに近寄っていく。
門がばたんと閉じる。
「救世主か」
幼女と言うには老齢した声であった。
「はい。自分はローラさんに救世主と呼ばれここまで来ました」
「なるほど。確かにこの魔力量。間違いなさそうだな」
「あの、自分は三島翔と言います。貴方はこの国の王女様ですか」
「王女? 王女とは愉快な冗談だな。私はただの預言書よ」
「預言書?」
「そう、生きている預言書。そなたの国では珍しいのかのぉ?」
にんまり顔でくくくと預言書は笑った。
「預言とは難しくての、預言とは数ある未来の一つを見通すことしかできず、そして預言をすることにより未来が変わってしまう。しかし異世界に救世主が誕生しアストラル連合王国を救うであろう。と言う預言だけは変わらなかった。こちらにこい」
翔は言われるがままに預言書の祭壇にまで来た。
預言書にスマホみたいな物をを渡された。スマホのみたいな物には模様が描かれており、ローラが持っていた物によく似ていた。
「ふむ、まだ時が来ていないと言う事かのぉ?」
「あ、あのこれは?」
「エーテルフレーム。魔獣に対抗できる兵器よ。所有者の心と交わり武器として具現化する。しかし通常の武器と違うのは、通常の武器は使い手が武器を選ぶが、エーテルフレームはエーテルフレーム自身が使い手を選ぶと言う事だ」
「俺は救世主では無かったと言う事ですか?」
「いいや、まだ時が来ていないと言うだけ。焦る必要は無い。エーテルフレームはそなたの心を常に見ている。心が通じ合えればエーテルフレームの方からやってくるであろう」
「自分はこの国でどうすれば良いのでしょうか」
「魔法使いとして、戦士として修練を積むことじゃの。いずれ運命の方から迎えが来る。その時の為に備えておかなければならない。ローラ。翔の教育は任せたぞ」
預言書はわざとらしく咳払いをした。
「解りました。では翔殿。扉の外でメイド達が貴方を待っています。今日はもうお休みください。本格的な事は明日以降と言う事で」
翔が部屋を出て扉が勝手に閉まっていく。
「……本当にこれで良かったのでしょうか」
ローラは珍しく弱気な口調を吐いた。アストラル連合王国の騎士団長として常に騎士達の士気を高めるために強気な彼女ではあるが、翔をこの国へ呼ぶことに関しては不安があった。
「勇者にも魔王にもどちらにもなる存在である」
預言書は翔には伝えなかった預言の一説を軽い口調で語る。
その一説の為にアストラル連合王国の議会は救世主を探すか探さないかで揉めたと言う。しかし結局は国王のツルの一声で救世主を探すことが決まった。
「はい。確かに翔殿からは今まで感じた事の無い魔力や、強い運命のような物を感じます。救世主である事に間違いないでしょう。しかし―――」
「この運命は彼がつかみ取ったものだ。我らは選択を与えたにすぎん。勇者になるか魔王になるかそれをつかみ取るのも彼であろう。我らはそれをサポートすることしかできん」
預言書は口角をかなり意図的にあげた。
「おぬしの嫌いな議会その物、いやこの国自体の歪みすらも彼ならば治す事ができるかも知れん。あるいはおぬしにとっての救世主である可能性だって」
「止めてください」
「まぁ今は運命に身を任せるしかあるまい」
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