異世界で特殊部隊に選ばれました

落果 聖(しの)

アストラルの救世主

覚醒

 身体が勝手に動いていた。


 三島翔が気付いた時にはトラックは目前まで来ていた。


 なぜネコを助けようと思ったのかそれは翔も解っていない。


 しかし意外な事に翔には後悔が無かった。


 翔はいじめられっ子である。明日もカツアゲされる。生きている意味をうまく見いだせないでいた。運動神経も学業も悪くついでに目も悪かった。


 家庭環境も母子家庭で母との仲は険悪を通り越し、ほとんど無視されている状況だった。


 ならネコの方が価値があるのだろう。


 翔は走馬燈を見ながら目をつむりネコを抱きかかえた。


 金属のひしゃげる爆音が聞こえる。

 しかし何時までたっても翔に痛みが無かった。


 翔はおそるおそる目を開けると。トラックの全面部分が一部破損していたが、自分自身に痛みなど無かった。


 抱きかかえていたネコが翔の身体をするりと抜けだし二本足で立ち翔を見つめた。


「ありがとうございます! このご恩は一生忘れません」


 それだけ言うとネコは去って行った。


 翔はどうしてこうなったのかさっぱり解らなかったがとりあえずその場から逃げる事にした。


 夕方のニュースでは人をはねて破損したが被害者がそのまま逃げていったと言うニュースが流れていた。


 翔はスマホのアラームが鳴る前に目を覚ました。ベッド脇に置いてあるメガネを取ろうとしたが、とる必要が無かった。


 メガネを掛けている時よりもよっぽど目が良くなっていたからだ。


 体調も普段より優れている感覚が翔にはあった。

 どうしてなのか翔は疑問に思ったが、それより学校に行くことを優先した。


 翔には学校での友達はいなかった。翔に話しかけると言う事は不良達に目を付けられる事と同じ事である。

 それゆれに翔はいつも一人だった。


 今日は不良達にお金を渡す日だった。名目上貸しているだけだったが、一度として帰ってきたことは無かった。


 昼休み、先に屋上で待っていないと怒られるので翔は昼食を食べずに屋上で待っていた。


 今日の上納金は2万である。


 今まで貯金やバイト代でどうにかしてきたが、そろそろ限界手持ちの金も限界が近づいてきていた。


 翔は今後の事を考え憂鬱な気分になりながらフェンスによりかかった。


「ほう、貴方が昨日の英雄ですね」


 翔は驚きながら声の方を向くとカラスが一匹近づいてきていた。


「英雄?」

「えぇオッドを助けた英雄として」


「昨日助けたロシアンブルーのネコの事?」


 翔が助けたロシアンブルーのネコはオッドアイだった。そこからオッドと名前がついてもおかしい話では無い。


「そう、その通りです。ネコ達の合間どころか動物たちの合間では皆が貴方の事を話しています」


「そんな凄い事してないよ」

「謙遜なさらなくても結構です。まず動物と話せる人間など、ここ数百年おりませんでしたからね。

 人間が動物と話すには魔力が必要になりますが、そんな人間今まで居ませんでした。私も直接あって貴方の魔力量に驚いております」


「魔力?」


 翔は昨日のトラックの事を思い出した。どうして助かったのか理解出来なかったが魔力によって障壁を張っていた。


 無茶苦茶な理論だ、そう思いながらも目の前でカラスと喋っている現実を考えるのならばあながち本当かもしれないと思い始めていた。


「えぇ、膨大な魔力です。それだけの魔力があるなら肉体にも変化が現れているのでは?」


 翔の視力は0.1だ。しかし今日はメガネを掛けている時よりもよっぽど視界が良好だった。


「おやおや友達が来たみたいですよ。私は英雄と話せた事を皆に自慢してきます」


 カラスは飛び立っていった。

 翔は屋上の入り口を見る。翔をカツアゲするいつもの不良三人組が来ていた。


「おい!翔持ってきたんだろうな」

「は、はい!」


 翔は彼らに駆け寄って財布から2万円を取り出し、頭をさげながら不良のリーダーに渡した。


「2万? 今度から5万つったろ!?」


 不良のリーダーは怒声を翔にあびせる。


「そ、そんなの」

「早く5万だしな!」


 不良のリーダーが翔の腹部を狙って殴ろうとした。翔はそれがスローモーションに見えた。その軌道、動き、痛み、どうやって回避できるか、それが瞬時に理解出来た。


 翔は理解したようにパンチを避けた。


「翔のくせにふざけやがって!」


 二発目のパンチは避けずに腕を掴みその威力を使って投げつけた。他の不良達が背後から攻撃してくるのを第六感が告げていた。キックを避けてキックで蹴り飛ばすとフェンスまで飛んでいってしまった。


 もう一人の不良はその光景を呆然と見ていた。


「お、覚えていろ!」

 そう叫ぶと不良は逃げていった。


「……今まで奪いあげてきた金額覚えてない奴がよく言うよ」




 放課後、翔は一人公園のベンチに座り俯いていた。 

 トラックに引かれてから変な事ばかりである。動物と話せたり、凄いパワーで不良達を蹴散らしたり、気分は良かったが、どうしてこうなったのか納得出来ず心につっかかりを覚えた。


「ここにいたか翔」


 不良のリーダーの声が聞こえたので思わず顔を上げてしまった。


 そこにはいつもの三人以外にも多数の不良が武装して翔を囲んでいた。


「5万で許してやろうって俺様が温情をかけてやったのにぶん殴るったー良い度胸してるじゃねえか? 医療費や謝罪費その他諸々含めて50万だ。50万だしな! でないなら」


 不良のリーダーは手に持っていた釘バットを地面に叩きつけた。


「身体で払って貰うぜ」


 翔はこの状況でも冷静だった。あのバットの動きなら簡単に避けられるだろう。人数が増えた所で武器を持った所で、自分の優勢は変わらないと。


 でもなぜそう思えるのか?


 不思議ではあったが、翔は見えたプラン通りに動いてみた。


 ベンチを掴みそのまま不良のリーダーのアゴを蹴り上げて、釘バットを奪いながらベンチの後ろに着地した。


 その時だった。不良達の一人が悲鳴をあげた。


「ば、ばけものだ!」


 不良共は蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 

「な、なんだよあれ……」


 不良達が逃げ出すのも無理は無かった。体長2メートルを越えるかと言うガーゴイルである。ガーゴイルが雄叫びをあげる。


 直感が逃げろと告げる。


 しかしどこへ?


「かけるさま!」


 どこかで聞いた事のある声だった。


「みんな時間をかせいで!」


 その声と共にガーゴイルにネコたちが突撃していった。


「君は昨日のネコ!?」

「はい。恩返しをしに来ました。オッドの命はかけるさまの物です。とにかく一緒ににげましょう」


 オッドの後を翔が追いかける。しかしネコではガーゴイルの足止めにもならないのか、すぐに追いつかれてしまった。


 オッドがシャーっと威嚇するが、ネコとガーゴイル比較にならない。

 ガーゴイルが爪で翔を切り裂こうとするが、翔はそれをスレスレで避ける。


 そこから釘バットで殴打するが、石で出来たガーゴイルの身体にダメージは無い。釘バットはバラバラに砕け散った。


 勝てない。


 その時だった。

 ガーゴイルが真っ二つに切断された。ガーゴイルは跡形も無く消え去っていく。


「間に合ったみたいですね」


 そこには長い金髪をした美女の騎士が剣を持っていた。剣はスマホのような物になり懐にしまった。

 年は20~30の合間だろうが、その見た目が本当に正しい年齢かは疑わしいものだった。彼女の耳は長くとがっていた。

 エルフの特徴だ。


「探したよ。救世主」

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