オッドは人間でありたい

「殲滅作戦か」


 翔は自室のベッドに倒れ込みながら呟いた。


「なにかあったんですか?」


 オッドはすでにネグリジェに着替えて寝る準備万端であった。


「……何かあったって言うならオッドの方が何かあったんじゃないか? その手袋どうしたんだ?」


 オッドの手には普段されていないシルクの手袋がされていた。


「なんでもないです」


「寝るときにまで付けるのは変だろ?」


「ごめんなさいごしゅじんさま」


 そう言いながらオッドは手袋を外した。オッドの手首から先には獣の様な毛が生えていた。


「オッドはもっと人間みたいな姿でいたいのです。こんなのごしゅじんさまにみせたくなかったのです」


 オッドは泣きながらそう答えた。


「ほら大丈夫だからそれで嫌いになったりしないから」


 翔は覚悟を決めて立ち上がるとオッドを抱きしめた。

オッドは柔らかく暖かった。翔は左手で腰を抱きかかえて右手で頭を撫でた。猫耳の部分に手が触れるたびにオッドの猫耳がびくんびくんと跳ねた。


「ほら、嫌いになんてなってないだろ」

「はい。ごしゅじんさま」


 翔はオッドを抱きしめたままそのままベッドに倒れ込んだ。


「オッドが不安だと言うのなら俺だって不安な事ばかりだ」


「オッドで良ければごしゅじんさまのお話を聞きます」


「魔王崇拝集団の殲滅作戦をやることになった。人を殺すかも知れない。でもちゃんと殺せるか不安なんだ」


「出ない事はできないんですか?」

「黒髪の乙女の情報が手に入るかも知れない」


「くろがみのおとめ」


 オッドの猫耳がぴくりと動いた。


「あぁ、そいつがカーディフに力とエーテルフレームを与えた張本人にして魔王みたいなんだ。カーディフは今地下牢で正気を失ってモンスターみたいに唸ってる……オッド?」


「は、はい」


「ごめんな任務の話なんてしてもオッドにはつまらないよな」

「……オッドはごしゅじんさまと話すのが好きなんです。それにオッドはどんなときでもごしゅじんさまのみかたです」


「ありがとう」

「はい……」


 翔は部屋の灯りを消した。




 翌朝翔が目を覚ますと、オッドにネコのヒゲが生えていた。毛も肘から先の部分にまで毛が生えている状態だった。


「……オッドはもっと人間みたいな姿がいいのです」

「俺は気にしないけどな。オッドは可愛いよ」


「そんなに気を遣わなくてもいいのです。オッドは醜くなっているのです」

「ほら元気出してくれ」


 そう言いながら翔は後ろからオッドを抱きしめるが、それでもオッドの気力は出てこなかった。


 そうとう重傷のようだ。


 だからといってずっとオッドの世話をしているわけにもいかない。


「俺は一足先に朝食行ってくるからな」

「オッドも少ししたら行きます」


 翔が扉を閉め朝食を取りに行く。


「黒髪の乙女」


 オッドは毛だらけになった自分の手を見つめながら呟いた……




「オッド殿がそのような事になっていたのですか」


 翔は朝食を食べながら、ローラにオッドの様態について話した。


「しかし獣人族でも毛の密度と言う物は千差万別ですからね。人間に尻尾が生えてるだけなのも居れば、全身に体毛を生やしてるようなのまで、それにオッド殿はまだ成長途上ですし、それ自体が異常とは思えません。もっとも、異世界の猫の話ですと誰も解らないでしょう」


「そうなんですよね……」


 オッドは翔に気合で変身したと言ってしまった。黒髪の乙女に喋ったら灰になると言われた以上オッドには嘘をつく選択しかでき無かった。 


 オッドが遅れて朝食を取りに来た。メイド服にシルクの手袋。


 オッドは普段の元気さもなく、淡々と食事をとった。

 翔とローラも何を話していいか解らず、気まずい食事になってしまった。




 ローラが黒いゲートを切り裂く。魔獣の狙いが完全にマナ管理用の塔に絞られていたので対処するのも容易であった。


「これでいいのでしょうか?」


 翔は疑問を口にする。確かに被害は最小に抑えられ、ドラゴンロアー部隊としても役割を果たしている。しかし違和感があった。


「来週の計画で全てがハッキリするはずです。それまでの我慢です」


 いつもならロベリアが司令室まで三人をテレポートをしてくれるはずだが、なぜか今回は遅かった。


「ロベリアの奴さぼってるの? ここから城まで歩くとどれぐらいかかるか解らないわよ」


 ルナがため息をつきながらその場にあった。階段に腰をかける。


「塔が壊された弊害とか?」


 翔も隣に腰掛ける。オウムが翔の肩に止まった


「皆いるな、悪い事態が起きた」


 モーセの声だ。


「ロベリア殿に何かあったからテレポートが出来ないと言う事ですか?」


「そうだ。ロベリアが無許可のエーテルフレームを所持していたと言う事で逮捕、拘束されている。もちろん私は信じていないがね」


「たぶんそのエーテルフレームは俺のスマホです。カーディフとの決闘でフェイクとして使った奴をロベリアに修理して貰おうとしてたんです」


「そうか、それでロベリアの罪状がそう言う物になっていたのか、今回の問題はロベリアがエーテルフレームを所持していたかどうかでは無い。

 エーテルフレームかどうかは預言書が見れば一発で解る。問題はそこから余罪として黒髪の乙女に仕立てあげられる可能性だ。

 そうなったらドラゴンロアー部隊の解体もあり得る。特にカーディフと直接決闘を行った翔がどのような処遇を受けるか想像が付かない。死ぬよりも酷い状況を想定してもらうぞ」


「それで私たちは馬車でも拾って帰れば良いんでしょうか?」


「いや、事態が変わった大至急戻ってこい。城内に黒いゲートが出来た。地下の大広間に来るんだ。」

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