円卓議会

 急遽開かれた議会は緊迫したムードに包まれていた。


 急遽登場した魔王は預言書にすら記されていなかったからだ。


 救世主である翔が魔王と判断し、状況的にも魔王であろうと言う状況証拠しか無い。しかし少女の後ろに何か身を守るような物もとくに無い。


 少女の運命は円卓の上にのせられていた。天秤が少しでも傾けばミリアは殺されるだろう。


「まさか魔王が捕獲できるとはな」

「黒髪の乙女、エデンレジデンツ、そしてミリア。他にも魔王がいるのでは?」


「魔王はすぐに殺すべきでしょう。幼い子供とは言え、魔王である証拠さえきちんと出せば国民は納得します。いえ、秘密裏に処理することも出来るでしょう。あの時の現場にいたのはドラゴンロアーだけの筈では」


「いや、エデンレジデンツとおぼしき三人組も魔王に接触を図ろうとしていた」

「ならエデンレジデンツの上層を捕獲するのに使えるのでは?」


 生かせるべきか逝かせるべきか。議会は混迷におよんだ。

 議会はすでに3時間を越えた堂々巡りを何度もし、議員達も疲れ切ってしまっていた。


 しかし議会は徐々にではあるが穏健派に傾きつつあった。


 魔王である以上殺すべき。

 魔王崇拝を禁止するのにその魔王を殺さず生かすのは魔王崇拝そのものだ。

 魔王は存在その物が危険で有り、いまこの瞬間にもまた魔力の暴走を起こしたり、魔獣や魔人を作るかわかった物では無い。




 円卓議会の扉が開いた。

 円卓に座る全ての議員が、扉を開いた主を見つめた。


「俺が責任を持ってミリアの世話をします」


 翔だった。

 翔はローラから円卓議会の場所を聞き出して強行突入した。


 衛兵達が翔を槍で止める。


 この時点で打ち首にされても文句は言えない。王が衛兵達に指図して、静止を止めさせ入場を許可した。


『翔殿が処罰される可能性もあります』


 ローラはそう言って、最初は教えようともしなかった。しかし数時間に及ぶ説得の据え。


『翔殿の可能性に賭けましょう』


 ローラは円卓議会まで連れて行ってくれた。


「俺のエーテルフレームならミリアからマナを引き出して普通の人と同じように出来ます。吸い出したマナはアストラルの地脈に戻して再利用します。ドラゴンロアーの部隊に彼女を加えさせてください!」


 議会は一気にざわついた。翔の登場と翔の言うドラゴンロアー部隊への編入は議員は当然としてモーセもアストラル王もそのような事を考えて居なかったからだ。


 魔王から首都を防衛する部隊に魔王を導入する。間違い無く大幅な戦力の増強になるだろう。


「魔王を戦力にするだと?」

「何時裏切るかわかった物では無い」

「救世主と言えどそれは許される発言では無い。救世主殿は勇者ではなく自らが魔王になろうとしているのでは」


「黙れ!」


 アストラル王は議会のざわつきを止めるために机を叩き付けた。


「翔、お前は知らないのだな」

「何をですか?」


「マナのエーテルフレームは昔私が使っていたエーテルフレームだ」

「それならば、なぜ黒髪の乙女が使用していたのですか?」


「あのエーテルフレームが私を裏切ったからだよ。あれは裏切りのエーテルフレームだ」


 アストラル王はわざとらしく笑った。


「あのエーテルフレームが重要な局面で私を裏切った。その結果私は多くの戦友を失った。しかし黒髪の乙女を裏切り、翔の手に来た。不思議な運命だな。救世主よ。簡単な計算だ。一つの命で百の命が守れるのだ。殺すほかあるまい」


「その命に罪がなくてもですか」


「そうだ。それが王のやることだ。命を数字として扱い、より多くの命を助ける為に少ない命を殺す。国民の幸せの為には魔人だろうと人だろうと子供だろうと容赦などせん。何時か救世主である君にも解るときが来るだろう。」


「俺はお前みたいにならない!」

「何時か私と同じ道をたどるだろう。私も昔お前と同じような口論をしたことがある。まるでその瞬間を繰り返し見せられている気分だ」


 王と翔の視線が交わる。それは戦士と戦士の戦いの合図にも思えた。


「まだ魔王を寝かせている時間はあるんでしょ?」


 剣呑とした空気の中、あくび混じりでメヘルは答えた。

 円卓議会には全ての議員が出ているわけでは無い。メヘルはその筆頭としてあげられた。王子と言う立場にあぐらをかく道楽息子と言うのが議会での共通認識だった。


 今日来たのも暇つぶしだろうと議員のほぼ全員がそう思っていた。


「いやぁー久々の緊急議会だから暇つぶしに来てみたら面白い物が見れたよ。どうせまだ魔王は寝てられるんだろ? オヤジさぁ。預言書に聞いてから判断しても遅くは無いだろ。

 それにさ。てきとーに聞き流しているだけでも滅茶苦茶疲れちまったよ。ここは一回休憩取ろうぜ。それで預言書の発言を聞いてからまた開けば良い。その合間はドラゴンロアーが責任持って魔王を監視する。それで良くね?」


 アストラル王はメヘルを睨みつけたが、メヘルはにっこりと笑顔で手まで振っていた。


「確かに疲れがたまっている。皆が一度自らの考えを整理するのはいいかも知れんな。一度議会を閉めよう。その合間にしっかり休養し、自らの意見をまとめて貰おう。次の議会には救世主の出席を特例として認める。次の議会は早朝から行う。それまではドラゴンロアー部隊で魔王を監視する。モーセもそれで良いな」


「……了解しました」

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