もう一人の魔王

 保護した少女は城内のメイド達と医者にまかせ、三人はドラゴンロアーの司令室に急いだ。


 ドラゴンロアーの司令室では深刻そうな顔をしたモーセが待っていた。


「皆すまない。当面の合間使い魔は使用禁止だ。それに伴ってテレポートも禁止だ」

「何があったんですか?」


 ローラはモーセに詰め寄った。


「エデンレジデンツも使い魔のハッキングを始めた。我々の会話が全て彼らに漏れる可能性がある。テレポートの技術は奪われていないがそれが奪われる可能性も考慮して当面は使用禁止だ。打開策についてはオッドに頼んでロベリアに尋ねて貰っている」


「ちょっと待てよ! それだとオッドが危ないだろ!」


 オッドはネコに戻る以外の魔法を知らない。当然襲撃を受けたら抵抗など出来ないだろう。


「オッドは我々の切り札だ。この国の動物全てが使い魔と言う訳では無い。当然ただの愛玩で飼われている事もある。そういったネコは元から魔法使いと通信していないからハッキングのしようが無い。そしてネコであり人間でもあるオッドならロベリアとの伝令も可能だろう」


 扉をノックする音が聞こえた。


「オッドだけ入ってくれ、名前は知らないが、ロベリアに雇われた冒険者さんありがとうこれからはこちらの問題になる」


 メイド服を着たオッドが入ってきた。オッドの手には前に翔がロベリアに渡されたのと同じような水晶があった。


 前回と同じようにモーセが機械から暗号を解読していく。


「いつも通り使い魔を使って君達の戦いを監視していたらしいが、その監視しているという情報が外部に漏れていた。その漏れからエデンレジデンツが少女の強奪に動いた。下手に動くとさらに漏れる可能性があった為に支援は一切しなかった」


「ならあっさり手を引くのはおかしくありませんか?」

「そうせかすな翔」


 モーセは水晶玉に手をかざす。


「もしも少女を城で保護するのならば、その時に殺す事も強奪することも可能である。その為、無理はせずに少女をドラゴンロアーに保護させた……」

「それは城が彼らの根城になっていると言う事ですか?」

「上層部が食い込んでいる以上。円卓議会を操作して少女をどうすることだって出来るだろうが……しかし殺すべきだろう」


 モーセは淡々と告げた。


「どうして殺すんですか! 彼女が魔王だからですか! 彼女は事故の被害者でしかない!」」

「あぁ確かにアストラル王が若い頃を思い出すよ」


 モーセは激情する翔とは裏腹に水晶の情報を読み続けていく。


「少女の名前はミリア ティボレット 獣人の子だな。両親共に獣人の純粋な獣人で、親は靴屋を営んでいたらしい。今回の魔力暴走事故で亡くなったのはその両親二人のみだ。親戚等の情報も洗ったらしいが、特に居ない本来だと孤児院行きになるだろう。ミリアは今の所精神その物を衰弱させて強引に眠らせているんだな?」

「はい。魔力を暴走した時の演習通りに精神を止めています」


 ルナが答えた。


「そのまま精神を止めていくわけにはいかない。肉体の方が死ぬからな。しかし起きて貰わないと衰弱死する。本来なら記憶改ざんを行って徐々に精神を戻していくのだが、魔王にそれが通用するかどうかが不明だ。城内で子供とは言え魔王だ。魔力をまた暴走させた時にまたどうなるか解らない。エデンレジデンツがご神体として祭り上げる可能性もある」


 翔はこの少女を守りたかった。確かに両親を殺したかも知れない。しかしそれは本人が望んだ訳では無い。本人が力を望んだ訳では無い。魔王になりたかったわけでも無い。


 それなのに大人の都合だけで殺すだの奉るだのと言った事が許せなかった。さて緊急議会の時間だ。今回の資料は議会で出すわけにはいかない。ロベリアが必死になって守った情報だ。エデンレジデンツに対する武器になる。




「なるほどね。ご苦労様、もう下がって良いよ。失敗は誰にでもあります。貴方達の可能性は私が保証します。なので今回の事で気を落とさないください」


 仮面の男は恭しく頭を下げている三人に向かってそういった。

 三人の男達は礼だけして何も言わずに帰っていった。


 男達からしてみれば魔王の確保という重大な任務を失敗したのに、特に罰則も無いどころか励ましの言葉までくれる優しい君主に映った事だろう。


 しかし実際は失敗することが織り込み済みの任務である。


「ほんとにこんなでいいのか?」


 仮面の男は何も無い場所に話しかける。


「何も問題無いわよ。ドラゴンロアーはロベリアのシステムで運用されている。そのシステムをこっちも使えるとデモンストレーションするだけで彼らは運用を中止するしか無いでしょう。それに新しい魔王は私たちの思うとおりにいくわよ」」


 壁からエルフの少女が現れた。少女は茶褐色のショートカットで人としてはあり得ないマナを保有していた。


 魔王である。


「大体魔王は君一人で十分じゃないか。何で他の魔王がいるんだい?」

「王子がいっぱい居るのと一緒よ。王位継承権第四王子のメヘル王子」

「まぁ僕は愛する君を信じるだけさ」


 仮面の男はエルフの少女とキスを交わした。


「私は貴方を王にするだけよ」

「魔王でも王じゃないか」

「それなら貴方だって魔王がすでにいるのだから玉座なんて要らないでしょ」

「いいや、君の力無しじゃ玉座は取れないよ。アーカーシャは長男だからって理由で次の王に成るわけじゃないアイツは優秀なんだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る