王の選択、翔の選択

 モーセと共に翔はミリアの護衛として病室に向かっていく。


「私はお前が王を殺すのかと思ったよ」

「王の言ってる事が正論な事ぐらい俺にも解りますよ」


 魔王なんて不穏分子を排除したい。


 地球に居た時の翔にも同じような事があった。原発である。原発の電気は確かに人々の生活を豊かにした。しかし事故によってメルトダウンを起こし、人々が原発に猛反対を起こしていた。

 当時の翔は他人事のように思っていた。

 電気代が上がるとか、そういうのは気になったが、今まで使ってきたのに急に態度を変えるのはおかしいだろ。それぐらいでしか無かった。


 しかし今の翔は原発よりもよっぽど厄介な物を擁護している。原発がメルトダウンを起こしたと被害よりも、ミリアが魔王になった時の被害の方がよほど大きいだろう。


「それでも俺は彼女を救いたかったんです」


 翔に父親は居なかった。それは子供の頃翔が不注意で車道に出たのを父親が助けたからだ。そこから母親と翔の関係性は崩れていった。


 ミリアは同時にその二人を失った。

 そんなミリアを翔は大人の都合で殺させたく無かった。

 幸せにできなくても不幸だったとは思わせたくなかった。


 後悔だけはしたくない。


「昔、王が言っていたように同じような事が起こったんだ。部隊長が女の子を見殺しにしようと判断したんだ。その子さえ見殺しにすれば部隊全員の安全を保証されたからだ」


「王はどうしたんですか?」


「部隊長を殺して自らが部隊を率いて戦ったよ。多少の被害は出たが女の子は助かった。そしてその女の子が助かった事によってその局地戦は勝利を収めることが出来た。たしかに翔と王は似ている。そして決定的に違っている。今はミリアの様態をみようじゃないか」




 病室にはローラ、ルナ、オッドがすでにいた。ミリアは眠っていると言うよりも死んでいる用に見えたが、これは精神処置の副産物らしい。


 モーセがミリアの顔を覗き込む。


「精神操作するなら私の孫と言う事にしてくれ。この年までずっと民のために尽くしてきたからな。人並みの幸せという物を知りたいのだ」

「だったら結婚すれば良かったでは無いですか、文官よりのモーセ殿には私よりもその可能性があったでしょうに、あと私はお姉さんでお願いしますね」


 ちゃっかりと自分の要望も付け加える辺りローラも抜け目なかった。


「お前が王と私の同時告白を同時に拒否したあげくに、剣で斬りつけようとしなければお互いに可能性はあったんだがなぁ」

「……今あの瞬間に戻ったとしても同じ行動をしてますよ。どの選択をしても幸せからはほど遠いと思いますしね」


「オッドはごしゅじんさまとの夫婦でいいですか?」

「をぅぁ!? をあ!!!」


 強引に言語化するとこのような発言をルナはしていた。


「おかしいでしょ!」

「なにがでしょうか?」


「いや、その設定! どう見ても兄妹が限界でしょ!」

「頑張って産んだことにします」


「いや、そういう細かい設定とか要らないわよ! と言うか貴方が要らないわよ!ドラゴンロアー部隊では無いでしょ!」


「あの二人とも?」


 オッドとルナの両名に睨まれた。女の戦いがそこにはあった。翔はただ萎縮して嵐がすぎさるのを待つしか無かった。


 その激論と言えば、円卓議会の討論など子供の遊びだと言わんばかりのものだった。お互いにお互いの知略をつくし、よりどういう立ち位置にいるのがミリアの為になるのか、モーセとローラに説明していた。


 なお翔は完全に眼中に無かった。


 妥協につぐ妥協。


 オッドは乳母、ルナは姉と言う事で手が打たれた。ルナはドラゴンロアーとしていつ戦場にでるか解らないからである。




「そなたも随分と日和見になったのぉ」


 預言書はうんざりした表情をしながら王に預言を告げていた。預言は何も変わっていないと。


「私だけの問題では無いからな。昔とは何もかも違う」

「そうかのぉ。変わったのはそなたの方かとわしゃ思っておるがの」

「そうか私も老害か」


 魔王を殺すのと、国を治めるのでは話が違う。それらは全く違う才能が問われるが、しかしながら当時の状況は魔王を倒したアストラルこそがこの大陸を納めるべきだ、そう言う意見が大半だった。勇者から王へ変わるしか無かった。


「預言など、しょせん預言。後から考えてみればあっていたような気がする。その程度のものよ。そのような物にすがらなければならん時点で、そなたには昔あった物が無くなっている」


「私は翔に何時かお前も私と同じ道をたどるだろうと言ってしまった。私はあの道に戻ることは出来るのだろうか」


 アストラルと呼ばれていた頃は、欲しい物を手に入れる為に戦ってきた。

 王と呼ばれる今では守るべき物の戦ってきた。主に円卓で、しかし守る物が多すぎて身動きなど取れない。


 ただ人に指図し、命を数字として扱う。


「誰もいまのそなたにそんなことは求めてはおらん。翔に王であることを求める物がおらんようにな」




 円卓議会は今までとは違った緊張に包まれていた。実質的には王と翔の一対一の対決で有り、議員達はそれを見守る観衆でしかなかった。


「預言は特に変わってはいなかった。これからの戦乱と、救世主の預言。私は王になってからずっと国を守る事を考えていた。

 それが王として求められていたからだ。

 魔王を殺す勇者と全く違うと言うのに。

 翔よ。お前の選択を信じてみよう。

 お前の危険を私も同じく背負い込もう。それによって守られるはずだった命の責任は私が取るのだろう。

 しかし皆考えてみよ。

 私一人の命で皆が納得するなら安い物だろ。

 私一人いなくとも、議員や次期王のアーカーシャがいる。私がいなくても国は成立するのだよ。しかし救世主は翔一人しからず、その救世主を呼び込むことにしたのも私だ。

 お前の選んだ運命。私も共に選ぼう。

 魔王の命はお前に預ける。それで良いな。しかし何かあったとき、お前も私も断頭台に立つ覚悟はあるか?」


 翔はアストラル王の瞳を見た。王の瞳には強い意志を持った翔が映っていた。


「断頭台になど立ちません。ミリアは俺が守り切ります。例え命に替えても」

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