ミリア ティボレット

「放っておけばオヤジと救世主両方死んでたかも知れないのに何で止めなくちゃいけないんだよ」


 メヘルは文句を言いながらエルフの魔王の尻を触った。そう言った性的な言動や行動が多いのは父親譲りだろう。


 ここはメヘルの私室である。メヘルが女を囲っているのは有名な話なので、今更それが誰であるか等誰も気にはしていない。

 娼婦を適当に招くこともあるし、良いところの貴族の娘に手を出すことだってある。なおルナ ホーリードラゴンの攻略には失敗している。


「まだそういう事をするには時間が早いわよ。それにもっと多くの人間がこれから死ぬわ。断頭台に救世主と王が乗ることは無いわ」


「どういうことだい?」


「この国を滅ぼそうとした救世主と王を倒した貴方が玉座につくだけよ。そうなればアーカーシャなど敵では無いでしょ。それにどう転がってもこちら側がうまくいくわ。通る道が違うだけ。最期は結局一緒よ」




 目を覚ましたミリアは何も語らなかった。魔力暴走の緊急処置後の起床は、意識が混濁としているためあまり不思議な事では無いらしい。目覚める前にミリアから生きていくのに必要最低限のマナだけ翔が搾り取っており、魔力によるアシストが一切使えない。その為ミリアは病気で今入院していると言う設定になった。


 どこも見つめないミリアをロベリアを除くドラゴンロアーの皆が見つめる。


「しょくじを持ってきました」


 オッドがミリアの為の食事を持ってきた。と言っても一般兵士に支給される食事の量を子供に合わせて減らしただけの物だ。


 ミリアは出された食事を見た後にオッドの顔をもう一度見た。


「ミリアが食べてもいいんですよ」


 その一言を聞いてからミリアは食べ始めた。


 とりあえずは大丈夫そうであると判断し、この場をオッドに任せてドラゴンロアーの皆々は撤退した。




「またすぐ訪れて悪いな」


 翔はローラに頼んで預言書の所に連れてきて貰った。これから何度もミリアからマナを大事に戻す作業をする事になる。その為に何度もエーテルフレームを展開することになる。


 子供相手に刀を持って構える。

 どう考えても危ない人だった。


「私はずっと暇なんでな。居着いても良いぞ」

 

 預言書は軽口を叩きながら何かを投げ渡した。


「持っておけ、カーディフが使っていた氷のエーテルフレームだ」


 翔は試しに開放してみた。カーディフが持っていたエーテルフレームと全く違った形状に変化した。ククリナイフの形状である。


「……何でこの形?」

「相性としか言えんのぉ。姿形を変えるにはエーテルフレームに心を認めさせる必要がある。当面はその形でがまんせえ。そいつは裏切りのエーテルフレーム。マナのエーテルフレームが使えなかったときの近況に使え」


「何かの預言ですか?」


「わしにも先が見えん。見るたびに預言が変わる。こんな事はかつて一度も無かった。そなたがこれからする選択によって運命が決まるのであろう。そして何を選択するのかを決めていないからこそ預言が変わり続ける。解らん以上用心は大事じゃろ?」


 裏切りのエーテルフレーム。確かに黒髪の乙女を裏切り翔の手に来た。


 そして王の手から離れていった。


 どうして裏切ったのか。どうして翔を選んだのか。


 しかし翔はこの裏切り者を信頼したかった。

 自らを最初に認めてくれたエーテルフレームだからだ。


「解りました。後エーテルフレームの形をまた変えて貰ってもいいですか?」

「変えてやるからさっさと要望いってくれ」




 ミリアが目覚めてから三日、ミリアが中々喋らない事が精神処置に何か問題があったのではと不安視されていたが、単純に元から無口な性格だと言う事が発覚した。


 ベッド脇にはオッドとルナが容易した童話集と絵本などが置かれている。絵本が好きというよりは絵が好きらしく。気に入ってるページをずっと眺めていたりしている。


 翔がミリアのマナを見る。やはり徐々にではあるが増えている。だがそれでも通常の子供よりも低い数値だ。


 明日辺りにはエーテルフレームで大地に流さないといけない。

 ミリアのベッド脇に置かれている童話集を翔は手に取ってみる。この世界では魔法原語と言うのが基本的な原語になっている。筆跡にも魔力を使うことによって、相手により正確なデータを伝えることが可能な原語だ。これによってオッドも何の不自由も無く会話している


 しかしその結果だろうか。


 童話集で書かれている童話が翔が地球上で見たことのある童話にしか見えなかった。細部は違うが、シンデレラ、白雪姫、眠れる森の美女などの童話が載っていた。


 翔はアリとキリギリスが地域によっては別の虫になっているという話を聞いた事を思い出した。


 これもそういうことなのだろう。と勝手に納得した。


「本好きなの?」


 ミリアは少しだけ目線を合わせてこくこくと頷いたと思うと、すぐに目線を本に戻した。


「何の話が好き?」

「白雪姫」

「白雪姫か」


 ミリアはこくりと頷いた。

 自らのコミュニケーション能力のなさに翔は絶望した。小さな子供とすらまともにコミュニケーションが取れない。


「うん。ハンターとか小人さんたち王子様が助けてくれるのが好き。みんな助けてくれるお話」

「そう言えばそうだな」


 悪役と言えば王女だけだったはずだ。それ以外は皆白雪姫に協力的だ。

 しかし現代風に言うのなら容姿に恵まれていればそれだけで人生イージーモードってだけの話だぞ。と翔は言いかけたが子供の夢をぶち壊してどうする。


「読んで」


 ミリアに一冊の本を渡された。絵本だった。

 3匹の山羊のガラガラドンを何となく連想させる内容だった。翔はミリアのすぐそばに座って絵本の絵がよく見えるようにしながら絵本を読み聞かせた。


「お兄ちゃん」


 絵本を読み終わるとミリアが顔を見上げてきた。


「私もトロール倒せるようになるかな」

「倒したいのか?」

「うん!」


 両手をぎゅっと握って妙に気合が入っていた。


「助けて貰いたいし、助けて貰ったら恩返ししたい。だからお兄ちゃんに読み聞かせしてあげる」


 ミリアが選んだ本は眠れる森の美女だった。ミリアがゆっくりと語るのをベッドの脇で翔は聞いていた。

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