ミリアと王と魔法

 誰もが寝静まった時間、オッドと翔はミリアの病室に入った。

 開放されたマナのエーテルフレームをミリアに当てる。


 エーテルフレームは剣の持ち手の部分だけになっていた。預言書に刀身の部分は可変しきにして欲しいと頼んだのだ。

 持ち手だけのエーテルフレームをミリアに当てる。そこからマナを大地にながしていく。


 それが終わるとすぐにオッドと共に病室を抜けていく。


「本当にこれで良かったんだろうか」


 翔は自問自答する。何時までミリアを騙し続ければ良いのだろうか、騙されたと理解したミリアが魔力の暴走を起こすのでは無いか。


「ミリアの命をたすけるにはこれしかなかったのはごしゅじんさまが解ってると思ってます」

「オッド」

「ごしゅじんさまは何もわるくないです。ごしゅじんさまはオッドのことをたすけてくれました。オッドのことを助けられたごしゅじんさまならミリアのことだって助けられます」


 オッドは翔のことを抱きしめた。


「だからオッドはごしゅじんさまのことをたすけたいのです」

「ありがとう」

「でも、俺はミリアを騙し続けている」


 翔にはミリアが今後どうなるか解らない。勢いだけでドラゴンロアーに入れると言ったが、両親を自分で殺した現実と、この虚構しか無い世界とどうやって幼い少女が折り合いをつけるのか、翔はただ、上手くいくことを願うしか無かった。




 病室にはインコ(らしき生命体)が置かれる事になった。世話をするのはネコのオッドである。地球的には二人仲良く喧嘩しそうな組み合わせである。


 発案者はルナだ。ミリアが病室の窓から外を覗いて鳥を眺めていたのを見て取り寄せたらしい。幸せの青い鳥もミリアが好きな絵本の一つだ。インコは使い魔としても使われる事の多い鳥のため、使い魔にされないように厳重にチェックされた上でミリアの病室に置かれた。


「アニマルセラピーって奴か」

「地球にはそんな鳥を使った魔法でもあるの?」


 ルナは不思議そうな顔をしながらミリアと一緒にインコを眺めていた。


「いや、動物を飼育することによって心が安まるって事らしい」

「おいしそうにしかみえません」


 オッドの不穏な発言に翔もルナもミリアも見た。


「オッドちゃん。ピピル食べちゃうの?」


 ミリアが今にも泣き出しそうな顔で尋ねた。


「じょうだんですよ」


 オッドがにこやかに答えたが、絶対に嘘だと翔は確信した。


「食べるなよ」


 翔はオッドに耳打ちする。


「がんばります。どうしても見てると本能が……」




 訓練場にて翔は右手の人差し指でマッチ程度の炎を出しながら、左手を稲妻覆うっていた。同時に別のイメージの魔法を使う高度な技術だ。


「そろそろ新しい魔法を覚えてもいいんじゃないかしら?」


 翔とローラの特訓を眺めていたルナが横やりを入れた。


「そうですね。突然ルナ殿が語り始めたのに、魔法は一切乱れませんでした。翔殿の魔力のコントロールは現状で十分でしょう」

「成長速度を見てると、神童と呼ばれて育った私が馬鹿に見えてくるわ……」


 そう言いながらルナは少し拗ねていた。


「そんなに俺の成長速度って凄いんですか?」


 女の子との訓練(と言うなのオッドと一緒に遊ぶ)ばかりで翔は魔法に関する訓練を日中にしか行っていない。


「凄すぎて比較対象がありません。本来なら魔法使いとして十年以上かかる基礎訓練をもの三ヶ月で終わらせたのですから」

「三ヶ月」

「えぇ、本来なら三ヶ月で翔殿が最初に行った魔力量の調整を習得するぐらいです。魔法を使うのは簡単ですが、それを正確に使う技術は非常に難しいとされています」


「それで次の魔法どうするの? 簡単なのだったら応用は利かないけど全部使えるんでしょ?」


 翔は最初から全ての属性の魔法を使っていた。しかし使いこなしてはいなかった。使いこなせる魔法は未だに稲妻関連の魔法だけだろう。


 その稲妻を選んだ理由も今では消失してしまった。


 翔は使いたい魔法について悩んでいた。まさかインターネットに繋がる魔法が欲しいなど言った所で説明しようがない。実践的な魔法に関しても、魔法で戦うよりも直感的な未来視を頼りにした戦法の方が翔は好みであった。


 ローラとルナが好き勝手に次に習得する魔法を上げていく中。


「なら少し私と遊んでくれんかね」


 三人が声のする方を一斉に向いた。

 アストラル王だった。


「議会が早く終わってね。エデンレジデンツに関しても手詰まり気味だ。良くない状況ではあるが、時間ばかりがあまっている。それにクラッキングゲートの時と同じように私が出陣する事もあるだろう。それとも救世主には私程度の相手では不満かな?」

「いえ、是非やらせてください」


 翔は即答した。


 アストラル王とモーセがケルベロスを倒していた時を翔は思い出していた。すでに初老に入りかけているとは思えない動きをしていた。


 第二次魔王大戦の英雄にして現国王。


 そんな人が自らと練習試合を申し込んできている。

 拒否する理由など翔には無かった。それにモーセからも王と戦って欲しいと言われていたのもある。


「エーテルフレームはお互いに使用禁止だ。我々が使うと殺し合いになりかねん。あくまで練習試合だ」

「魔法はどうしますか?」

「怪我をしない程度にお互いに加減する程度でいいだろう。現役を引いた身だが、まだ若いのには負けんさ。それにルナ嬢がいる。即死しないかぎり大丈夫だろう」

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