翔VS王


 お互いに一般兵士用の剣を手に取り、練習試合が始まった。


 試合が始まる前から翔は今までに感じた事の無い何かがあった。恐怖や不安とは全く違う何かとしか表現しようが無かった。


 しかしそれは試合を始めた瞬間に答えになった。


 翔の持つ未来視は同時に二十四の未来を想定していた。そしてどの未来からも勝利は見えてこなかった。

 翔は強引に引っ張られ王に頭をたたき割られそうになったのを剣で防いだ。後方に跳んだが、その先にはすでに王がいた。

 王の動きを妨害するように稲妻を放つと、見えていた未来の可能性全てに稲妻を落とした。その時点で見えていた未来は72を越えていた。


 瞬間移動の魔法。


 ドラゴンロアーでも瞬間移動の魔法を使っていたが、あれはアストラルの地形を活用した首都防衛構想とロベリアの支援があって初めて成立する。


 しかし王は短距離とは言え、瞬間移動を何度も行っている。しかもその行き先をかなり細かく指定できる。


 そうでなければこんなにも未来を同時に見ることはできないだろう。


 翔の見ていた未来自体はあたっていた。しかし王は稲妻を剣で軽くはじいていた。


「これならケルベロスの方が強かったな」


 未来視に頼っていては勝てない。翔はそう判断した。しかしそれは同時に王の行動を正確に当てる必要があった。


 たった一つだけ確実に王の取る行動があった。翔はそれに全てを賭けるしかなかった。


「とは言え、久々の戦い楽しかったぞ」


 翔の目の前から王が消えた。

 全てはタイミングだけの問題だった。

 翔は王が自らの背後から剣を振り下ろす可能性に賭けた。

 そしてその自らの身体に触れた瞬間に、自らの身体に最大威力の電流を流した。




「馬鹿じゃないの!」


 翔は気付いたと思ったらルナの泣き顔と全力のビンタでぶたれた後に思いっきり抱きしめられた。


「練習試合で自爆そのものな戦略とるなんてありえないわよ! ばか! ばか! ばか!」


 胸元で泣かれたのでしょうがなく翔はルナの頭を撫でた。


「そうでもしないと王に勝てないと思ったんだ」

「自爆の時点で王に勝ててないでしょうが」


 ローラは頭を抱えていた。


「ところで王は?」

「呼んだか?」


 アストラル王はピンピンしていた。先ほどまで練習試合をしていたとは思えない。


「私の方が先に回復したからな。先ほどの試合から一時間はたっているぞ。

 全力を一瞬でたたき込むその度胸気に入った。

 確かに剣で斬りつけなければ練習にならんからな。しかし問題はお前は身体で剣を受けるが、こっちは剣を通しての間接の上に魔力での強化が上乗せできる。対してお前は魔力全てを魔法にしかもあたる一瞬に賭けなければならない。当然魔力による防御は落ちる。しかしその勝利への執念私は敬意を表す。王としてではなく。同じ戦士として」


 アストラル王が手を伸ばし握手を求めた。翔もそれに応じて手を握った。


「お前は私と違ってもっと強くなれる。私はもう衰えるだけだ。そして、私を傷つけた奴は王になってから初めてだ。

 モーセ、アリゲス、ローラとも何度か練習試合をしているが、誰一人として私を傷つける事は出来なかった」


「でもルナの言うとおりです。自爆で傷つけてもそれでは意味が無いです」


「そうだな。しかし傷を付けたと言う事実に変わりない。確信に変わったよ。翔お前ならこの世界を救える。今の私ではこの国を守ることしか出来ないだろう。しかしお前なら変えていける。さて、そろそろ職務に戻らないと流石に怒られるな」


 そう言うと兵士用の剣を地面に刺し、王は姿を消していった。




「王が使ってた魔法使いたいの?」


 泣き止んだルナがくさい物でも見たような顔をして翔を見た。


「あれと同じ魔法が使えれば王に勝てるだろ」


 直感的未来視でいくつもの未来が見えてしまったのは、王がどの場所にも変幻自在に現れることができるからと翔は判断した。


「王はあれしか魔法が使えないのよ。確かに強力で凄まじいけど」

「……どういうこと?」

「魔法は魔力を使ってイメージを現実に投影する技術って話しは知ってるでしょ?」

「あぁ聞いた事がある」


「想像を現実に投影するのはそんなに難しくないの。だから基本的には何かを出現させる魔法が簡単と言われているわね。


 特にイメージが難しくない物。火、氷、木が簡単って言われてる。

 若干毛色が変わってくるのは光と闇ね。


 すでにある現実に想像を追加するの回復させるのは元の元気な状態を現実に投影させている。闇は相手の力を削ぐ方向に投影させることが多いわね。


 もっとも難しいと言われているのが現実を想像にねじ曲げることよ。


 身近な例で言えばオッドの変身が魔法の難易度としては一番高いのよ。あれもかなり特殊なパターンよね。オッドが人間になりたいと言う強い願望と黒髪の乙女がそれを悪用した結果使えるようになった魔法だから。


 だからオッドは魔法属性水と自然だけど、変身以外の魔法は使えないわよ。

 人間の姿を想像するのにイメージを全て費やしてる。


 王が使ってるのも現実を想像にねじ曲げるタイプの魔法ね。空間と空間を強引につ

なげてる。現実を変化させているのよ。


 王は光、自然、炎の3種類の属性が使えるけど、テレポートと空間をねじ曲げる事にイメージを特化させた結果として、他の魔法はからきしよ。


 翔は五属性全部使えるのよ? その汎用性を投げ捨ててまで手に入れたい魔法なの?」


「ルナは何が良いと思う?」


「断然光で治癒ね。稲妻で攻撃しながら光で治癒すれば一人でも戦える。ちょっとした怪我なら自分一人でもどうにかなるし、それにけがしても私が安心できるでしょ。意識飛んで無ければ自力でどうにかできるんだもの。私を安心させる為にも治癒を覚えなさいよ」


 翔は魔法を覚える前からバリアの様な魔法を使えていた。オッドをトラックから助けるときに助かるイメージをした結果だろう。


 イメージするのも簡単で稲妻使いながらでも簡単にプロテクトできる。


 なので、翔がダメージを受けるときは魔力がきれているときで、必然的に治癒している余裕は無い。しかしルナが遠距離での援護に回ってる時でもローラを治癒出来るのは確かに悪く無い。


「……もう少し悩んで良いか?」


「えぇモーセとも相談すべきよ。それにミリアの魔法教育もどうするか考えないと」

「バックアップ要因はダメなのか? ロベリアみたいにさ」


「モーセはそれも考えたみたいだけどドラゴンロアーにするなら戦闘要員にすると言っていたわよ。殺させないための言い訳としてドラゴンロアーという特殊部隊の隊員にするしかなかったけど、子供に戦わせたくない翔の気持ちはわかるわよ」


 ドラゴンロアーの隊員にする。それは必然的に戦場に出ることを意味していた。ロベリアのようなバックアップ要員も考えられるが、ミリアみたいな子供にロベリアのような知識があるとは思えなかった。


「ミリアは魔法何使えるんだ?」

「光以外全部よ。それでいて魔力に関しては翔以上の逸材よ……魔王だから当然と言えば当然なんでしょうけど、ミリアの教育は私に任せて、大丈夫。貴方と違ってスパルタ教育だったり、追い出そうなんてしないわよ。私もミリアには生きていて欲しいから」

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