黒いゲート
テレポートで飛ばされた場所はすでに地震でもあったかのように建物が崩れていた。空にはガーゴイルの群れが、地上には重装備をしたアンデット達が闊歩していた。
逃げ惑う人々を一般兵士達が誘導しているが、その一般兵士達もアンデットに斬り殺されていた。
「ガーゴイルはルナと翔が! 私はアンデッド共を蹴散らし現場の指揮をとります。翔殿はルナを守る事もお願いします。エルフの剣なら効果的と言えなくともダメージを与えられます」
「了解!」
翔は空中にいるガーゴイルに向かって指から稲妻を放った。以前と同じように放った筈の稲妻だが、周囲が一瞬白く輝き、ガーゴイルがそのまま爆発した。
魔力の効率が上がっている。
翔は手応えを感じながら空から急降下してくるガーゴイルに稲妻を放った。
直感的にルナに襲いかかってくるガーゴイルの鉤爪をエルフの剣で受け止める。
そのまま斬りつけるが、やはりダメージが届いているような様子が無い。
そうこうしている内にルナがそのガーゴイルに銃弾を浴びせる。
ローラは縦横無尽に市中を駆け巡りながら、アンデッドを斬り殺していく。ローラの使うエーテルフレームは刀身の部分が炎に包まれている。アンデッド達はその炎に焼かれ浄化されていく。
徐々に魔獣の数が減っていく。一般兵士による民間人の避難もほぼ完了した。
黒いゲートは塔の近くに出現していた。塔はすでに崩壊し跡形も無かった。
ゲートと呼ばれているが、実際には黒い霧とでも呼ぶべきだろう。その周囲だけモヤがかかっており、向こうを見渡す事が出来ない。
ゲートの中に入った兵士もいるが、帰ってきたと言う報告が無い為、現状ゲートの中に入るなと厳令されている。
「これを壊せば今回の任務は終了です」
ローラはそう言うとゲートを斬りつけるために走った。
ゲートが不可思議に揺らめく。翔の直感が告げる。
「危ない!」
その一言がローラに届かなかった。
ゲートからは赤い身体のライオンのような生命体が出てきた。ドラゴンのような翼とサソリのような尾を持っていた。
マンティコアだ。
マンティコアはローラに突撃する。ローラが反射的に避けようとしたがマンティコアの速度はそれを上回り、マンティコアの鉤爪によって家屋に吹っ飛ばされる。
「ルナ!ローラさんを 俺が時間を稼ぐから!」
「言われなくてもやるわよ!」
直感は逃げろと囁き翔を誘惑する。
今の翔では勝てる相手ではないのだろう。しかしここで逃げるわけにはいかなかった。
ルナやローラ、それにこの国に住む人々の為にも
マンティコアがローラを襲う前に翔が自らマンティコアに飛び込む。
エルフの剣をマンティコアがかみ砕く。そのまま折れたエルフの剣でのど頸を狙うが、マンティコアの肌に突き刺さらない。
エーテルフレームで無ければ駄目なのか……翔の頭によぎる。自分は本当に救世主なのだろうか?
魔力を全開にしてマンティコアに稲妻を放つ、マンティコアの苦悶の嘆きが聞こえたが、それでもまだ生きている。翔は魔力を一気に使いすぎて頭がくらくらした。
マンティコアから一度距離をとって立て直そうとするが、それをマンティコアは許さなかった。マンティコアが突撃する。翔はそれをすれすれの所で横に飛んで回避するがマンティコアの尾の針が翔の腹部を貫いた。
意識がもうろうとしてくる。
翔が最期に見たのはローラがマンティコアを一刀両断する姿であった。
「大丈夫?」
「ごしゅじんさま!」
翔が目を覚ますとルナが翔の顔を覗き込み。オッドは思いっきり抱きしめてきていた。翔が周囲を見るとどうやら病室らしい。個室なのか他に病人はおらず、ローラが一人椅子に座って読書していた。
「マンティコアの毒にやられているみたい。私が解毒の魔法を使ったけど、あんまり聞いてないみたい。体調どう?」
「酷い風邪でも引いたたみたいだ」
翔の身体に熱は無かったが、頭が重く身体も鉛のように重かった。
「決闘は?」
「明日よ。いいよ決闘なんて、翔の体調の方が大事よ」
「ごしゅじんさまが大変な状況なのに決闘なんてダメです」
「んなわけにはいかない」
それはルナの為でもあるし、翔自信の為でもある。ここで逃げては前の自分に戻ってしまう。
それだけは絶対に許せなかった。
「なら良い方法がある」
ドアの方から声が聞こえた。
声の主は真っ黒な髪を腰まで伸ばしていた。年は翔よりも少し下ぐらいだろう。あまり健康とは言えない身体付きで、白衣を着ていた。
「解毒の魔法は多種多様な毒に聞く分効果が薄い。治癒の魔法も実際は治癒と言うよりも痛み止めと言った方が正解だな。戦場で戦闘を続ける分には十分だが、身体にはダメージが蓄積される」
ネコの使い魔と同じ声をしていた。ロベリア本人だ。
「な、何の用よ」
「ホーリーナイトのお嬢さんに興味は無いし、救世主にも興味は無い。が、その傷跡には興味があるね。ちょっと腹部を見せてもらえるかな」
翔は少し考えたが、素直に腹部を見せた。
オッドが毛を逆立てて反抗していたが、翔が静止させた。
「これがマンティコアの尾による刺し傷か、文献通りだ。興味深い」
そう言うと白衣の中から一本の試験管を取りだした。
「これを飲みたまえ、これで明日には全快とまではいかなくとも八割ぐらいの力は出せるだろう。もっとも僕の言う事を君は信じられるかな?」
翔はロベリアから試験管を受け取り、躊躇せずに飲んだ。
「まず!」
「薬だからね。味までは知らんよ。にしてもよく僕の薬を飲んだね。怖くは無いのかい。毒かも知れないよ?」
「ロベリアさんは俺たちの仲間です。わざわざ人が嫌いなのにここまで来てくれて薬までくれたのに信じるに決まってるじゃ無いですか」
「お人好しめ。いつか痛い目を見るぞ」
「それで痛い目を見るならまだ自分を許せます」
本当に怖いのは人を信じなくて、痛い目を見ることだ。
翔の身体が急に熱くなってきた。
「所で身体が熱くなってきたんですが……」
「それ、そう言う薬だから諦めてくれ。後で薬の効果がどうだったか聞きたいからレポートを頼むよ。それじゃ僕はまた研究に専念させてもらう」
それだけ言うとロベリアは去って行った。
「見た目からして不吉な奴でしたね」
ローラはそう言うと本を閉じた。
「だいじょうぶですかごしゅじんさま。毒では無いのですよね?」
そう言いながらオッドは翔の身体をゆすった。
「でも身体が楽になったのは事実です。人嫌いって言ってましたけど、案外良い人なのかも知れませんね」
翔の素直な感想だ。ロベリアからしてみれば決闘の事など本当にどうでも良い事だ。それに薬を届けるだけなら使い魔にでもやらせれば良いのに直接来てくれた。
「人体実験したいだけじゃないかしら?」
怪訝そうな顔でルナは翔の腹部を見た。
「同じ部隊の仲間なのに皆さん辛辣過ぎるよ」
「まず使い魔に出席させるというのが駄目です。モーセ殿は許しているが、そういう規律はキッチリしておくべきです」
「ロベリアさんが後方支援って事もあるし、あまり話してないからどうしてもあまり良い印象にはならないわね」
それでいてロベリア本人が人との接触を極力回避しようとし、凡人と見下すような態度をとる。
翔はそのロベリアとローラ達との溝が埋まることは難しいだろうと判断した。
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