カーディフとの決闘
訓練場にはいつの間にか観客席ができあがっていた。そこには兵士達や、女中、城で働く全ての人間がそこに詰まっていた。翔は王を見ようと見回してみたが、どうやら別の場所で見ているのか観客席には見当たらなかった。
「ローラさんこれどういうことなんですか?」
「議会の雑談で翔殿とカーディフ殿の決闘の話が出てきたらしく、そこで皆が賭けを初めて、王がカーディフ殿に逆張りしたのが最初と聞きましたが……」
「あの、俺をこの世界に連れてくるように決断したのって王様ですよね」
「えぇ」
「その王様がカーディフに賭けるんですか?」
「はい。それでその話がひたすら広がった結果がこれです」
「……皆さん暇なんですね」
「娯楽、少ないんですよ」
翔は極力王様には会わないようにしようと心に誓った。
決闘の証人は大臣が執り行う事になった。決闘で死者が出なないように医療班も待機していた。
カーディフは余裕たっぷりと言った表情をしていた。
「両者ともに剣での決闘で問題ありませんね。魔法の使用は禁止となります」
「剣であるなら何を使っても問題無いんだな」
カーディフが尋ねた。カーディフの持つ剣は装飾が派手で実用性に欠けている代物だった。
「翔氏もローラ氏の剣を借りていますからね。両者ともにそう言う取り決めを行っている物だと判断しています。両者ともにそれで問題ありませんね」
翔もカーディフも頷いた。
「勝利条件は相手を戦闘不能に追い込むか、相手に負けを認めさせるかのどちらかとします」
「殺しても良いんだろ?」
カーディフは大臣に笑いながら聞いた。
「殺せるのならば……もっとも医療班もいますのでどちらも死ぬような事は無いと思います」
お互いに十メートルほどの距離を取った。
ローラは翔に勝てる相手だと宣言していた。騎士団長の頃にローラが何度か稽古をつけたが、剣術の腕前は人並みで、翔ほどの強さでは無い。
一方の翔は剣術は無茶苦茶であるが、目と直感が良く、魔力によるアシストで強引な試合に持っていける。
翔自身もそういう風に見ていた。
魔力のコントロールで重い一撃を連続で当て続ければカーディフが体勢を崩して、そのまま押し切れると。
しかし実際にカーディフと相対したとき翔は楽観的な発想を捨てることになった。
何かがおかしい。
それはサーベルレックスと出合う前や、マンティコアが出てくる時と同じような、いやそれをより凝縮したような威圧をカーディフから感じ取っていた。
「始め」
大臣が声を上げる観客達の声援が飛び交う。翔にはカーディフ攻略の糸口が見えてこなかった。
少しずつ距離を詰めていく。
「なら私から行かせて貰おうじゃないか」
そう言い終わるかどうかと言うときにはカーディフは翔の目の前に来ていた。
ローラの魔力を全開にした時とほぼ同じ速度である。
カーディフの剣を剣で受け止めるが、剣筋こそローラに及ばないが、それを補うほどの魔力がカーディフにはあった。
話が違う!
そう思いながら翔はカーディフの一撃を予測し、それを受け流し、攻勢に転じた。
魔力を全開にした攻撃も、カーディフは平然と受け取って見せた。
観客席からどよめきが走る。
「お前何をしたんだ!?」
翔はカーディフに尋ねた。
「僕には勝利の女神がついている。それだけの事さ」
何かの比喩的な表現なのかそれともカーディフも誰かに師事を受けたのか、翔は判断しかねた。
何十回とも及ぶ剣と剣のぶつかり合い。消耗戦となってくると、翔の方が不利だとローラは判断していたが実際は違った。魔力量での勝負を挑んできたカーディフの方が徐々に魔力の限界が見え始めてきた。
翔は連続で魔力を全開にした攻撃でカーディフの剣を空中に投げ飛ばした。勝負がついたと翔が判断し、一瞬油断した瞬間だった。
「リリース」
カーディフのその一言で一気に後ろへ飛びすさった。
会場全体がどよめきをあげた。
カーディフが持っているのは、エーテルフレームだからだ。エーテルフレームは剣の形をしていた。
「さっきの剣の確認はこのためか」
エーテルフレームでも剣の形をしているのなら剣として認められるだろう。そう言う魂胆での発言だったと翔は今更になって気付いた。
ドラゴンロアー部隊を編成するときに全ての騎士に対してエーテルフレームの適性検査が行われていた。カーディフの結果は適正無しである。
もちろん会場の多くの人間はそれを知らないだろう。単純にエーテルフレームが貴重で最強の武器であると言うその伝聞だけが人々を興奮させた。
熱狂は最高潮に達していた。その中で唯一まともな思考をしていたのは試合の証人である大臣だろう。
「エーテルフレームでは試合では無い。殺し合いだ。今すぐ中止―――」
大臣の肩にオウムが止まった
「続けさせろ」
王の声である。
「しかしこれでは救世主が、それにカーディフがなぜエーテルフレームを使ってるのか今すぐにでも調査すべきです」
「それでもだ」
大臣には王の判断が理解出来なかったが、この熱狂に王の指示がある以上大臣はただ、両者の命が無事であることを祈るしか無かった。
カーディフがエーテルフレームで出来た剣を振るう。その剣筋に合わせて、氷の刃が飛んでいく。
それを何度も連続して飛ばしていく。エーテルフレームの武器の効果は本人の魔力を使用しない。故に魔法と言う扱いでは無い。
翔は一度距離を取ってしまったことを失敗したと思ったが、あのエーテルフレームに他にも能力が無いと言う保証が無い以上それはギャンブルでしか無かった。
カーディフは剣を振るうだけだが、翔はそこから飛んで来た氷の刃を避けていかなければ成らない。すでに魔力をかなり消耗しており、これ以上の戦いは不利になる一方であった。
どうにかして隙を作らなければならない。
そこでエーテルフレームをはじき飛ばし、喉元に剣を当てれば今度こそ勝てる。
しかし隙をどうやって作るか。
翔は勝負に出ることにした。
翔は胸元から何かを取り出した。
「リリース」
その形、その大きさ、カーディフは翔の持つエーテルフレームだと判断し、自らのエーテルフレームでそのエーテルフレームを突き飛ばすことだけに焦点を絞った。
今までの氷の刃とは違い、氷の矢とでも呼ぶべき一撃が翔の手に突き刺さろうとする。
翔はあっさりとエーテルフレームによく似た何かを捨てて、一気に距離を積めた。
翔が取り出したのスマホであり、エーテルフレームでは無い。
しかしカーディフに異世界の知識などあるわけが無い。
カーディフから見てどうやっても見過ごすごとができず、かつ翔から見てみればどうでも良いフェイクのどうさ。
それがエーテルフレームを展開するときのリリースのかけ声である。
リリースの声だけならばフェイクと判断し無視することも出来ただろうが、エーテルフレームによく似たスマホを取り出したとなれば話は別だろう。
救世主はエーテルフレームを使えなかったと城内の一部で噂されているが、それこそエーテルフレームが使えなかったカーディフ自身が使っている。そんなの当てにならない。
この奇策が勝敗を決した。
翔はカーディフの持ったエーテルフレームをはじき飛ばし、馬乗りになってカーディフの首に剣を当てた。
「……参った」
翔は雄叫びを上げて自らが勝者である事を全員に見せつけた。
観客席からは歓声が鳴り止まない。
「翔!」
ルナが翔に飛びつき。
「ごしゅじんさま!」
オッドも翔に抱きついた。
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