黒髪の乙女
「ギャンブルには負けてしまったが手に入れた物は大きいな」
王はそう言いながら円卓にエーテルフレームを置いた。カーディフが使っていた氷のエーテルフレームだ。
エーテルフレームは本来国が全ての所在を把握している。個人所有は認められているがかならず国の認可を受けなければならない。この氷のエーテルフレームは国が把握していなかったエーテルフレームだった。
それだけでもカーディフは国家反逆罪になりえた。
「誰かがカーディフにこのエーテルフレームを渡し、エーテルフレームに適合出来るようにした。
預言書に調べて貰ったが、このエーテルフレームその物もかなりの改造が仕込まれていて、現状だとカーディフ専用状態だ。
まぁそこら辺は預言書に直して貰うとしよう。
問題のカーディフだが、カーディフは黒髪の乙女となのる人物からこのエーテルフレームを貰ったそうだ。
そしてカーディフ本人からも多量のマナが検出されて、半分魔人のような状態になっていた」
議会がざわついた。
魔人それは魔王に魂を売り渡し、自らを魔獣のように強化してもらった人間である。カーディフと翔との決闘で魔王の存在は決定的となった。
「カーディフの言う黒髪の乙女が魔王とみてほぼ間違い無いだろう。
魔王じゃなくても腹心の魔人であることに違いない。
ドラゴンロアー部隊はこの黒髪の乙女の調査をお願いしたい。本人からの聞き取り調査はすでに終わっている。追加で調査したいなら好き勝手にしたまえ」
国王が資料をモーセに投げ渡した。
「了解しました」
「あと、預言書から、すでに敵は内部に忍び込んでいるとお告げがあった。皆注意するように。さて、カーディフは当面地下牢にぶち込んでおけ、さて死刑と人体実験どちらがマシだろうか」
王はそう言い終わるとクスクス笑っていた。
ドラゴンロアーの司令室に3人は集まっていた。普段ならいるはずの使い魔のネコはおらず、またモーセもまだ来ていなかった。
「ところで、翔殿は何時になったらホーリードラゴン家に挨拶に伺うのですか?」
「だからそういうんじゃありませんってば」
「しかしこの世界に永住するのでしたら結婚するでしょう。
爵位が無いと言う問題でしたらこのまま活動していけば、そのうち貰えるはずですよ。それにルナ殿もずっと騎士として戦う訳にもいかないでしょう。
私みたいになりたいのですか?」
「そういう話はまだ早いわよ」
翔とルナが婚約するかどうかは別として、ルナとカーディフの許嫁は正式に破棄されている。カーディフが国家反逆罪で捕まった以上当然の措置である。
「私もそう思っていたらずっと騎士をしていて騎士団長まで昇りつめてしまいましたからね。やはり決断は早いほうが良いです」
「もうだからそんなんじゃないって!」
モーセが部屋に入ってくると雑談は一瞬にして中断された。
「全員そろっているな」
「いえ、ロベリア殿の使い魔が来ていません」
「あぁ今日はそのロベリアが主題だ」
モーセは椅子に座るとかしこまった表情をした。
「前日の決闘でカーディフが国に認可を受けていないエーテルフレームを使ったのは周知の通りだな。
そのエーテルフレームを渡した黒髪の乙女と言うのを我々が調査をする。彼女が魔王かその側近であることは間違い無いだろう。
しかしあまりにも情報が少ない。カーディフに精神操作の魔法までしかけたが、黒髪の乙女と言う言葉以上の情報が出てこなかった。
故に黒い髪の女性でエーテルフレームの入手が可能な内部の人間に絞った」
「それでロベリア殿ですか」
ロベリアの髪は確かに黒い。アストラル国立学院きっての天才と言う立場と、多額の研究費さえあれば闇ルートでのエーテルフレームの入手も不可能では無い。
「そうだ。ただ、勘違いしないで欲しいのは我々は彼女の潔白を証明したいと言う事だ。
髪が黒いと言う理由だけで魔王扱いなどされてはたまらないからな。
それに彼女はドラゴンロアー部隊に必要な人間だ。そうだな。翔とルナの二人にアストラル学院での聞き込みを。私とローラはもう一度カーディフの尋問を行う」
「了解しました」
二人は返事をした。
翔は学院に向かう途中で大変な事実に気付いた。
「そう言えば給料一度も貰ってないな」
生活の大半を城の中で生活し、ほとんど訓練に費やしていた為、金銭の必要が全く無かったからだ。
現代日本ならブラック企業も良いところだと今更ながら翔は思った。雇用条件とかそんなの一切聞かされずにドラゴンロアー部隊に配属されたが、労働条件とか一体どうなっているのだろうか。
「お金困ってるの?」
「困ってると言うか、これからロベリアさんに会いに行くから何か持っていこうかと思ったんだけど、ほら薬のおかげで勝負に勝てたような物だし」
肝心の土産品を購入する金銭を持っていなかった。
「それぐらい私が出すわよ。何買おうとしてたの?」
「それも悩んでいたんだ。ルナはロベリアさんの事何か解る?」
「いえ、天才って話と人嫌いなのしか知らないわ。無難にフルーツの詰め合わせでも持っていきましょう」
そう言うとルナは露店で適当にフルーツを購入していき、カゴを翔に持たせた。
「これって経費になるのかしら?」
「経費にならないなら後で俺が払うよ。給料が入るかどうか解らないけどね」
「出世払いって奴ね」
「出世するかどうか解らないけどね」
「出世して貰わないと困るわよ…………その、私の旦那になるんでしょ。私は、別に、かまわないわよ、それで」
翔はそこまで考えて決闘をしていなかった。ただ、ルナの事を物のように扱うカーディフを許せなかっただけであった。
ルナの事が嫌いかと言えば、そう言うわけでは無い。素直に可愛いと思うし、奇麗だとも思う。
ただ、知り合って間も無いと言うのに婚約の話など16才の少年には早すぎた。
「翔は私の事嫌いなの……」
「そう言うわけじゃ無い」
「だったら、翔が良いわ。良くわからない貴族なんかよりよっぽど頼りになるもの……」
翔は何て声をかければ良いか解らなかった。翔がルナの顔を見るとリンゴの様に赤くなっていた。ルナの精一杯なのだろう。
だからこそ、半端な気持ちでは答えたくなかった。
ルナの運命に流されるしか無いと言う気持ちが、残っているように感じられていたからだ。
「ルナの両親が許してくれるかどうかまだ解らないじゃないか。今はロベリアの事を考えよう」
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