ロベリアの秘密
ルナと翔がロベリアの研究室から出てくると食事を持ったドワーフのおばさんが驚いたように駆けつけてきた。
「ロベリアが部屋に人をいれたのかい。あんたら、なにもんなんだ?」
ドラゴンロアー部隊の一人です。と言うわけにもいかない。特殊部隊として機密事項になっている。
「友人です」
翔が返答に困っていると、代わりにルナが答えた。もしもルナが答えていなくとも結局翔も同じ返事をしていただろう。
「ロベリアに友人!?」
「それがどうしたんですか?」
「ちょっと待ってくれ、わたしゃあんた達と話がしたい」
ドワーフのおばさんは食事をロベリアの研究室の前に置いた。
「あの子が部屋に出ると言ったら、食事を取るときと医者が着たときぐらい、あとはちょっと前に一度だけ出ただけさ。それで今度は友人を部屋に入れる。いったい何があったんだい?」
翔とルナはドワーフのおばさんにロビーに強引に連れてこられた。ロベリアの部屋から出てきたと言う事実がよほど衝撃だったらしく、紅茶、ケーキ、クッキー、スープ、スコーン等々、その場にあった食べ物を全部テーブルに並べたような状態になっていた。
ルナは「ドワーフって何でも大げさに言いたがるのよ」と翔に耳打ちした。
「そんなに凄いことなんですか?」
「そりゃ凄い事さ。ロベリアの研究する何よりも凄い事だよ。ほらあの子って14才なのに魔法に関する論文とか出しちまうような天才だろ。最初は素直だったんだが、周りが嫉んだりとまぁ酷くてね。
それであんなにねじ曲がっちまったんだよ。で、あの子も意固地になっちまったもんだから、周りを拒絶して見下すようになっちまったんよ。周りに同い年の子もいないような場所だからあたしが面倒みてるんよ」
「そうだったんですか」
国立アストラル学院は五つの国大陸の中でも最難関の大学と言われている。その大学ですでに独立した研究室を持っている。
一体どれほどの敵を作り、自らに壁を作り、研究に没頭してきたのだろうか。
翔には想像出来なかった。
「医者って言ってましたけど、病気なんですか? 元気そうに見えましたけど」
ドワーフのおばさんは失敗したとばかりに大げさに顔を頭で叩いた。
「ありゃ、言わない方が良かったんかねぇ、でも友達ってあんたら言ってたし、実際ロベリアの部屋から出てきたし、知っておいた方が良いかも知れんね」
ドワーフのおばさんはこほんとわざとらしい咳払いをした。
「あの子は対人恐怖症なのさ。基本的にあの部屋から出るだけで体調を崩し、人が多いところではまともに歩けなく成るときもあるぐらいさ。ほら、食べな」
ドワーフのおばさんはクッキーを翔に押しつける。翔は根負けしてクッキーを食べる。バターの風味が効いていてとても美味しいが、テーブルに並ぶ量を見るだけで、食欲が失せていた。
「それは本当ですか?」
それなのにわざわざ翔の所に薬を届けに来た?
マンティコアの解毒剤の実験がしたいだけならそれこそ使い魔を使えば良かった所を、自分から来ていた。
ロベリアはロベリアなりにドラゴンロアー部隊を、翔の事を気に掛けていた証拠に他ならない。
「あの子は認めたがらないだろうが、本当さ、月に一度医者に着て診て貰っているけど全然よくならん。
あの子は使い魔達がいるし、凡俗共の世界に興味など無いって言って強がってるけど、あのぐらいの年の子にはやっぱり同じぐらいの年の理解者が必要だよ」
「一度部屋から出た時っていつだか覚えていますか?」
「ほんの少し前に一度きりさね。解毒剤をとどけに行くって言ってたけど、その届け先があんたらなのかい」
「はい」
「いやぁーあんたらも元気そうで何よりでねぇ。もっと元気になるためにもっとお食べ」
言われるがままに出てくる料理を片っ端から食べる事に翔は決めた。ルナはルナで翔に全てを託すような顔をしていた。
翔は男を見せるしかなかった。
その後ドワーフのおばさんの話はロベリアから派手に脱線しながら3時間を越えた。テーブルに並ぶ食べ物の量が半分ぐらいになってようやく開放された。
時間の浪費も大きかったが、情報の収穫もそれなりにあった。
ロベリアの主治医の記録や、外出記録が手に入ったのだから、これでロベリアの潔白がほぼ証明されたような物だった。
「そうか、私もロベリアの精神病については知らなかった」
ドラゴンロアーの司令室で事のあらましをローラとモーセに語った。
「ではどうやってドラゴンロアーに引き込んだんですか?」
「彼女がアストラル特有のマナの流れを使った都市防衛構想を売り込んできたんだ。それを私がドラゴンロアー部隊に組み込んだんだよ。
その流れで彼女にもドラゴンロアー部隊に入って貰う事にした。
彼女が人間嫌いで会話はすべて使い魔経由と言うのは有名な話だったから、特に疑問には思っていなかった。しかし、精神病か」
「結果的に今回はそれで潔白が証明出来たので良かったでは無いですか」
ローラはそう答えるかが、顔は笑っていなかった。
「14才の女の子が精神病なんてあんまりよ」
一瞬の沈黙がドラゴンロアーの司令室を支配した。
「カーディフの聞き込みはうまくいかなかった」
「カーディフが黙秘したんですか?」
そう尋ねた後に翔はそんな筈は無いと思い直した。黙秘するのなら最初から黙秘すべきだ。黒髪の乙女と言う情報を与えた後で黙秘をすると言うのは考えにくい。
「いや、カーディフから人間性が消え失せていた。まるでモンスターだよ。まともに会話にならなかった。もしかしたら黒髪の乙女がこれ以上の情報流出を抑えてカーディフに何かしらの魔法をかけたのかもしれない。あるいは」
モーセは少し勿体ぶるように合間を置いた。
「マナが暴走しているのかも知れないな。第二次魔王大戦の時にはよくあったが、現代でも同じような現象が起こるのかどうか、カーディフにどれぐらいマナを植え込んでいるのかそれも調べないといけない」
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