ロベリアの首都防衛構想
翔は訓練場をひたすら走っていた。その手にはバトン代わりの魔力計が握られていた。
魔法に目覚めてから翔は魔力に頼った動きばかりをしていた。その結果地球に居るときよりも肉体的に劣ってしまっていた。
「あと1週!」
ローラは怒声を浴びせる。翔のいつもの俊敏な動作はそこから全く見られない。
「魔力計の数値が0.8に上昇しています。魔力は使ってはいけません。戦士であろうと、魔法使いであろうと基礎体力ほど重要なものはありません」
ローラが眺めているのは双子魔力計である。片方の魔力系の数値をもう一つの魔力計でも見ることが出来る。
魔力による体力の補正は元の体力にも影響される。魔法使いは魔力を体力に回せないため、基礎的な体力がある程度必要とされる。
魔法もモンスターも居る世界であろうとも現実は現実でしか無い。翔はもうろうとしながら訓練場を走り続ける。
最期の1週を走り終えると、翔はその場で倒れ込んでしまった。
「情けないわね」
そう言いながらルナが治癒魔法を翔にかけていた。今日のルナは他の魔法使いの教育に当たっていたはずであった。
「これで救世主っていうんだからほんと、世の中わけわかんない。何でドラゴンロアーにいるのかもわかんない。ほんっと全然よ! 全然!」
それでいてルナのご機嫌は斜めであった。翔にはどうしてルナがこんなにも機嫌が悪いのか理解できなかった。さらに言えば、魔法使いの教育はどうしたのかも気になった。
「オッド殿とのデートがそんなに気に入らなかったのですか?」
「そんなんじゃないわよ!」
ルナは顔を真っ赤にしながら否定した。
「デートって言うか買い足しだよあれ」
少なくとも翔にとってはそうだった。デートと呼べるようなロマンチックな出来事など特になく、日常生活に必要な者を買い足していただけであった。おかげで殺風景だった部屋にも少しだけ生活感がにじみ出るようになった。
「じゃ、じゃあ、な、なによ! オッドに送ったあのチョーカーは!」
ルナは途中から一気に早口になっていた。
「飼い猫に首輪を付けるのはこの世界じゃ普通じゃないのか」
「か、かいねこ!?」
「いや、そうだろ?」
翔にとってオッドは飼い猫兼妹である。オッドがネコである事を望むなら、やはりネコとして扱うべきだろう。
ローラは笑っていたが、ルナはかいねこ、かいねことぶつくさ呟いていた。
「あー! いたいた! あんさんがた!」
遠くから聞いた事のある大声が聞こえた。
大声の正体はロベリアのお世話をしている。ドワーフのおばさんだった。
「あの子が直接私にお願いごとしてきたもんだからさ。もうびっくりさね」
ドワーフのおばさんはにんまりと笑っていた。
「あの子が言うにはカケルのすまほが直ったからさっさと取りに来いだとさ。あたしゃ他にも要事があるから他いっちまうけど、あの子の事をこれからも友達として接してあげてな」
そう用件だけまくし立てると、ドワーフのおばさんは去って行った。台風のような人である。
ロベリアはクラッキングゲート事件以降すぐに釈放された。エーテルフレームの違法所持などしておらず、黒髪の乙女が別にいると王自らが証言したのだから当然の処置である。
「翔どの、午後の特訓は中止にします」
「ロベリアの件ですね」
使い魔を使って横から口をだすロベリアが、ドワーフのおばさん経由で翔だけを呼び出す理由など無かった。
いつも通り使い魔に『スマホ治してやったぞ。届けるのも面倒だから取りに来い』とでも言わせれば良いのである。
と言うことは使い魔が使えない理由があると言う事だろう。公的なドラゴンロアーの任務としてこさせたくない等理由はいくらかか考えられる。
「ロベリア殿から伝令を受けてきてください。使い魔を使わないのはかなり重要な機密を話すと言う事だからでしょう。もしかしたらかなり複雑な暗号文章だけ渡されるかも知れません。そうなると使い魔だけでは伝達不可能ですからね。そして、その文章を奪われないほどの戦士であり、ロベリア殿の所に訪問してもあまり不自然で無いとなると、翔殿は適任でしょう」
「帰れ!」
ロベリアの研究室のドアをノックした結果がこれである。きっと誰に対しても同じような対応しているのだろう。
「呼んだのお前だろ」
「あぁ何だ翔か……やっぱり帰れ!」
「確認した上で帰れってどういうことだよ!?」
「軽い冗談だ。鍵は掛かってない入って良いぞ」
「……服着てるよな?」
前回ロベリアの研究室に来たときは全裸で出迎えた上にルナが強制的に白衣を着せていた。今回は翔一人である。全裸を見るよりも、強引に服を着せる方が接触するぶん性的な行為に翔は思えた。
「着てる。僕を何だと思ってるんだね?」
何をしたらそんな発言が出来るのだろうか? 馬鹿と天才は紙一重と言う言葉を思い出したあげくに、その紙が破れているのでは無いかと翔は妄想した。
ドアをあけるとロベリアが服を着ていた。
「君はこういうのが好みなんだろ?」
着ていたのはオッドの為に購入したセーラー服一式と同一の物である。
「なんでお前がオッドに買ってやった服知ってるんだよ」
「デモンストレーションだよ。にしても君変態じゃないのか? 男物の服にスカートっていや、でもこれは中々良いデザインだ。君は意外と変態として才能がありそうだ」
「嬉しくねぇ褒め言葉ありがとう。それは俺の世界だと普通のファッションだったんだ。オッドから見てもこっちのファッションがちょっと会わなくて、それで地球――」
「説明しなくても良い。もう知ってる。君がその後芋食ったり、オークの女の子が引ったくりに襲われて、ネックレスか何かを取り戻したのも知ってる」
「どうやって知ったんだよ?」
ローラとルナには軽く休日の事を話したが、食べた者や引ったくりの話まではしていない。
「これが都市防衛構想の目玉の一つだよ。使い魔の通信傍受。他人の使い魔の情報を好き勝手抜き取る事ができるし、場合によっては自分の使い魔として使える。今回のはそのデモンストレーションだ。色々な使い魔を使えばここまで情報を把握出来るってね」
「国家レベルのプライバシーの侵害かよ」
「ぷらいばしー? それはどういう地球の物だい?」
その口調からは冗談のような物は聞き取れなかった。翔は知らないが、プライバシーとは近代的な概念であり、アストラルでは発想そのものがまだ芽生えたばかりの物である。
実際にアストラル学院でもプライバシーと同義の社会学の論文が発表されているが、魔法学にしか興味の無いロベリアが知らないのは仕方の無いことだろう。
「個人的に知られたくない情報の事だよ。ほらあるだろ。隠し事の一つや二つ……ってかお前だって精神病の事をモーセに話してなかっただろ」
「言う必要など無かったからな。それにしても君の世界では個人レベルで国家機密を持っているのか? 非常に興味深いがそれは後だそろそろ本題に入ろう」
と言い終わるとロベリアは服を脱ぎ始めた
「なんで脱ぐんだよ!?」
「服は着ていると言ったが、脱がないとは言って無い。だいたいここは僕の部屋で、ホストは僕だ。僕の言う事が聞けないなら帰れ!」
「意味がわからないって言ってるんだよ!」
「僕にとって裸がユニフォームだ! 大体僕のような貧相な身体を見て慌てるような奴が悪い。さっさと童貞捨ててこい。オッドでもルナでも好きな方で捨ててくればいいだろ?
それともローラみたいなのが好みなのか?」
オッドは着ていた服を全部ベッドに投げ捨てた。
「それとも僕で捨てたいのかな?」
ロベリアは翔のアゴをとって強引に前を向かせた。
「お前なぁ」
翔は極力ロベリアの身体を見ないようにした。
「僕は別にかまわんぞ。さすがに一人でセックスするのは無理があるからな。オナニーは出来るがあれはいまいち楽しさが解らなかったな。研究してる方がよほど楽しい」
「……話の本題はどこいった?」
視線を逸らし、さらに話題を逸らす。翔のコミュニケーション能力の限界であった。そこで素直にベッドシーンに持ち込めるのならば、今頃地球で彼女を作ってエンジョイしていただろう。
「そうだったな。僕の身体は見なくて良いから図とかはちゃんと見ろよ」
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