エデンレジデンツの侵略

「首都防衛構想の一つとして使い魔達の傍受を行った結果エデンレジデンツの存在が浮かび上がった。その傍受した内容を円卓議会に提出して首都防衛構想の追加予算を得るのが狙いだったんだがそれが失敗だった。ドラゴンロアー部隊の正式な認可を待たずにさっさとやるべきだったんだ」


「どういうこと?」


「円卓議会にエデンレジデンツの会員が居るって事だ。僕を捕まえて黒髪の乙女にしたてあげたかったのも首都防衛構想がエデンレジデンツの活動に邪魔だったからだろう。これを見たまえ」


 ロベリアが水晶に手をかざすとアストラルの都市が立体的に投影された。そこからさらに地下の部分下水道の部分がピックアップされて表示された。


「エデンレジデンツは主に地下下水道に張り巡らされている防空壕を使って活動をしていたと思われる。この時点で国の上層部にまで絡んでいると考えるべきだったね」


「つーかなんで下水道にそんなのがあるんだよ」


「第二次魔王大戦の時に魔王率いるドラゴン部隊の上空からの攻撃がやっかいでね。市民を守る為に下水道の配備をすると共にこういった施設も同時に併設した。この都市はかなり計画的に作られている。

 まるで戦争をすることを念頭において作られているみたいだ。

 まぁ今回はそれが仇になって文字通り地下組織が結成されてしまったわけだけどね。それで僕の逮捕にも失敗したエデンレジデンツは使い魔による伝達を止めてしまった。それがエデンレジデンツ強襲計画が延期し続けてる理由の一つだ。

 今までの僕達には彼らがどうやって連絡をしているのか良くわかっていなかったが、ある仮説とその実証を得た」


 ロベリアは机を漁る。数ある水晶の中から一つを選び出し、それを翔に手渡した。


「僕のエデンレジデンツに対する今後の対応についてと首都防衛計画の新たな方針についてだ。高度な魔法暗号が仕込んである。使い魔じゃ伝達不可能だ。これをモーセに渡してくれ。君の実力なら心配してないが、もし守り切れそうに無いならその水晶を物理的に壊してくれ」


「なぁ一ついいか。お前自身の身の安全はどうしてるんだ?」


 国の上層部がからみ、使い魔による通信すら危ない状態でさらに、高度な暗号をドラゴンロアーである翔に渡す。


 あまりにも大げさな伝令である。


 そこまで大げさにもかかわらず、ロベリアの露出狂も研究室も変わらない。


「そこは心配しなくて良い。ギルドからAAランクの冒険者を護衛で雇っている。諜報や暗殺の点だけで言えば君よりもよほど強いよ。前回は逮捕ですんだが、今後は本当に殺されかねないからね」


 翔は直感的に後ろから投げられてくる何かを掴んだ。ナイフだ。この部屋にまだもう一人居ると言う事だろうが、翔には周囲を見渡しても全く解らなかった。部屋と同化している。


「素晴らしい腕前だろ?」

「もしかしてずっと居たのか?」


「今も居るし、今僕が君を殺せと指令を出したら躊躇せずに殺すプロだよ。前から何度も雇っているし信頼もしている、何より無駄口を叩かないのが素晴らしい」

「まぁ安全なら良かった」

「僕の安全など君が気にすることじゃないさ。とは言え、気にして貰えるというのは悪い気分じゃ無いな。じゃあモーセによろしく」




 その後翔は特に問題無く城に戻り、モーセに水晶玉を渡した。


「ロベリアからの伝令です。詳しい内容までは聞いていませんが、エデンレジデンツと首都防衛構想の話だそうです」


 モーセは執務机から箱のような機械を取り出し、そのくぼみの部分に水晶を乗せ、箱についてるつまみを何度か弄った。


「どこまでロベリアから聞いた?」


 水晶玉から何かの文章のような物が出てきたが、翔には理解不能だった。モーセは眼鏡をかけて水晶玉から出てきた文章を読み始めた。


「エデンレジデンツの伝達手段が変わったとか、下水道の防空壕を使っているとか、確信に触れる部分は聞いてないです」


「まぁそうだろうな。ドラゴンロアーにはきちんと伝えるが、円卓議会にすら通せない内容だ。議員の名前をすでにあげてエデンレジデンツだとロベリアは言っている。ロベリア自身の身の安全も考えた方が良いかもしれんな」

「AAランクの冒険者を護衛に雇っていると言っていましたが」


「こいつらなら学部ごと爆破してそれを黒髪の乙女や、圧政に苦しむ民衆に責任転換できる。まぁ現状バレていないはずだ。バレていたらロベリアの命はすでに無い。首都防衛構想の柱は彼女にあるからな。

 彼女無しではドラゴンロアーのテレポートもまともに出来ない。彼女無しで運用出来るようにシステムを改良しないとそのうち殺されるだろう。そうしたら使い魔での通信がまた簡単にできるからな。エデンレジデンツ想像以上に大物だな」




「二人だと寂しい限りよ」


 アストラル王はそう言いながらビールを一気に飲みきった。若い頃からの癖である。


「確かに我々二人では寂しいですな。とは言え、今回ばかりは我慢してください」


 ドラゴンロアーの司令室で、アストラル王とモーセは密談するしか無かった。

 食事も王とその腹心が食べる者としては質素としか言いようが無かったが、二人にとっては冒険者だった頃を思い出させる懐かしい食事である。干し肉とサラダとビール。食堂からモーセが拝借してきたものだ。


 これにローラ、アリゲス、クラッツが居れば冒険者時代の酒場である。


 アストラル王はビールの樽からジョッキに自分でそそぐ。アストラル王とモーセ、階級的な違いはあれど戦友として親友として彼らに隔てる物は無かった。何度背中を守りあって戦ってきたか数え切れない。


「それで、円卓議会すら通せない内容とはなんだ?」

「エデンレジデンツの事です」


 モーセはロベリアが暗号化して渡してきた文章を復元した。その内容はエデンレジデンツが使い魔を使っての暗号通信の方法とその中身についてだった。

 その中身には円卓議会の議員数名の実名が何度も記されていた。


「確かにこれは無理だな」

「そして極めつけはこれです」


 新たなる王。


「これに関しては具体的な名称を誰もあげていませんでした。もうひとり魔王を迎える準備があるとも言えますし、エデンレジデンツは王位継承権を持つ誰かがトップに居ると考える事も出来ます。あるいは祭り上げているか。もう少し泳がせて情報を集めますか? ロベリアはもう少し情報を集めるべきだと主張しています」


「現状で襲撃するとすれば?」


「次の火曜日に大型の集会があります。議員も出席しますが、新たなる王も魔王も出席しないみたいです」


「泳がせるしか無いな」

「ロベリアは隠密行動が得意な冒険者を増員を求めています。今は前から交流のある冒険者に頼んでいくつか捕まえた結果です。この方法ですと人海戦術以外での収拾のしようがありません」


「軍備の拡張がしたい所だがな……背に腹はかえられないか」

「背に腹はかえられませんが、王のすげ替えは放っておいても出来そうですな」


「そうもうまくいくまい。一体何人に王位継承権があると思っているんだ? 次の王はアーカーシャと公言しているがこうも暗躍されているとうまく継承されるとは思えんな」


「何人も側室を作った罰ですよ」

「五つの国をまとめ上げる国だぞ。全ての種族を妻に持たずして誰がついてこようか?」


「世間では節操なしとしか受け止められていませんよ。大体それなら側室は4人ですむでしょう。何故10人もいるんでしょうかねぇ。それに黒髪の乙女まで側室にしようなど、あきれ果てて物が言えません」


「……とりあえずロベリアが収拾した暗号文章を全文読ませて貰おう」

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