エーテルフレーム
「だいぶ体力と気力も付いてきたのでは無いでしょうか」
息をきらせながらも立ち続ける翔を見てローラはそう言った。
「ほら何度も手間かけさせないでよ」
そう言いながらもルナはいつものように翔に治癒魔法をかける。翔の呼吸が多少楽になった。
「いつもありがとうな」
「弱い同僚がいたら迷惑なだけよ」
「翔殿少し剣術の稽古もしましょう。エーテルフレームの扱いにも慣れておきませんと」
ローラは自前のエーテルフレームを開放して剣の形に変えた。翔も同じようにエーテルフレームを取り出し開放しようとしたが出来なかった。
「うまく出来ないな。ルナ、少しエーテルフレーム貸してくれないか」
「私のじゃ剣術にならないでしょ」
そう言いながらもルナはエーテルフレームを翔に投げ渡した。
「リリース」
ルナのエーテルフレームはマスケットのエーテルフレームである。
しかしエーテルフレームとは使用者の心を反映した物でもある。使用者によってその姿を変えるのは珍しい事では無い。その効果も使用者によって変わる。
翔はマスケットのエーテルフレームを開放することによって、サブマシンガンをもう一度手にしていた。
「それはマスケットなのですか?」
「もっと凄い俺の世界の武器。ちょっと退いててくれよ」
翔はターゲットに向かってサブマシンガンを連射した。
一分間に9mmの弾丸が900発以上発射される。もちろんルナの仕様するマスケットとは比較にならない連射性能である。
もっとも特別な性能と言えば、弾丸が無限であるだけであり、それ以外は通常のサブマシンガンと変わらない。地球ではあまり役立たないだろう。
どちらかと言えば魔力による体力の補正によって、反動を無視出来る方が重要である。
ターゲットは再生速度が間に合わず見るも無惨な姿に変わり果てていた。
「こういう武器。地球ではサブマシンガンって呼ばれてました」
ローラとルナは呆然としていた。
「私が使うより絶対そっちの方が強いじゃない! 最近マスケットの連射性能上がったなと思ってたけど翔が使ったのが理由だったのね! 私立場ないじゃない!」
「翔殿の世界に剣術が無い理由はこれだったのですね」
「これ一般的な人は所持できませんからね。しかし黒髪の乙女から奪った方は使えないんだ?」
ルナのが使えるのならば、当然黒髪の乙女から奪ったマナのエーテルフレームが使えないのはおかしい。故障の可能性もあるだろうが、故障だとしたら翔にはどうしようもない。
「だったら預言書に聞いてみましょうか。彼女はこの国においてもっともエーテルフレームに詳しいですから」
ローラに案内されながら翔とルナは地下をさまよってようやく預言書の間に着た。
「2回目ですけど道順全然解らない」
「私だってこれでも何度も着てるけど全く解らないわよ」
「ここの道順を知ってるのは極々少数の人間だけです。預言書はそれだけ重要な物ですからね」
ローラが扉を開くと前と同じように祭壇には預言書がいた。
「おや? 預言を聞きに来るにはまだ早く無いかのぉ? それとも緊急事態とでも?」
「いえ、エーテルフレームの調整をお願いしに来ました」
「ふむ、救世主がエーテルフレームを使えるようになったのか、なら私も確認しないとならんのぉ」
預言書は祭壇から飛び降りると翔の所にまで歩いてきた。
「なるほど、面白い物に選ばれたのぉ、確かに預言の通りだ」
「どういうことですか?」
含みのある言い方をすることが翔にはさっぱり解らなかった。
「そなたも知っての通りそれはマナのエーテルフレーム。人からマナを奪ったり、逆に与えたりすることも出来る。大地からのマナを吸収して人類では到底使用不可能な大魔術の仕様も出来る。ある意味では人間が魔王になるエーテルフレームとも言えるのぉ」
翔はオッドからマナを吸い取っていた時の事を思い出していた。
確かにその事と逆の事をすれば、魔王と同じ事が出来る。
「しかしマナのエーテルフレームは使用者をかなり厳しく選ぶのでな、大半のエーテルフレームが使えてもマナのエーテルフレームだけ使えないと言う使用者も多い。しかし話によると黒髪の乙女の手から離れてエーテルフレームの方から着たと言っていたな。間違い無いな」
「はい」
「ならそなたはそのエーテルフレームを使い続けるべきだろう。預言的にもその方が正しい道に進むはずだ。どれ、見せてみろ」
翔は言われるがままにエーテルフレームを預言書に渡した。
「すてーたすおーぷん」
エーテルフレームは一気に分解された。中心にある水晶のようなコアの部分以外は機械のような物体が浮いていた。
「あぁ単純に酷使しすぎてるだけじゃの。耐久地がすでに3しか残っておらん。そなたの問題じゃあない。たぶん黒髪の乙女も完全に使いこなせてはいなかったのが原因じゃないかのう?」
「もしかして黒髪の乙女は魔王や魔人じゃないんですか?」
マナのエーテルフレームによってマナを与えていたのなら、人間でも可能である。
「その可能性は低いかのぉ。禁断の地エデンや、黒いゲートは人間には不可能な現象じゃよ。とりあえず補修は完了したが、微調整とかするかえ?」
「微調整?」
「もっと剣を長くしたいとか、逆に短くしたいとか、短剣二本の形にすることもできそうじゃの」
翔は黒髪の乙女と戦った時を思い出した。今思い返せば長すぎて大きすぎる代物だ。
「日本刀みたいな形にってできますか?」
「にほんとうが何かは知らないが、おぬしの思考をそのままエーテルフレームに当てはめるだけじゃ、たぶん可能だろう」
「じゃあ日本刀の形にしてください」
預言書が何かをぶつくさと呟くが、翔にはそれが何なのか全く理解出来なかった。
「ほれこれで使えるようになったはずじゃ」
翔は投げ渡されたエーテルフレームを開放してみた。
鞘の無い刀が翔の手に握られていた。前までは全体が青白い気体になっていたが、
それは刃の部分だけになっており、刀身部分は青く透き通っていた。
「それが刀と言う奴なのですね」
「そんな変な形の剣で大丈夫なの?」
「大丈夫です。問題ありません」
翔はエーテルフレームをしまった。
「それで二人も補修ぐらいしていくかね?」
「いつものように補修だけお願いします」
とローラは答えて
「私がつかってもさぶましんがんみたいにして」
とルナはせがんだ
預言書は若干悩んだそぶりを見せた。
「そなたが翔と同じ形を選んだとしても同じ性能にはならん。たぶんマスケットの時から射程が短くなった上に連射もできず、魔力の底上げもなくなる。そなたの心の中にさぶましんがんが存在しないからの。まぁ恋人と同じ形にしたいって気持ちはわからんでもないがの」
「だ、だれが恋人よ!」
ルナの顔は真っ赤だった。
「かか、反応がわかりやすすぎて楽しいのぉ」
「じゃあ翔が使った事によって変わった部分だけ元に戻しておいて」
「それなら出来る二人ともエーテルフレームを渡してくれんかのぉ」
預言書は二人のエーテルフレームに対しても同じように「すてーたすおーぷん」した後に謎の原語を呟いていた。
「これで問題無かろう」
「いつもありがとうございます」
ローラが頭を下げた。釣られてルナと翔も頭を下げる。
「気にするでない。寝る以外にやることが無くて暇じゃ」
「では失礼します。預言は後日王が聞きに来るはずです」
ローラ達三人はドアを締めて訓練場に戻っていく。
三人が居なくなるのを確認してから預言書は口を開いた。
「しかし救世主を選んだのがマナのエーテルフレームとはのう。運命のイタズラと言う奴かな。王が知ったらどんな顔をするか」
しししと預言書は笑った。
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