ドラゴンロアー


 翔、ローラ、ルナの3名は城の地下にある一室に集められていた。部屋は教室ほどの大きさがあり、執務机と応接用の椅子と机があるだけだった。黒ネコがなぜか一匹おり、その黒ネコは3人を監視しているように見えた


 3名が特に話すことも無く待っていると、ドアが開いた。


 初老に入りかけた男で、頭が白髪で若干薄くなっていた。鋭い目は狡猾さを人々に狡猾さを印象づけた。背は大きくかなりの筋肉があった。


「皆待たせたな。翔とは初めてだったな。私がドラゴンロアーの最高司令官モーセ アマデウスだ。 まぁあまり敬語とかは要らん。背中がむずがゆくなる。ああいうのは会議だけで十分だ」


 そう言いながら翔の隣に腰掛けた。


「お前さんの処遇は色々大変だったぞ。中には救世主なんぞ適当に放り出しておけば、そのうち魔王を倒すだろう。なんて暴論を言い出す輩までいたからな」


 RPGではある意味定番であるが、それが実際に自分の身に降りかかっていた可能性を考えると翔はゾッとした。


「今日から正式にドラゴンロアー部隊が認可されたここが司令室になる。当面は黒いゲートの事件を追っていくが、魔王信奉者の排除や、脱税している貴族の調査や、反国家組織の壊滅などが我々の任務になる。

 本当はもう一人いるが、あいつは人見知りが激しくてな。ほら、そこにネコが居るだろ。あの使い魔が代理で来ている。まぁ研究者としては間違い無く一流だから問題無い」


「ところで私はアストラル騎士団とドラゴンロアー部隊の兼任でしょうか?」


 ローラは尋ねた。


「いや騎士団長はブリッツ フェルディナンドに変わって貰う。そろそろ第二次魔王大戦の人間は現場から引くべき時だとは思わんかね? エルフのような長命種にとってはまだまだ現役だろうがね」


「いえ、半端な立ち位置が嫌なだけです。それに現場と言うのならこちらの方が私の好みです」


「お前もアリゲスもそこは変わらんな。私も長命種なら一緒に戦えたんだがな」

「モーセ殿には議会で戦って貰いませんと」


 モーセとローラは同じタイミングで笑った。


「戦いで思い出したが、翔。お前カーディフと決闘するそうだな」

「すいません。軽はずみな行動を」


「いや、男なら決闘ぐらいしろ。好きな女を力尽くで手に入れてこそ男だ」

「あ、あのそういうことでは無くて」


 しかし翔は冷静に考えてみる。あの状況で決闘を申し込むと言う事は、ルナを賭けた決闘と解釈されてもおかしくない。いやそれが自然だ。


 それはルナを自分の所有物にしたいから決闘を申し込んだとカーディフが解釈をしてもおかしくない。そしてカーディフが率先して喧伝しているとすれば……


 翔はルナに訂正を求めて貰おうと思ったが、ルナは顔を真っ赤にして俯いてしまった。それではモーセの言っていることを肯定しているような物だった。


「ホーリードラゴンの家だって救世主相手なら相手として文句無いだろう。それよりカーディフごときに負けるなよ。あんな奴に負けるならドラゴンロアー部隊に要らないからな。適当に金だけ与えて大陸を漫遊する旅にでも出て貰うぞ」

「いや、あの、だからですね」


 ローラが急に立ち上がった。


「モーセ殿お任せください私がこの一週間で翔殿を立派な騎士に鍛え上げて見せます」

「頼むぞローラ」

「はい!」


 ローラとモーセは腕をがっちりと組んだ。

 もう翔に訂正をするタイミングなど無かった。


「翔殿、男でしたら二股ぐらい頑張ってするべきです!」

「ちょっと前に言ってることと全然違いませんか!?」


「翔ちょっと待ちなさい! 他に女がいるってことなの!?」

「いや、待って俺はカーディフの言う事が納得出来ないってだけで、ルナの事を恋人に欲しいとかそう言うわけで決闘したいわけじゃないんだ。と言うかまずオッドも恋人じゃねえ!」


 翔は事態の沈静化と、あくまでルナの名誉の為の戦いであると言う事に30分ほどかけて説得した。


 その場では納得されたが、本心では納得していない事が翔にも解った。




 珍しく議会は波乱も無く終わった。皆が皆緊張の糸が切れて、思い思いに身体を動かしていた。


「ところでカーディフと救世主がホーリードラゴンの一人娘を賭けて決闘をするそうじゃないか」


 そう誰かが口を開いた。


「救世主の力とドラゴンロアーの力を見せるデモンストレーションとしては丁度良いでしょう。翔が勝つ方に賭けても良い」


 モーセはそう言いながら何枚かの金貨を円卓に投げた。


「私も救世主に」「私もだな」「なら私も」「カーディフは頭は悪くないがな戦士としては駄目だからな」


 議員達は好き勝手言いながら円卓に金貨をベットする。その全員が翔に賭けてしまい賭けとして成立していない状況になってしまった。



「なら私はカーディフに賭けよう」



 国王はそう言いながら金貨の詰まった袋を円卓に置いた。


「逆張りですか? 王らしくない」

「いいや、預言書が番狂わせの波乱がやってくると言っていたのでな。それに誰かが反対側に賭けなければ賭けにならんだろ」


 そう語る国王の瞳には野心家の策謀が見て取れた。


「ギャンブルに預言書を頼るとは随分と日和見になりましたな」

「……ギャンブルが目的で預言書に尋ねた訳では無いからな」

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