魔力量

「ではこれから一週間私が翔殿をみっちり訓練しますからね!」


 訓練場でローラは若干はしゃぎ気味に語った。騎士団長と言う立場だった為、後輩達の指導には自信があるのだろう。


「本来なら翔殿は基礎体力から付けるべきなのですが、一週間ではそこまで尽きませんからね。そこで魔力と剣の扱い方だけに絞りましょう」


 ローラは腰に差していた剣を翔に渡した。 


「私の愛用する剣を貸しましょう。ドラゴンロアー入隊前に使っていた剣です。これならカーディフどのの剣にも負けないでしょう」

「でもローラさんは?」


「もう一本ありますので遠慮しないでください」

「あと、この剣の名前なんて言いますか?」


 ローラは黙ってしまった。


「……すいません。この年になると物忘れが激しくて、ケラルトフ? クスストララフ?メメルフレヌはまた別のですし……エルフの剣です」


 翔もこれ以上は追求しないことにした。一体何歳かも気になるが、聞いてはいけないことぐらい翔にも解った。


 翔はローラから借りたエルフの剣を鞘から引き抜く。前に使っていた一般兵士の剣と比べて軽くそれでいて鋭い切れ味である事が直感的に理解出来た。


「剣での決闘では直接的な魔法の仕様は禁止です」

「直接的な?」

「翔殿が本能的にやっている魔力による筋力の補正は禁止されていません。翔殿には魔力による筋肉の使い方も学んでもらいませんとね。とりあえず本気で来てください」


 翔は剣を構える。ローラも剣を構えた。

 いつもなら出てくる戦いの未来視が翔には見えなかった。それだけローラが手強く、簡単に倒せる相手ではないと言う事が解った。


 少しずつ距離を詰め、様子をうかがう。剣によるリーチは互角だが、ローラの方が若干背は高い。しかし無視できる体格差だ。


「来ないなら私から行きますよ」


 一瞬だった。5メートルはあった距離が一気に詰められ翔の身体に重い一撃をたたき込んだ。それでいながらローラの動きは妖精のように軽やかであった。

 そのまま舞うような連撃が続く、その一つ一つが巨人が棍棒で殴りつけてくるような威力を持っている。


 翔はそれらをまともに受けてはいけないと判断し、一回受け流すような形で回避し、そのまま攻勢に出ようとしたが、ローラは目の前にいなかった。

 背後だ。前面に一気に逃げようとしたが、首筋に冷たい物があたる。


「参りました」


「私としては最初の一撃で決めるつもりでしたが、まさかあそこまで耐えるとは、本当に前の世界では剣を使った事など無いのですか?」


「まず剣を持つと法律違反で捕まってしまいますから」

「翔殿の才能は間違い無くあります。しかし才能は種でしかありません。水と言う努力と、肥料という師匠が無ければ咲きません。そして翔殿には今全てがそろっています」


 ローラは剣をしまった。それを見て翔も剣をしまう。


「翔殿は私が一気に距離をつめた時、足に魔力を全力で回しました。斬りつけるときは身体全体で斬りつけますがそれでも翔殿に当たる瞬間に魔力が最大になるように調整しました」


「それであんな動きが出来たんですね」

「えぇ、それでも存在的な魔力量で言えば私の魔力量は翔殿の2割程度でしょう。それだけ翔殿が魔力をうまく扱えていないと言う事でもあります。それに翔殿は魔力を無駄に使っています。長期戦になったらまずカーディフ殿に勝てないと思ってください」


「それで、どんな特訓をすれば」

「これを使ってください」


 ローラが手渡したのはアナログの温度計のような物体だった。


「これは魔力計で本来は本人の持っている魔力の測定に使うのですが、翔殿がこれに全力で魔力を流すと壊れます。だから本来の用途では使わないでくださいね。それで特訓内容ですが、最初は1の数値10分間キープできるように流してください」


 翔は試しに自分の魔力を最小限にして流してみたが、それでも30ほど流れてしまった。


「結果的に魔法使いとしても強くなるはずです」

「はい! 頑張ります!」

 

 


 翔はベッドに倒れ込みながら魔力計に魔力を流す。魔力計では5まで上昇してしまう。

 しかしローラの言っていた通り、この訓練をすればするほど自分の魔力と言う物を理解する実感が翔にはあった。


 神経を研ぎ澄まし、魔力を魔力計に流す。


 これは訓練だ。だから敵が襲ってきたり、敵を襲撃するような事は無い。しかし実戦ではこれと同じ事を戦いながら行う事になる。


 それだけローラが騎士として優秀なのか今更になって翔は理解した。


「ごしゅじんさま」


 オッドに声をかけられただけで魔力計の数値が12にまで上がってしまった。最終的にはどんな状態でも魔力量を一定にしなければならないのだろう。


「あぁどうしたのオッド?」

「ごしゅじんさまはもっとオッドと女の子と喋る練習をするべきなのです」


「でも訓練しないと……六日後決闘があるから」

「ルナ ホーリードラゴンのためですよね」


「それもある。でも自分のためなんだ。後悔はしたくないって決めてこの世界に来たから」

「ではルナ ホーリードラゴンには恋愛感情は無いんですよね」

「だから無いってば」


「だったら良いんですけど……ルナからは泥棒猫の匂いがするのです」


 ネコが使う泥棒猫なんて表現を使うのは中々楽しいなと翔は思えた。もちろん自分が渦中で無ければの話だが。

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