魔王ミリア
ロベリアが研究室で全裸な事に関して翔はもう突っ込む気力が無かった。
「魔王を人間にする方法だと?」
ロベリアは人を子馬鹿にするように笑いながら語った。
「まずその発想に至った人間は君が初めてじゃ無いかな。魔王は人を殺しすぎるからな。裁判や断頭台などまたずにその場で殺されて首だけ見せしめにされるだろうさ」
「でもミリアは悪く無いだろ。あの子が望んで魔王になったとでも言うのか?」
「いや、魔王が誕生するメカニズムは良くわかっていないんだ。しかし明らかにおかしい。第一次魔王大戦から第二次まで300年以上の時が開いている。しかし第二次から第三次までの合間はおおよそ30年ほどだ。十分の一以下だ。それで現在魔王と思われる人物が三人もいる。明らかにおかしい。魔王に意図的になれるかどうかは別にして魔王が発生する条件みたいな物はあるんじゃないか?」
「どういうことだ?」
ロベリアは水晶玉からアストラルの首都を投影した。
「ミリアがすんでいる位置が丁度良く首都防衛構想のマナの流れと一致している。魔王がマナを生み出すことを考えると無関係と僕には考えられない。それにそれなら魔王が首都にばかり集中している事も納得出来る。五つの国大陸でもっともマナの流れが良いのがアストラルだ。恨むなら僕を恨め」
「本当にそうなのか決まってもいないのに恨むかよ」
「……僕はこんな事の為にこの企画を提出した訳じゃ無い」
ロベリアは珍しく苦虫を噛みつぶしたような表情をした。
守るべき一般市民を凡人と呼び、研究費用の為にモーセに売り込んだ。
全ては知識のために、それが翔の抱くロベリアのイメージだった。しかし目の前に居るのは間違い無く、自らの行動を恥じるロベリアだった。
「これを持っていってくれ」
ロベリアは水晶玉を投げ渡した。
「そろそろエデンレジデンツの尻尾が掴めそうだ。魔王の事は奴らから直接聞け、ミリアよりは知ってるはずさ」
病室の扉がノックも無しに開いた。
「誰?」
ミリアは顔をベッドに隠しながらその侵入者に尋ねる。ミリアの知っている人では無かった。翔やオッドでも無ければ、看護の人でも無い。
「失礼お姫様。メヘル アレクサンドラと言います」
「知らない。出てって!」
ミリアは精一杯のつもりで喋ったが、実際には弱々しい声でしか無かった。
「知らないのは私のことかい? それとも自分のことかい?」
「出てって!」
「両親の事を思い出してごらん」
「パパもママも遠くでお仕事してるの?」
「本当に?」
「本当だもん」
「ならどうして誰もパパとママの話題に触れようとしないんだろうね。パパとママは君に手紙を出さないような酷い人なのかい?」
「パパとママは優しいの!」
「パパとママの仕事は? パパの顔は? ママの顔は? どんな所で過ごしていた? 最期に見たのは?
そしてマナの祝福を」
メヘルはミリアにマナを凝縮させた物体を額に埋め込んだ。
ミリアの世界が歪んでいく中メヘルは病室を去って行く。
「こんなんで玉座が手に入るとは思えんがねぇ?」
メヘルはエルフの魔王の事を愛していた。しかしそれとは別に信用はしていなかった。簡単に手玉に取れないからこそ、それを手に入れたときに楽しいと思っているからだ。女も同じである。手に入れるのが楽しいのであって、手に入れた女など価値が無い。
「とは言え、面白い物が見れる事に変わりなし。次はロベリアか」
そう言いながらメヘルは城から去って行った。
ミリアはマナの暴走の中で今まで無くしていた記憶を走馬燈のように思い出していた。
ほんの少し前まで、ミリアの一家は何一つ問題の無いどこにでもある家庭だった。
しかし砂時計から砂が落ちていくように徐々に変化があった。
優しかった両親がミリアに暴力をふるうようになった。しかし殴った後にミリアを抱きしめていた。なのでミリアが悪いことをしたのだと解釈していた。
その頻度は徐々に増えていき、痛みも増していった。
寝るたびに悪夢を見るようにもなった。黒い何かが手招きをする夢だった。
ミリア自身にも変化が起こってきていた。両親の暴力を手でつかんで止めてしまった。どうして出来たのかミリアにも理解が出来なかった。
しかし両親の暴力はその日で終わった。
ミリアは悪夢を見続けていた。黒い何かが、城の奥深くから呼んでいるのが解った。それを助けなければならない。怖いと思う。しかしそうしなければ成らない使命感も同時に感じていた。しかしミリアは何をどうすれば良いのか解らなかった。
そしてミリアが両親と最期にあった日だ。正確にそれを両親と呼ぶべき存在か今となっては疑わしい。
ミリアが発するマナによってミリアの両親は自我が崩壊していた。ミリアも自らの力の使い方も解らず、ただ、両親だった物体が自分を襲うのが怖かった。
そしてドラゴンのエーテルフレームがミリアを守る為に家を崩壊させた。
そのドラゴンを倒したのは翔だった。
「パパとママを助けてあげよう」
黒い物体がミリアの頭の中に話しかける。
「本当に?」
「本当だとも窓を見てごらん」
窓にはドラゴンのエーテルフレームがいた。ドラゴンはエーテルフレームの形に戻るとミリアの手に収まった。
「助けたいだろ」
「でもお兄ちゃん達は」
「君にパパとママの事を騙していた奴だ。奴らは悪い奴なんだよ」
「悪い奴」
「そう。悪い奴。だから君は私を助け出さなければならない」
ミリアはベッドを抜け出し、城の地下を目指しゆっくりと歩いた。
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