嘘つき

 ミリアは迷うこと無く地下の大広間に向かっていた。


「私の失敗だ。私がどうにかしないとな」

「おじさん退いて。助けなきゃ」


 待ち構えていたのはアストラル王だった。


「断頭台に立ちたくないからな。ここから先にはいかせん」

「死ぬよ? おじさん」


 ミリアはドラゴンのエーテルフレームを開放させた。

 出てきたドラゴンを王は一刀両断するが、次々と新しいドラゴンが誕生していく。しかもそれらは全てエーテルフレームのドラゴンである。


「これだけエーテルフレームが量産できれば楽なのだがなぁ」


 本気なのか冗談なのか王は嘆きながらエーテルフレームを潰していく。空間に押しつぶし、自らのエーテルフレームで斬りつけて壊す。しかしミリアが作っていくドラゴンの量はその速度を上回っている。


 ミリア本体を空間を圧縮し押しつぶそうとするが、魔力の反応によってミリアに避けられてしまう。


 魔王としての実力ならば黒髪の乙女よりもミリアの方が圧倒的だろう。


 ドラゴンロアーが簡単に鎮圧していた為に、アストラル王はミリアの力量を完全に見間違えていた。それにアストラル王はメヘルがミリアの力を強引に引き出したのを知らない。


 ミリアは戦いのさなか急激に成長していく。直接戦闘をすることは無いが、多種多様なエーテルフレームによって王を圧倒していく。


 長期戦になればなるほど王に勝算は無かった。王の魔力はすり減っていくばかりだが、 対極的にミリアのマナは増え続けている。

 ミリアが魔法の使い方を知らない事だけが王の救いではあった。


「お兄ちゃん!」


 人間のエーテルフレームだ。しかしそれは翔の姿をしていた。エーテルフレームは使用者の心を反映させる。


 翔のエーテルフレームはミリアが他に使っていたエーテルフレームを自らの武器に変化させた。ドラゴンのエーテルフレームを同時に三つ使用し一つを羽に一つを盾に最期の一つは剣に変化させた。


「そんなのありか」


 第二次魔王大戦で色々な戦いを見てきた王だが、エーテルフレームを使用するエーテルフレームを見るのは初めてであった。


 瞬間移動で翔のエーテルフレームに対抗しようとするが、ドラゴンの羽によって三次元的に高速移動が可能な翔のエーテルフレームには有効とは言えなかった。


 アストラル王は自らのエーテルフレームを見つめる。


「お前を信じて良いのか?」


 しかしその問題は消えた。ドラゴンロアーの部隊が来たからだ。


「ミリアはどこへ!?」

「預言書の間だろう。たぶん彼女ならば迷わない。翔お前がいけ。ミリアを止められると言うのならお前だけだろう」


 翔はその意味を尋ねようとしたが、自分そっくりのエーテルフレームが居ることを見て理解した。


 ミリアの心の中に翔が居る。翔の説得ならばミリアは納得するかも知れない。


「でもどうやって預言書の間へ行けば良い?」

「あそこに行こうと思うな。ミリアに会いに行け、あそこは預言とある物を求めている限り絶対にたどり着かない。預言書本人やそれ以外の物の場所にはきちんとたどり着ける。だからミリアだ。ミリアを求めてさまよえ!」


 翔はエーテルフレームの集団を突き抜けてミリアを求め階段を駆け下りた。




「よくここまでこれたのぉ。預言書と呼ばれているのにここ最近はずっと外しっぱなしだ。そろそろ占い師ぐらいに名前を変えたい所じゃの」


 預言書は暢気な口調でミリアに尋ねた。


「開放してあげて」

「それは無理な相談だ」


「どうしてそんな酷い事が出来るの? 可愛そうだよ」

「人は時として化け物よりも残酷な物よ。おぬしだって解っておるだろ? その残酷さがこの五つの国を支えている事実を」


「間違ってるよ! ピピル!」


 ミリアは鳥のエーテルフレームを作りあげる。

 インコのピピルとは違う。姿形はワイバーンに近いだろう。


 ピピルは預言書が座っている祭壇その物を壊そうとした。

 しかしピピルは槍で胴体を串刺しにされ地面に貼り付けられた。


「まさかわれが守られる為にここに居るとでも? われにだって自衛する程度の力ぐらいあるわ」


「ミリア!」


 翔が預言書の間に突入する。


「嘘つき! 嘘つき! お兄ちゃんの馬鹿!」


 ミリアは張り裂ける声で叫んだ。


「嘘でも良かった。それでミリアを助けられるなら!」

「嘘だ! おじさんみたいに私を殺そうとするんだ!」


 アストラル王の事だろうと翔は判断した。100人の為ならば1人の命を殺す。例えその一人が幼い子供でも。


「大っ嫌い!」


 ミリアは人間のエーテルフレームを作り翔を襲わせる。人間のエーテルフレームは翔の姿をしていた。ピピルに刺さっていた槍のエーテルフレームを抜いてピピルと共に翔を襲った。


「嘘でも良い! 俺はミリアを助けたかった。ミリアが魔王であろうと、世界の敵になるかも知れなくても、だからといって殺すなんて出来なかった」

「みんな嫌い!」


 ミリアは泣き叫び崩れ落ちた。

 エーテルフレームが襲ってくる中、翔はずっと防御だけで耐えていた。黒髪の乙女とミリアは違う。

 

 ミリアならば話せば通じ合える。翔はそう信じていたからだ。


「私を利用するために優しくしてたんでしょ!」

「本当に好きだったから、助けたかったからだ! 絵だってちゃんと額縁に入れて部屋に飾ってる今度俺の部屋に来いよ。あとオッドの絵も描いてくれよ! オッドも描いて欲しいんだってさ」


 翔を模したエーテルフレームは実力その物までもコピーしていた。唯一の違いは手にしているエーテルフレームのみ。


 翔はマナのエーテルフレームで槍をひたすらはじき続けているが、鳥のエーテルフレームであるピピルの攻撃からも完全に避けきる事ができない。


 徐々に翔の魔力と体力が削られていく。


「もうやだ! パパとママを返してよ!」

「パパとママは生き返らない! でも新しい思い出を作っていくことはできる」


 翔は自分の父親の顔を思い出そうとしたが、うまく思いだせなかった。それでも今こうやってドラゴンロアーとして生活していることを楽しんでいる。


 どんなに辛い事があっても、前に突き進むことは出来る。

 進む意思があるかぎり。


「一緒に生活している合間、本当に楽しく無かったのか、俺は楽しかったぞ! 本読んだり、一緒に寝たり、絵の題材にされたり、ピピルが死んだのは悲しかったけど、それでも楽しいと思えた」

「どうせお兄ちゃんも私を殺すんだ!」


 ミリアは自らエーテルフレームを作りあげた。翔の身長すら超えるような金槌だった。


「だったら、受け止めて見せて」


 ミリアは翔の元に走り大金槌を振り回した。

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