母と娘の昼下がり。水着のデザインどうしましょう
翌日、私の足の具合は大して悪くは無かったのですけれど、
忠さんに心配されてお家にいるようにと朝言われてしまったのです。
花華さんはまた彼とかな、少しだけメイクを手伝ってあげてお祭りへ。
忠さんは花火大会にも行った彼女達とかな、今日は男の子の友達も一緒だって言っていましたけれど、
それぞれお昼前には出掛けて行ってしまいました。
「はぁ、私も一緒に行きたかったんだけどなぁ……」
おうちのリビングの椅子に座って、足をぶらぶらさせながら、机に突っ伏していると、
「下駄は慣れないうちは無理しない方が良いわよー、
忠、結構心配してたみたいだしー」
家事を終えてお母様が向かいの席について、優しく微笑みかけてくれる。
「普段の靴なら大丈夫ですって言ったんですけれどね、忠さんがダメだって」
少し愚痴っぽくなってしまうのは承知でお母様に訴える。
「夏のお祭りだし、どうせならステファニーちゃんが浴衣で煌びやかなところ、
忠、友達に見せたかったんじゃないかしらね。でも、怪我させちゃったしって、
あの子も意外と、女の子に気が利く様になったもんね~」
忠さんの想いを考えると優しさが嬉しい。
「忠さんらしいですよねー」
今度はステファニーが笑顔になって早苗を見ると、
「ま、その笑顔には忠は敵わないわよ」
バチリとウィンクをする早苗だった。
「今日は、お父様もいらっしゃらないんですね」
「うん、なんか足らない部品があるんだーって、トトとリリの自動餌やり機の部品を買いに、アキバまで皆が起きる前に出掛けてったみたいね。ほんと、男の人ってああいうの好きよね」
お父様の話をする時のお母様の様子は、優しいというか、
相手を思いやっているというか、どことなく甘い感じで、
私の父と母もそうだったかなと思ったり、
私も好きな人とこうなりたいなと思ったり。
「お母様はお父様のお話をしているときのお顔が素敵ですね」
ぽろりと口から出してしまうと、急に照れだして、
「いやいやいや、歳甲斐もなくってゴメンねー」
「ふふふ、そんなことないですよー、いいなぁ素敵です」
その後話の流れで、お二人の馴れ初めを聞いたり、
忠さんが産まれたときとか、花華さんが産まれたときの嬉しかった話を聴けたのは、
私には一大イベントだったのです。
「さて、恥ずかしい話はこの位にさせてー。
ステファニーちゃん、今度は私からのお願いなんだけど――」
と、お母様にお願いされてしまったので、
「はい、なんでしょう。出来ることならばなんでもお請け致します」
「うん、じゃあね、私の知り合いにスポーツ用品店に勤めている人が居てね、
その人からリオ五輪でも使われているっていう水着の生地をちょっと貰えそうなのよ」
「水着、ですか?」
「うん。そうなんだけど、なっかなか材料がなくってねー、前からお願いしておいたんだ。
だ、か、ら、ステファニーちゃん、採寸させてくれないかしら」
「もちろん、構いませんよ」
家には私達二人しかいないし、男性の眼を気にすることもないので、
そのままリビングで計って貰うことにして、
姿見の前に立つとお母様が手際よく身体のサイズを測ってくれる。
お母様は膝立ちで私の背後に立ってテキパキとメジャーで測りながらメモ帳に数字を採っている。
「うーむ、ステファニーちゃんはほんと、綺麗というか、モデルさんみたいというか、出るところが出てて、お腹は細くて、ドレスも似合ってたし大人の女性よねぇ」
「そんな大したことありませんよ、私達ゴブリンの中にもモデルのような職業をやっている方達もいらっしゃいましたけれど、その方達に比べたら私なんてとてもとても」
「いやー、そういう所に出たがらない女性の方が大抵綺麗でグラマーで、美しいものよー、あたしもどちらかっていうとそっち系なのかな」
あははと明るく笑うお母様は素敵で、さっきの話もそうだけれど、それでも二人のお子さんを立派に育てていて、
「お母様は、忠さんと花華さんを立派に育てていて、そんなにお綺麗なんですからすごいですー。私もお母様みたいな女性になれるといいなぁ」
「あらあら、ありがとう。いやー、こんな美人さんにそんなこと言ってもらえると嬉しすぎてにやけちゃうわね。はい。終わり。うーん、しかし……」
「どうかしたんですか?」
「いやね、貰う水着の生地は競技用の地味な生地なのよ、だけど折角、ステファニーちゃんの綺麗な身体に合わせるんだし、どんなデザインにしようかなぁって」
「そういえば、地球では海で泳ぐことは、レジャーのような感覚なんですよね、
私達のテラリアではどちらかっていうと宗教的な、儀式的な事でしたから、その水浴み用の服装もカッチリしたものが多かったんですよね」
「でしょー、そしたら地球ではおもっきし肌を露出させて、可愛くってセクシーに攻めてもいいと思うんだけど、その胸でセクシーに攻めすぎると、いくら忠とお父さんといえど危ないわよねっていろいろ考えちゃうのよね」
この胸で、と、はたとステファニーが自身の胸を押さえるが、彼女の小さな両手からはあふれ出る位にボリュームがある。
「お母様、私そんなに自分の体型とか気にしたことなかったんですけど、その男性から見たら魅力的に見えるんでしょうか?」
「うん、かなり。そうよね、ゴブリンは女性が多いのよね、男性からの評価とかも気になるかー」
「はい、相手がゴブリンの男性じゃなくても気になりますー」
忠さんからなら特にです、とはお母様の前では言いにくいのだけれど、
この方は柔和な表情の裏でそこまで考えてくれているようで。
「うん。よし、いろいろ解ったわ。今回はデザインから頑張ってみよー!
大丈夫。忠にも驚いて貰えるようにするからっ」
「ふふ、お母様にはいろいろお見通しですよね。よろしくお願いします」
こうして鏡越しに互いに笑顔で顔を寄せ合って居ると、本当に親子になったような気がしてとても嬉しい。できあがった水着を見て、忠さんはどう思うかしら。
なんて、私も少し期待しちゃうかな。
食卓にスケッチブックを広げて、それでもお母様の中で素案はまとまっていたらしく、一時間も掛からないうちに、
「こんなのどうかしら?」
と一枚のイラストを見せてくれた。
まず、イラストが綺麗で驚いてしまったのだけど、
もっと素敵な水着のデザインにも驚いた。
紺色の生地は所謂競泳用水着のデフォルトらしく、今回はこの色しか手に入らないと悔やんでいらしたのだけれど、見せていただいた水着は下はビキニタイプで、上は二重の生地になっていて、紺のビキニの上に胸の部分を上から覆うようにカラフルなキャミソールを重ねたようなデザインだった。
「お母様、絵がすごい綺麗ですね! それにこのデザインもとっても好きです」
「えへへーありがと。所謂セパレートタイプの水着ってこういうのなんだけど、そんな感じにしようかなって。上は水着専用のも合わせられるけど、Tシャツだって別に大丈夫なように作ろうかな~ってね、折角の大きいバストがただ隠れちゃっても魅力ないじゃない。被せて作る方は綺麗にして、ラインも出るようにしたいの。
あー、楽しみになって来ちゃった! がんばるわよー!」
「はい、お願いします!」
「花華もまぁ、あと四、五年はかかるだろうけど、ステファニーちゃんみたいな体型になったらこんなの作ってあげたいのよね~」
「ふふふ、花華さんならそこまで待たなくても綺麗な女性になってくれますよー」
「そっかなぁー、だとすると尚のことやりがいあるわねー。娘が二人いるのもいいもんだわー」
真夏の昼下がり、私は遠くの異星の星で、女同士仲良く、母と娘で仲良く過ごせることに感謝する。
お父様、お母様、地球は楽しくてとても良いところです。
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