幕間②:女の子の髪型が変わったら?
お兄ちゃんに付き合ってもたもたしてたら予鈴ギリになっちゃったじゃない!
花華は教室へ滑りこむが、2年3組の教室内はいつもの喧騒で、別段遅刻した風でもなかった。
「あ、花華、おはよー!」
同じ班の
「おはよっ! 花華! お、今日髪いつもと違くない?」
二人とも140センチの花華よりだいぶ大きい。
「おはよー。髪型、ちょっとだけど、いじってみたんだけど変じゃない?」
前髪のサイドを三つのピンだけで、編み込んだように見せつつふわりと流してある。
「わ! すっごいステキ! なんか大人っぽーい! はっはーん、さては何かあったかな?」
「え、え、花華、彼氏できたら教えるっていう約束じゃんかぁ!」
「ち、違うよまどか! 彼氏なんてできてないってば!」
大慌てする花華、それに後ろで騒いでた男子の一人が気付いてこっちに振り向いた。
「あれ? 芹沢? っべー! なんか可愛いんだけど!」
あーあ、だ。
「馬鹿、
この花華が瞬間湯沸かし器になる相手は安達
「ん、だよ、いきなり馬鹿とか言うなよ、おはよーですだろ?」
「お、おはようっ」
「ん、だよ、言えんじゃねぇかよ。しかしそれにしたってなんだよ?」
男子の輪から抜けて花華達三人の方に来て、花華の隣の席に前後ろで座って椅子を斜めにしてこっちに向けて、もう一度花華を頭の先から爪先まで眺める。
「な、なによ?」
「ん? いや、見間違いじゃなけりゃお前今日相当いい線いってるな、と。さてはオンナになったか? 今日は赤飯か?」
ゴチンと、花華の鉄拳が安達の頭に刺さる。
「ってぇ! 暴力反対ッス!」
「あんたが変なこというからよ。朝から何いってんのよ」
もう流石に来てるわよ! ちびだからって馬鹿にしないでよ! って付け足そうかと思ったところを楓とまどかに取り抑えられた。
楓とまどかは花華を羽交い締めにしつつ顔を見合わせて、はぁ、またいつもの夫婦喧嘩が始まったと頷きあった。
「なんだ、よく見たら髪が違うのか、良いんじゃねー? 芹沢もともと結構カワイイしなー。んー? もったいないことしてたかー?」
椅子を二つの脚しか床に着かないようにしてギコギコしながら安達が言う。
「あ、あんたの為にやってんじゃないわよ!」
花華が身長が逆転してるのを良いことに思いっきり安達を見下して言う。
「ん、だよー。いつもツンだなー。もーちょい大人しい方が俺の好みだってー」
本鈴が鳴って、花華はしぶしぶ安達くんの隣の席に着く。
「安達! イスそれやってるとまた先生に怒られるよ?」
ギコギコやってた安達はそのまんまの姿勢で花華の方を向いていた。
「わーってるってよー。ゆーかやっぱ今日のお前変じゃね?」
自覚はある。が、こいつには指摘されたくないので無視。
先生が入ってきた。担任の
「はい、みんなぁー、おはようございますー、ん?」
さっそく安達の椅子に気づいて、
「コラ! 安達!!」
シュパーン!
今はもうロストテクノロジー久しいチョーク投げが安達の頭のてっぺんをかすめ、チョークは教室の後ろの黒板まで跳んで行き、そのチョーク受けにかちゃんと収まる。ナイスコントロール!
「ひぇっ! センセぇこえー! さーせんッス!」
言う安達自身は、結局外してんじゃんと思ってるんだけど、周りの生徒からは失笑が上がる。
「な、なんだよ? 芹沢まで?」
裁縫用の小さい鏡を持ってたので、安達くんに見せてあげる。
頭頂部に一本太い白いラインが出来上がっていてまるで侍の頭のようだ。
「あんた、それ……」
せっかく叩かない方がいいよって武士の情けで言ってあげようと思ったのに、
思いっきり叩いたもんだから、隣の席のこっちまで白煙に包まれる。
「うあっ! うへっ! 小山田センセぇ!!」
「きゃっ、馬鹿! ちょっと! やめなさいよ!」
周囲から爆笑が起こる。
「あーあ、芹沢さんには罪がないのに、安達! 廊下に立ってろよ! さて、出席ー」
先生は淡々と議事を進行した。
私まで少し白くなってしまったのでぽんぽんと髪と制服をはたく。
「あーもー災難ー。せっかくセットした髪がぁー」
前の席のまどかと楓が振り返り、
「馬鹿のせいで、たいへんねぇ……南無ー」
「後でトイレでセットし直そ! 手伝ってあげる!」
楓のうちは美容院なので腕は確かだ。
「ありがとーまったく、先生もやりすぎだわ」
といったのが聴こえたのかどうなのか、出席を取り終えた小山田先生がたぷんたぷんと小走りで花華の席まで来て、
「芹沢さんゴメン! 馬鹿だけを狙ったつもりが!」
「もー先生ー」
「勘弁してくれっ! このとーり」
深々と頭を下げている。まぁもともと女子には強く出ないタイプなのはわかっているんだけど。
「そんな、頭を上げてください。大したことないから大丈夫ですよ」
しばらく頭を下げてたがようやく上げた顔には汗が垂れている。
「ほんとにすまない! あーこんなことミナルにばれたら殺される!」
先生のうちに来たゴブリンさんはミナルさん。
若い女性で、独身で、もしステファニーさんみたいな性格だったら、先生にも薔薇色のロマンスが待ってたかもしれないんだけれど、ミナルさんはかなーり、変わった性格だった。
ロックな子供好き。
一言で言い表すとそんな感じだ。綺麗な金髪と赤い口紅が印象的で、服装はどことなくパンキッシュで、ああ強烈なキャラクターのゴブリンさんは滅多に居ないだろう、ってどうして私がミナルさんのことを知ってるかって言うと、
「また、あいつが乗り込んできたらたまらない! 芹沢さん、ほんとにすまない!」
「大丈夫ですよー、告げ口とかしませんって〜」
小山田先生が〝先生〟と知るやミナルさんは、学校に乗り込んできて、先生の指導の悪さにブチ切れして、先生の股間をぐーで殴ったのだ。2年3組の生徒全員の前で。いろいろ強烈な登場だった。
はてさて外の廊下の安達君はと言うと、
「あーあ、またやっちまったなー、芹沢に嫌われないといいけど、ムリだろな。っげーショックー。ったく、今日すごい
ゴン、と廊下の柱に頭をぶつけて猛省するのだった。
一時間目が終わった休み時間。
次は体育で女子は更衣室へ移動しなくてはならない。
花華が廊下に出ると、短髪を濡らした安達くんとすれ違う。
「あんた頭洗ったの?」
「だって気持ち悪いじゃんー粉っぽくってさー」
「夏だからってちゃんと拭かないと風邪引くよ」
「大丈夫だってー、すぐ乾くよ、次思いっきり走るしな!」
「もう」
やれやれと腰に手をやって花華が息を吐く。
「それよか、さっきはごめんな」
かるーい感じで、片手で謝意を示して安達くんが謝ってくる。
「ああ、チョークのことなら……」
「じゃなくてその前の、――その、オンナになったか? とかって言っちゃってサ」
意外、こいつそういうの謝るキャラだっけ。
「え、いいよ、別に気にしてないし」
「いや、こういうのはちゃんと謝っとかないとな。ほんとごめん、なさい」
ぺこりと腰を折って謝られた。
「ちょ、ちょっと、いいってば」
慌てて止めに入ると申し訳なさそうに頭は上げてくれた。
「なんかさ、芹沢が急に可愛く見えたのはホントだから。からかったりして悪かったな」
サラリとそう言うと教室に入っていってしまった。
妙に心がざわざわするんだけど、
「なんなのよあいつ」
といいつつ花華も更衣室へ走っていった。
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