幕間⑦:お父さんの夏休みの宿題

 ところ変わって芹沢家での忠達がお祭りに行っている間のお話。

 忠達三人が出掛けてから、父の真一が部屋になにやら道具を広げて作業をしているのは眺めて存じていた早苗だったけれど、ふと微妙に懐かしい不思議な焦げ臭い香りが漂ったので気になった。

「お父さんさっきから何してるの? あと何かしら、この匂い。

 ふんふん、むかーし嗅いだことがあるようなー」

 と居間から早苗が覗き込んだので真一は手に持っていた半田ごてを持ち上げる。

「ああ、これじゃない?」

 漂ってきたのは半田ごてで金属を焼き付ける匂いだった。

「ああ、それ。半田ごて。忠が小さかった頃はよく一緒に電子工作してたわよねー、最近滅多に使ってる所なんて見てなかったと思ったら珍しいわね、そんなもの引っ張り出して、何してたの?」

 興味津々に書斎の机に近寄ってきた早苗に、真一が手元の未だ出来損ないの電子部品の塊を示す。

「これ作ってたんだけどさー、さてなんでしょうか?」

 塩ビパイプの端っこにフタのような物が付いていて、その先に電子部品の板が付いている奇妙な物だった。早苗は電子機器はさっぱりダメなので困惑するしか無い。

「??? うーん、なんだろ」

「こうやってつかいまーす」

 塩ビパイプに機械仕掛けのフタを付けて、反対側から真一が金魚のえさを投入した。

「! ああ、トトとリリの餌やり機? かしら」

 解ったのが嬉しくて、真一の肩をとんと叩いて早苗が言う。

「お、大正解! 良く解るねー、まだ全然出来てないんだけどね。こっちにタイマーの部品付けるんだ」

 先っちょの電子部品を摘まんでそう説明を加える。

「なるほど、お義父さんと、お義母さんの家に今度行く時家しばらく空けるからね?」

「うん。その通り。まぁ町田さん家には言っていくけどさ、さすがに金魚の世話までは頼めないから」

「ふふ、そうよね」

「それでこないだ秋葉原の電子部品屋さんに通販で頼んで置いたパーツがさっき届いたからさ、今組んでるってワケ」

「ふぅーん。まぁ普段船作ってるんですものねぇ、こんなの訳ないわよねぇー。

 お父さん格好いい」

 早苗は真一の肩に優しく手を置いて真一の手許を覗いている。

「ありがと、まぁ忠にばっか格好いいとこもってかれちゃったからね。

 僕も家長としていいところを見せないと、ってこんな小さなところだけどね」

「あら、そんなことないわ。トトとリリも立派な家族じゃない、

 それに半田ごて使って電子部品に向かってるお父さんなんて素敵よ。

 なんかロバートダウニーJrみたいで! そう言えば彼をもう少し細くしたらお父さんと似てるわよね!」

「あはは、それを言うならトニー・スタークにって言って欲しいよー、早苗さんはハリウッド男優に相変わらず弱いな~」

「そうそうそれそれ」

 二人で笑い合う。

「……でもお父さん、ステファニーちゃんに魔法でちょろっとなんとかして貰えるように頼んでも良かったんじゃないの? うーん、金魚に餌あげるくらいは出来るんじゃないかしらねぇ」

 と、早苗が何気なく言うと真一が待ってましたと眼鏡をくいっと持ち上げて、

「そこだよ。ステファニーさんにお願いして魔法で出来るんじゃ無いか、って僕も思ったんだ、でもそれなら魔法に頼らないでエンジニアとして自分の力でやってみたい! って逆に燃えてきちゃってね、それで、まぁ、夏休みの宿題ってことで作ってみようと思ったんだ」

「ふーん。あなたもそういうところは忠みたいに男っぽいわねー。うーんますますカッコイイ。うーん、ますますロバートに見えてきた。ふふ、頑張ってね。

 コーヒー淹れますね旦那様」

 とんと優しく肩を叩いてニコニコしながら早苗がキッチンへ向かう。

「ありがとう早苗さんー、やっぱ僕は良妻に恵まれてるなぁー」

 と、その背中に真一が声を掛ける。

 手許の未だ出来損ないの電子部品に目を移して、腕まくりして、

 さぁ今日あの子達が帰ってくる前に作り上げて自慢するんだ!

 と気合いを入れるお父さんなのでした。

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