エピローグ

 そして1年と2ヶ月後――。

 鬼神高専の正門に浅井誠也はいた。




「たしかに今日は、俺の誕生日だけどさあ」


 誠也は困り顔で音芽を見た。

 誠也の隣では、魅夏が同じ顔をして音芽をたしなめている。

 そんなふたりを見て、誠也の姉・はるかが笑った。

 音芽は口をとがらせた。


「なんだよお。魅夏とふたりきりが良かったのかよお?」

「いやそんなことないよ」

「じゃあ何が不満なんだよお?」

「いや、誕生日を祝ってくれるのは嬉しいよ。でも、学校の前に集合ってどうなんだ?」

「オシャレなお店が良かったのかよお?」

「そういうわけじゃないけどさあ」


 誠也が眉を上げると、そこに桔梗とロリがやってきた。

 桔梗は来るなり、まるで演劇のようなとてもイイ声で言った。


「この場所がいのよ!」

「ああ、桔梗にロリちゃん」

「この日この場所この時間っ、ここに集まることに意味があるのよ!」

「何をわけの分からないことを言っているんだよ」


 誠也は苦笑いでツッコミを入れた。

 すると桔梗は嬉しそうに痛がり、ちらりと腕時計を見た。

 そして言った。


「そろそろ時間ね」


 この言葉と同時だった。

 バシュン! ――と、彼らの眼前に馬車が現れた。

 異世界からの来訪者である。




   ▽     ▽     ▽


 みなが口をぽっかり開けたままでいると、馬車から白いドレスの美少女が現れた。

 いかにもファンタジーなゴシックでクラシカルなドレス。

 しかも美少女は可憐で清純、まるで天使のようである。


「あれっ?」


 誠也が首をかしげると、美少女はドレスをはためかせてやってきた。

 微笑みをひとりずつに送り、それから美少女は言った。


「みなさん、お久しぶりです。わたくしはエスメラルダ、ノクトゥルノ王国の王女です」

「あー、お久しぶりです」


 誠也はぼんやり返事した。

 音芽が彼に説明をした。


「実はあの後、桔梗とふたりで異世界のサーバーを維持していたんだよ。それでつい最近、王女さんと連絡が取れるようになって」

「呼んだのか」

「あれからの王国について報告したいって。それがなによりの誕生日プレゼントになるじゃないかって」


 音芽はそう言って、王女に微笑んだ。

 王女は微笑みを返すと、誠也と、そして魅夏を見ながら言った。


「みなさんが時計塔で暗黒騎士を退治し、時間を1年と2ヶ月巻き戻した後、ノクトゥルノ王国は新たな歴史をスタートさせました。その後、暗黒騎士の出現はなく、また彼女のような邪悪の台頭もなく、王国はますます繁栄いたしました」

「おお!」

「みなさんのお陰で、ノクトゥルノ王国は今までに経験したことのない栄華を極めています。街は活気に満ちて、子供の笑う声がたえず、男女は寄りそい、老人はしあわせをかみしめています。貧しく路上にうずくまる者などひとりもいないのです」


 ありがとうございます ――と言って、王女はドレスのスソをめくりあげた。

 それを誠也があわてて止めた。

 みなが首をかしげるなか、誠也が言った。


「それは良かった。でも、正直に言ってほしいんだけど。ぶっちゃけて言ってほしいんだけどさ」

「はい?」

「俺たち迷惑かけてない? とくに魅夏とか」

「なんだよ誠也ァ?」

「どうせ、いろいろと投げっぱなし壊しっぱなしで帰ってきたんだろ?」

「ああン?」


 などと誠也と魅夏が仲良くケンカをしていると。

 王女は、すこし誇らしげな笑みで言った。


「みなさんが去った後――。ドラゴンを倒したミカさんには、王国から爵位しゃくい勲章くんしょうがあたえられました。ミカさんはノクトゥルノ王国の英雄となったのです」

「「「「えぇっ!?」」」」


「ミカさんが残していった武器と防具は、ミカのつるぎ、ミカのよろいとして」

「「「「マジっ!?」」」」


「聖母のアミュレットは、ミカのしるしとして後の世に伝えられることでしょう」

「「「「うーん」」」」


 誠也たちは、ぎこちない笑みで固まった。

 魅夏は得意げな笑みで胸を張っていた。

 誠也は不満をもらした。


「なんか、ひとりで伝説になってるんだけど」

「まっ、まあな」

「ひとりで美味しいとこ、全部持っていってね?」

「うっ、うん」

「俺たちも結構がんばったよな?」

「もちろんだよ」


 魅夏はそう言って、王女を見た。

 王女が微笑みを返すと、魅夏は言った。


「あの、今更で申し訳ないんだけどさ。その "ミカの" つるぎとか、 "ミカの" よろいっていうの止めてくんねえかな?」

「ええっと、それは?」

「あたしの名前じゃなくて、みんなの名前にしてくんね?」

「みなさんの? セイヤとミカのつるぎ……のような感じでしょうか?」

「あー違う違う、あたしたちの名前だよ。なんつーか、チーム名というか軍団名というかそういうのがあるんだよ」

「それは? あなたたちのお名前は?」


 王女が無垢むくな笑顔で聞いた。

 すると魅夏は全員の肩を抱き、誠也の胸にもたれかかると、それから自信に満ちてこう言った。



蛮痴羅パンチラ。あたしたちは蛮痴羅だ」




   ▽     ▽     ▽


 続発する身勝手な条例に対抗するべく、少女は学校内に特殊機械化部隊を創設した。

 その部隊はオトナの理不尽にあらがい、ついに条例をくつがえした。

 それだけでなく異世界をも平和に導いた。

 祝福された未来を、彼女たちは自らの手でつかんだのである。

 人は彼女たちを蛮痴羅パンチラと呼び、彼女たちもその名を誇りに思った。


 蛮痴羅パンチラとは――。

 熱い撮影魂さつえいだましい強靱きょうじんな精神力を先天的にあわせ持った、最強カメラマンの呼称である。




■END■



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