Re:パンツを見られたら結婚条例

 二〇XX年 七月某日。

 甲信越の地方都市、鬼神おにかみ市。

 鬼神高専の一年二組に、武装した警官隊が突入した。


「浅井! 浅井の娘はいるか!?」


 生徒たちは、口をぽかんとあけたままだった。

 警官隊はそのなかから、ひとりの少女を引っぱり出した。


「浅井記者の娘だな?」


 少女は大きくツバをのみこんだ。

 すると手錠てじょうがかけられた。

 生徒がざわつくと、警官隊は一斉にアサルトライフルを向けた。

 そして言った。


「騒ぐんじゃあない!」


 それと同時に、大型ディスプレイに男たちが映し出された。

 男たちの後ろには、はりつけにされた男が映っていた。


「お父さん!」


 少女は身を投げ出すように叫んだ。

 しかし、両脇から警官におさえられて身動きが取れなかった。

 ディスプレイの男たちは、嗜虐的しぎゃくてきな笑みをして、それから少女に語りかけた。


『恨むなら、父親を恨みたまえ』

「お父さんっ! そこにいるのはお父さんなのね!?」


 少女は泣き叫んだ。

 ディスプレイの男は、それを無視してこう言った。


『ああ、鬼神高専のみなさん、はじめまして。わたくしは市長の由利です。そしてお隣は警察署長、その隣は鬼神寺住職です。ちなみに奥の彼が、彼女のお父さん……って、ほげえぇぇええええ――――!!!!????』


 突然、少年が飛びこんできて、いきなり市長を殴り飛ばした。


 はりつけの男……浅井記者が顔を上げた。

 目のまわりは真っ黒になり、額から血が流れている。

 明らかに暴行を加えられている。

 その顔を見て、少年はわずかに動揺した。

 が、すぐに市長に写真を投げつけた。

 そして叩きつけるように言った。



『『パンツを見られたら結婚』条例は、明らかに憲法違反だ。これ以上、人権を蹂躙じゅうりんした条例を施行し続けるならばっ! 貴様らの娘の写真をバラまくぞ!!』

『なにぃ!?』

『高専の連中に指示を出せ、生徒を解放しろ』

『ふっ、ふざけるな!』

『鬼神の写真もあるんだぜ』


 少年はそう言って画面の外に目を向けた。

 市長がその視線を追った。

 こくんとうなずいた。

 それから市長は、警察署長にうなずいた。

 警察署長はカメラに向かって、くやしそうに言った。


『警官隊は武装解除、ただちに学校から撤収せよ』


 この言葉と同時に、鬼神高専の警官隊はアサルトライフルを下ろした。

 そして浅井遥を解放した。

 そのことを確認すると、テレビに映る少年は、はじめて白い歯をみせて微笑した。

 少年は言った。


『これから浅井記者の監視のもと、『パンツを見られたら結婚』条例は廃止される。今この場で廃止の手続きをおこない、それが終われば、こいつらはドナルド・ロリガン県知事の主導で、県警に逮捕される。法の裁きをうけることになる』


 少年は、ここまで一気に言って大きく息を吸った。

 それからゆっくりとはくと、腹の底からこう言った。


『今日、鬼神市は解放される。俺たちは、自らの手で自由を取り戻したのだ!』


 少年は手に持ったナタを天にかざした。

 そこに金髪の幼女と、ふたりの美少女が駆けつけた。

 浅井誠也の胸に、ロリ・ロリガンと、早乙女音芽と穴山桔梗が飛びこんだのである。


「なにやってんのよ……」


 それを高専のテレビで観ていた浅井遥は、あきれていいのか感謝していいのかよく分からない、そんなため息をもらした。

 クラスメイトも、どんな顔をしていいのか困っていた。

 ただ、そのなかで、ひとりの少女だけはまるで太陽のような笑みだった。

 もちろん、異世界から無事帰還した橘魅夏である。



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