〃

 鬼神スカイタワーに到着した。

 しかしそこは厳しい警備体勢がしかれていた。

 しばらくすると音芽が来た。


「音芽!」

「……キミが誠也クンか。たしかに遥に似ているね」

「そう?」

「えへへ。で、どうしよう? 11時30分だけど」

「もうそんな時間か」

「12時までには救出したいよね」

「セスナで突入すれば良かったかな?」

「セスナ!? そんなものをキミたちは持っているのかい!?」

「あー、蛮痴羅パンチラは、姉さんが死んでから創設したんだっけ。じゃあ、この装備でなんとかするしかない」


 俺はワイヤーを見ながらそう言った。

 スカイタワーの入口は、警備が厳重でとても入れそうにない。

 第2展望デッキに行くには、ほかの経路しかなかった。


「せめてエレベーターに乗れればな」

「第2展望デッキは、450メートルの高さだもんね」

「とりあえず上昇中のエレベーターに飛び移ろう」


 俺はそう言って、あたりを見まわした。

 ちょうど好い高さのビルがあった。

 俺たちはそこに向かった。

 ビルの屋上から飛びおり、ワイヤーでスカイタワーのエレベーターに飛び移ろうとしたのである。


「で、最上階まで来たけれど」

「屋上は開放されてないね。鍵がかかってる」

「窓から飛びおりるのは難しいかな。タワーの方角に窓がない」


 俺はそんなことを言いながら、ドアノブをガチャガチャとまわした。

 すると、ピコン! ――っと、まるでゲームのような電子音が脳内で響いた。

 俺は眉をひそめて、音芽を見た。

 音芽は首をかしげた。

 そんな音芽を見て、俺はなかば無意識に行動した。

 音芽の髪からヘアピンを取り、それを曲げ伸ばし、ドアノブの鍵穴に突っこんだ。そしてガチャリと屋上への扉を解錠したのである。


 ―― シーフのスキル『アンロックドア』を習得しました ――


「ええっ!? 今頃になってようやく!?」


 俺は思わずアホみたいな声をあげてしまった。

 まあ、それはさておき、ともかくとして。

 俺と音芽は屋上にあがった。

 そしてそこからワイヤーを使い、鬼神スカイタワーのエレベーター目指してダイブした。


「音芽、しっかりつかまってろよ」

「うっ、うん」

「ちょうどエレベーターが昇ってる。あの屋上に着地するからなっ」

「ガラスは!?」

「割る」


 そう言って俺はカタナをブン投げた。

 カタナはエレベーターの進む先、上方のガラスにあたり、それを粉砕した。

 俺たちはそこからスカイタワーに侵入、エレベーターの天井に飛びおりた。


「このまま第2展望デッキに行くぞ」

「うっ、うん」

「どうした? 怪我したのか」

「ううん、大丈夫。キミのにおいは、お姉さんと同じシャンプーやボディソープなんだよなあって」


 音芽は俺の胸でそんなことを言った。

 俺は苦笑いで頭をかきながらも、しかし相変わらずデカイおっぱいだなあと、まるで緊張感のないことを思うのだった。――




   ▽     ▽     ▽


 第2展望デッキに着いた。

 そこには、やはり警官隊があふれていた。

 俺は狭い通路に逃げ込みながらも、ひとりずつワイヤーで倒していった。


「意外と広いんだな」

「オフィスビルのワンフロアくらいある」

「しかしこの状況。やはりここにいるのは、トリップした鬼神愛のようだな」

「キミの襲撃を予測していたからね」


 俺たちは物陰にひそんで様子をうかがった。

 警官隊は、ほとんど倒したが、それでも銃を持った警官が巡回している。


「なあ、誠也クン。あの通路の先が撮影スタジオみたいだよ」

「しかも時間は、ちょうど12時。父さんはそこにいる」


 俺は通路に向かってダッシュした。

 まるで短距離走のスタートのように跳び出し、警官に襲いかかった。

 そしてそのまま撮影スタジオまで走った。

 俺の後ろでは、警官が音もなく倒れている。


「父さん!」


 スタジオの扉を蹴り開けようとしたそのときだった。

 ドン! ――っと、扉が開いて中から鬼神愛があらわれた。


「てめえ!」

「はんっ」


 鬼神愛は、いきなり発砲した。

 俺はそれをナタで弾くと飛び退いた。

 俺と鬼神愛は、2メートルの距離――すなわち、一歩踏み込めばナタの間合い――そんな距離で相対した。

 鬼神愛の後ろには、父さんのいる撮影スタジオ。

 俺の後ろには音芽、左は一面の壁。

 右は全面ガラス張りの見渡す限りの青い空。


 二〇XX年七月某日十二時。

 父さんが処刑される数分前、それは姉さんが結婚させられる数分前でもある。




「鬼神ィ!」

「ほほほ、やはり来ましたわね」

「ここで決着をつけてやる!」

「望むところですわ!」


 ぎらりと刺すような、鬼神愛の眼光。

 俺はひるむことなく、ワイヤーを飛ばした。

 が、ワイヤーはヤツにあたることなく、空中ではじき返された。

 透明のバリアである。


「ほほほ、おまえは、なにも学習していない。わたくしが何の対策もなく、おまえたちの目の前に現れるわけないでしょう」


 そう言って鬼神愛は、拳銃を俺に向けた。

 俺は肩を撃たれ、ほっぺたから床に突っ伏した。

 歯を食いしばって、顔を上げた。

 鬼神愛は、ひどくサディスティックな笑みで俺を見下ろしていた。


「ちくしょう!」


 と、叫んだときだった。

 後ろから音芽が駆けつけ、その途中で、まるで電流を流されたように仰け反った。そのいきおいで転倒した。

 そして俺のすぐそばに転がりこんできた。

 音芽は俺と目があうと、ニコッと笑った。

 それから、あたりを見まわして、目まぐるしく計算をしはじめた。

 俺が眉をひそめると、音芽は言った。


「やあ、異世界から追いかけてきた」

「音芽? おまえじゃあ、さっきの音芽に乗り移ったのか?」

「その表現はとてもユニークだけど、でもまあ、ボクは蛮痴羅パンチラをよく知ってるほうの早乙女音芽だよ」


 音芽はそう言って立ち上がった。

 パチンコを構えた。

 鬼神愛が、にたあっと笑った。

 すると音芽はパチンコを天井に向けて放った。


 ビスッ!


 パチンコ弾が、なにかを破壊した。

 そして廊下の至るところからスプリンクラーが噴霧しはじめた。

 鬼神愛だけでなく、俺も音芽も霧雨のような消火水にさらされた。

 鬼神愛は、まるでガムでも踏んだような顔をした。

 音芽に向かってこう言った。


「いったい何のつもりですの?」

「さあ?」

「濡らしても無駄です。そんなことは開発者のおまえは、よく分かっているでしょう?」

「まあね」

「まあ、憎たらしいその態度。あなた、いったい何様のつもりですの? そして、いったい何をしたいのですかぁ?」

「えへへ」


 っと、音芽は不敵な笑みをした。

 それから何かに備えるように腰を落とすと、彼女はこう言った。


「ボクがしたかったのは、時間稼ぎ」



 ドゴゴゴォォォォ――――――――!!!!!!!!!!



 音芽が言い終わると同時に、ものすごいツッコミが窓の外から入った。

 鬼神愛を目がけて、というより、ヤツと俺たちの間にミサイルが撃ちこまれたのである。

 俺と音芽は、鬼神愛もろとも吹っ飛んだ。


「危ねえな、この野郎ォ!」


 と、反射的に叫んでしまった。

 すると聞き慣れた、あの、まるで歌劇団のようなとてもイイ声がした。


「あら、元気そうでなによりね」


 白煙がはれた廊下には、とてもイイ笑顔の桔梗。

 そしてロリちゃん。

 ロリちゃんは、鬼神愛をキッとにらむと、エフェクターガンを向けた。

 鬼神愛がよろめき、後ずさる。

 その一歩を制するように、ロリちゃんが撃つ。

 鬼神愛にあたる。

 バリアはミサイルの衝撃で霧散したようだった。


「終わりです」


 ロリちゃんは、もう一度撃った。

 鬼神愛は、ぎろりとロリちゃんをにらみつけた。

 握りしめた注射を自身の首筋に刺した。

 スタジオの分厚い扉を背にして、立ち上がった。

 それから、ゆっくりと俺たちを見まわした。

 鬼神愛は屈辱からくる歯ぎしりで、口から血を噴きだしている。

 俺はヤツを見たまま、音芽に聞いた。


「あの注射は?」

「エフェクターガンのマヒを解毒したんじゃない?」

「魅夏は?」

「……ボクたちをマッハ5まで加速させるには、魅夏が残るしかなかった」

「極大魔法か」

「うん」

「まあ」


 魅夏ならなんとか帰ってくるだろう。

 俺は鬼神愛のところまでズカズカと進むと、とりあえず一発、渾身の力をこめてブン殴った。

 鬼神愛は、まるでボロ切れのように吹っ飛んだ。

 扉が開いて、ヤツはスタジオの床に突っ伏した。


「まだだっ!」


 スタジオには、はりつけになった父さん。

 カメラの前には、市長と警察署長と住職。

 そして鬼神愛がぶっ倒れている。

 俺はスタジオに飛びこみ、全身全霊を浴びせるようなパンチを市長にカマした。

 それから写真を投げつけ、叩きつけるように言った。



「『パンツを見られたら結婚』条例は、明らかに憲法違反だ。これ以上、人権を蹂躙じゅうりんした条例を施行し続けるならばっ! 貴様らの娘の写真をバラまくぞ!!」




■REVENGE1■

 マン・ターゲット    :由利未季 鬼神本町中学二年 十四歳

 マテリアル・ターゲット :コットン100%。若干、ハイレグ気味

 備考          :純白、無地


■REVENGE2■

 マン・ターゲット    :三好聖羅 鬼神南中学一年 十三歳

 マテリアル・ターゲット :コットン97%、ポリウレタン3%。ゆったり

 備考          :大きめのピンクの水玉


■REVENGE3■

 マン・ターゲット    :穴山桔梗 鬼神短期大学二年 十九歳

 マテリアル・ターゲット :ポリエステル100%。ボクサーショーツ

 備考          :淡いピンク、サテン織り


■REVENGE4■

 マン・ターゲット    :鬼神愛 鬼神家当主 二〇代半ばと思われる

 マテリアル・ターゲット :絹と綿の混紡、ハーフレース

 備考          :サテン織り、それはまるで南米のチョウのよう



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