蛮痴羅1・2・3 - PANCHIRA・TRILOGY -

リトルデーモンJ

蛮痴羅 - PANCHIRA -

パンツを見られたら結婚条例

 二〇XX年 七月某日。

 甲信越の地方都市、鬼神おにかみ市。

 鬼神高専の一年二組に、武装した警官隊が突入した。


「浅井! 浅井の娘はいるか!?」


 生徒たちは、口をぽかんとあけたままだった。

 警官隊はそのなかから、ひとりの少女を引っぱり出した。


「浅井記者の娘だな?」


 少女は大きくツバをのみこんだ。

 すると手錠てじょうがかけられた。

 生徒がざわつくと、警官隊は一斉にアサルトライフルを向けた。

 そして言った。


「騒ぐんじゃあない!」


 それと同時に、大型ディスプレイに男たちが映し出された。

 男たちの後ろには、はりつけにされた男が映っていた。


「お父さん!」


 少女は身を投げ出すように叫んだ。

 しかし、両脇から警官におさえられて身動きが取れなかった。

 ディスプレイの男たちは、嗜虐的しぎゃくてきな笑みをして、それから少女に語りかけた。


『恨むなら、父親を恨みたまえ』

「お父さんっ! そこにいるのはお父さんなのね!?」


 少女は泣き叫んだ。

 ディスプレイの男は、それを無視してこう言った。


『ああ、鬼神高専のみなさん、はじめまして。わたくしは市長の由利です。そしてお隣は警察署長、その隣は鬼神寺住職です。ちなみに奥の彼が、彼女のお父さん……浅井記者です』


 はりつけの男……浅井記者が顔を上げた。

 目のまわりは真っ黒になり、額から血が流れている。

 明らかに暴行を加えられている。


『なんでも浅井記者は、『パンツを見られたら結婚』条例に反対なのだそうですよ』

『この条例は明らかに憲法違反だ。人権を蹂躙じゅうりんしている、無効だ』


 浅井記者は、ぴしゃりと言った。

 市長は冷然とそれに応えた。


『だから署名を集めていた。否決しようと企んでいた――そうですね、浅井さん?』

『正統な権利、正統な手続きだ!』


 浅井記者は、叩きつけるように言った。

 すると市長たちは、不気味に微笑んだ。


『ああ、どうにも浅井記者は、この鬼神市のことをよく分かっていないようですね』

『なにをっ!』

『さて、鬼神高専のみなさん、いい機会ですからこれからお勉強しましょう。我々に逆らったらどうなるのかを』


 市長はそう言って指を鳴らした。

 すると教室の扉が開いた。

 みすぼらしい中年男があらわれた。

 中年男はボロ雑巾のように蹴り飛ばされ、教卓のところに倒れ込んだ。

 市長が高らかに言った。


『パンツを見られたら結婚条例・第一項――十六歳以上の未婚の男女が、パンツを見たり見られたりした場合は、二十日以内に結婚しなければならない!』


 この言葉と同時だった。

 少女のジャージが力強く下ろされた。


「いやあぁあああ――――!!」


 少女のパンツがあらわになる。

 それを、みすぼらしい中年男が見上げている。

 市長は満ち足りた笑みで、イヤミたっぷりにこう言った。


『浅井クン、ご結婚おめでとうございます。さて、当条例によってご成婚された方々には、市から土地と住居が与えられます。さっそく、今日から新婚生活を楽しんでくださいね』


 市長は言い終わると横をちらりと視た。


 ――だんっ!


 浅井記者は射殺された。


「お父さんっ! お父さん!! うわあぁあああ――――!!!!」


 浅井の娘が泣き叫ぶ。

 クラスメイトは、下を向いて黙っているしかなかった。

 ただ、そのなかで、ひとりの少女だけは上を向いて歯を食いしばっていた。

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