私の愛した蛮痴羅
日本海の上空を、音芽さんのセスナが飛んでいた。
私は後部座席で、ぐったりしていた。
そしてその横では、お兄ちゃんと魅夏さんが肩を寄せあっていた。
私たちを乗せたセスナは、大らかに飛んで鬼神市に戻っていた。
「燃料、ギリギリ足りないかも」
鬼神市を目前にして、音芽さんが言った。
私たちが眉をひそめると、彼女はあわてて言った。
「大丈夫だよお。学校まで届かないってだけで、ちゃんと国道にでも着陸するからさあ」
「よろしく頼むよ」
と、お兄ちゃんがおどけて言うと、みんなはドッと噴きだした。
夜が明けて真っ赤な太陽が昇っている。
しばらくの後、セスナは鬼神駅前の国道に着陸した。
私たちは扉を開けて外に出た。
するとそこは大歓声だった。
駅前には、たくさんの鬼神市民があふれていた。
セスナに駆けより祝福してくれた。
私たちはたちまち囲まれた。
歓声と拍手、感涙。
それを見た私たちは、ようやく自分たちのしたことの実感がわいてきた。
お兄ちゃんと魅夏さんは抱きあった。
「誠也!」
「先輩!」
「……魅夏って呼べっつってんだろが」
「みっ、魅夏」
「誠也」
ふたりは、あらためてお互いの無事を確かめあった。
全身で喜びを表現した。
音芽さんもそこに混ざってもみくちゃになっていた。
みんな本当に嬉しそうだった。
鬼神市の人々に心から祝福されていた。
私はこのとき、
▽ ▽ ▽
私は彼らを残し、ひとり鬼神高専に向かった。
このまま立ち去るべきだと思った。
いつまでも鬼神市に居続けることはできない。
だったら未練が残らないうちに去ったほうがいい。
それが
「………………」
私はひたすら歩き続ける。
鬼神駅の東口から高専方面へと進む。
顔を上げると鬼神高専、そして遠く東の空には大山塊。
そこには鬼神刑務所があり、向こうのほうにはきっと鬼神の大屋敷。
「なにもかも懐かしいよ」
ほんのわずかな時間なのに、そして客観的には生命の危機にさらされていたというのに、それなのに、お兄ちゃんたちと過ごした日々は、私にとって、かけがえのない甘美な思い出となったのだ。
「こまっちゃうな」
目の前には、鬼神高専の校門がある。
そこにはお父さんの車がある。
そして車の前で、お父さんが泣き笑いの表情で腰をかがめ両手を広げている。
そう。夢からさめる場所に、私は到着してしまったのだ。
「ロリちゃん!」
遠く後ろから、お兄ちゃんの声がした。
私は歩みを止めた。
すこし考えた。
だけど私は振り向かずに空を見上げて、
「ありがとう」
とだけ言った。
そしてそのままお父さんのところに駆けていった。
そうすることが、オトナなふるまいなのだと私は信じたのである。
ところが――。
「はうぅ!?」
突然、私は宙に浮いた。
ワイヤーに引っぱられて、私は天高く後ろへと飛びあがった。
そして気がついたときにはもう、お兄ちゃんの胸に抱かれて丸くなっていた。
「ロリちゃん、水くさいよ」
お兄ちゃんがやさしく微笑んだ。
おそるおそる見まわすと、魅夏さんがニッコリ笑った。
その横で音芽さんもニコニコ笑っていた。
身をよじって、お父さんを見た。
お父さんは、理解あるあたたかな笑顔で大らかに手をあげた。
そして車に乗りこんだ。
魅夏さんが言った。
「これから歓迎会だぞ」
私は屈託のない笑顔で大きくうなずいた。
魅夏さんは、まるで太陽のようなキラキラの笑顔でうなずいた。
それから私の頭を愛情たっぷりになでた。
と。
そんな私たちのところに、テレビや新聞の記者がやってきた。
鬼神市の人々も追いかけてきた。
記者がマイクをお兄ちゃんに向けた。
お兄ちゃんは質問に答えた。
「鬼神市、そしてS県を裏から操っていたのは鬼神家だった。その当主・鬼神愛は、俺たちを支配するだけに飽き足らず、世界征服をもくろんだ。月面にレーザーを設置して、月から恐怖政治を行おうとしたのだ。が」
「が?」
「俺たち
このお兄ちゃんの言葉とともに歓声がわいた。
私たちは再び大歓声につつまれた。
そんな熱狂のなか、記者が私にマイクを向けた。
「ところであなたは? 人質ですか?」
「私はっ」
私はお兄ちゃんの顔を見上げた。
お兄ちゃんは笑顔でうなずいた。
音芽さんがニコニコしながらうなずいた。
魅夏さんが陽気に笑ってうなずいた。
記者がツバをのみこんだ。
みんなの視線が私に集まった。
だから私は――。
すこし照れて、だけど誇らしげにこう言った。
「
▽ ▽ ▽
続発する身勝手な条例に対抗するべく、少女は学校内に特殊機械化部隊を創設した。
その部隊はオトナの理不尽にあらがい、ついに条例をくつがえした。
それだけでなく世界の平和を守った。
幼女とともに、もう一度守った。
祝福された未来を、彼女たちは自らの手で再びつかんだのである。
人は彼女たちを
熱い
■END■
バシュン! ――それは唐突かつ突然だった。
私たちの眼前に馬車が現れた。
みんなが口をぽっかり開けたままでいると、馬車から黒いドレスの女が現れた。
ごてごてとしたゴシックでクラシカルなドレス。
いかにもファンタジーな格好だ。
しかも女は氷の花のように美しい。
「あれっ?」
美女はドレスのスソをはためかせてやってきた。
それからお兄ちゃんを見つめ、だけど背を向けた。
そして首をねじむけ、肩越しにお兄ちゃんを見ると、
「誠也クン! ワタシと一緒に来るのよ」
と、演劇のようなとてもイイ声で言った。
さらに、あごを上げて肩越しに、今度は私を見つめると、
「ワタシは
と、とてもイイ笑顔で言った。
私は自分のことを大人気という人も、美少女という人も初めて見た。
桔梗さんは、お兄ちゃんに念を押すようにもう一度言った。
「誠也クン! ワタシと一緒に来るのよ」
「どこに?」
「異世界よっ」
桔梗さんはそう言って、お兄ちゃんを無理やり連れて行こうとした。
お兄ちゃんが笑いながら言う。
「待ってくれよ。俺たちは今、世界を救ったばかりだし、これからロリちゃんの歓迎会なんだ」
「ああ、そのロリっ子も連れて来なさい。その子にも関係があるわよ」
「ちょ、待てよ。俺たちに何か関係があるのかよ」
「えっ? ……ああそうそう、関係あるわよ大問題よ。早くしないと手遅れになるわよ」
「なんだかウソくせえなあ」
魅夏さんが桔梗さんの顔をのぞきこんだ。
桔梗さんは、あごを引いて目をそらした。
だけど魅夏さんは、興味津々といった感じで馬車に乗りこんだ。
お兄ちゃんも音芽さんも首をかしげながらも馬車に乗った。
私もなんとなく状況に流されて馬車に乗った。
桔梗さんは
「マッハ5でトラックに
「ねえ、マッハ5に加速するには道路が短すぎない?」
音芽さんが呑気に聞いた。
すると桔梗さんはドヤ顔で言った。
「これから行くところは、そんな物理法則はいっさい通用しないわよ」
そして桔梗さんは杖を天にかざした。
すると、ものすごい勢いで空に黒い雲が立ちこめ、嵐に街がどよめいた。
ビシャ! ――と、雷が杖に落ちた。
私たちの馬車は蒼白い炎につつまれた。
「行くわよっ」
桔梗さんが杖を振りかざした。
すると馬車はありえない速度で飛びだした。
向かう先には大型トラック。
というか、あっという間にはねられた。
そして。
「なんじゃこりゃあ!?」
気がつくと私は異世界にトリップしていたのである。
To be continued…→ って感じで。
■蛮痴羅2 - 怒りのロリガン - END ■
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