こっち来ないでください! 4

「ま、まあその辺りは気にしないでください。私達の方も、ずいぶんと昔の話ですから」


「そうだね……って、アイアコス。一つ相談に乗ってくれないかな?」


「はい?」


「実は――」


 かくかくしかじか。

 実際にそう言ったわけではないけれど、とにかくハーデスは現状のトラブルを報告する。


「……なるほど。そこで神々の調停にも連れ出される私が、判断を下せば良いのですね?」


「そうなんだよ。出来ればみんな納得させたいんだけど……」


「お言葉ですが、我が王よ」


「な、何?」


 アイアコスはやけに真剣な表情だ。いいですか、と短く前置きして、


「全員が幸せになれる判決など、存在しません」


「そ、それは……」


「必ず誰かの恨みを買います。ましてや神々の争いとなれば当然のこと。……その覚悟はおありですか?」


「う、う、うん、あるよ」


 第三者が聞けば不安しかない。

 しかしアイアコスは納得して、静かに自分の世界へと入りこむ。

 誰もが見守る中、静寂だけが流れていった。


「――ま、誰がどう考えてもアドニス君が悪いですね」


「あ、あれ? 前フリは必要だったの?」


「雰囲気ということにしておいてください。――しかし、ハーデス様もそうだとは思いませんか? アプロディテ様は言ってしまえば、彼を拾っただけでしょう?」


「まあそうだけど……ほら、恋人関係、って考えればさ。アドニス君がアプロディテに時間を使うのも、自然じゃないかな?」


「ふむ、確かにそうかもしれません。ですがアプロディテ様は、自分が母親だと主張しておられるのですよね?」


「うん、そう言ってた。母親みたいなもんだ、って」


「でしたらアプロディテ様を糾弾すべきでしょう。ヘラ様については、そこで収まるでしょうし」


「そっか……って、アドニス君の意見はどうするのさ? 彼にも聞いた方が――」


「ハーデス様」


 がっしりと冥界王の肩を掴むアイアコス。

 いつもの彼とは思えないぐらい、怖い表情で語り始める。


「裁判において有利なのは、自分に好都合な事実を叩きつけ、そのまま勝ち逃げすることです」


「き、君からそういう台詞は聞きたくなかった!」


「人には誰しも闇があるのですよ。フフフ……」


 アイアコスの株価、暴落。

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