取り戻せアンケート! 3

「うおっ、眩しっ」


 天界を満たす光に、ケルベロスは驚くばかり。

 一行はヘラを先頭に進んでいく。笑顔なのはペルセポネただ一人。

 ハーデスは歩いてこそいるものの、黒々としたオーラをまとって俯いていた。彼にとって好都合な味方など、誰一人存在していないらしい。


「……っていうか、我まで一緒に来る必要があったのかな? アンケート用紙を取り戻すだけなら、他の人でも、ね?」


「アンタ、冥界から物が盗まれたのよ? ちょっとは恥ずかしく思わないわけ?」


「いや、我はこのアンケート自体どうでも――痛い痛い、痛いって! そんなに腕引っ張らないでよ!」


「じゃあキビキビ歩きなさい。……ってか、ここからはもう、ペルセポネに任せても良さそうね。逃げようったって逃げらんないだろうし」


「ええ、お任せください!」


 先頭に立ってハーデスを引っ張っていたヘラは、手を離すと歩く速度を上げ始めた。

 ストレス塗れの女神から解放され、安堵の息を零すハーデス。ペルセポネが隣へ並ぶころには、すっかり表情も和らいでいた。


「旦那様、どうですか? 久々の天界は」


「日差しが強い……我の白いお肌が焼けちゃうよ」


「あの、そういうのを気にするのは私だと思うんですけど?」


「うん、そうだね。今のはちょっとした冗談だよ」


 やや生気のない笑みを浮かべ、渋々ヘラの後を追う一行。

 天界に入ってしばらく時間が立っているが、ハーデス達の注目度は高まる一方だった。そもそも女王ヘラが同行しているわけで。嫌でも目立ってしまう。


「なんか嫌だな……我、ジロジロ見られるのは苦手なんだけど」


「ふふん、旦那様。私にいい考えがありますよ」


「ど、どんなの?」


「周りにいる人全員、私だと思えばいいんです!」


「な、なるほどっ」


 それは名案だ! と、さっそくハーデスは実践に移る。

 だが。


「――いや、常識的に考えて無理じゃない? どれだけ思い込んだって、現実は目の前に存在するんだし……問題を隠しちゃうのは良くないよ」


「じゃあ、さっきみたいに目隠ししましょう、目隠し! 私たちが仲良しなのもアピール出来ます!」


「え、ええっ!? こんな公衆の前で!?」


「もちろんです! さあ――」


「待つのじゃあ!」


 天界全域に響き渡るような、威厳に満ちた声。

 雷鳴を轟かせながらやってくる神の正体を、知らない者は誰もいない。


「ぜ、ゼウス!?」


「ハハハハッ! 久しぶり――」


「ゼウスっ、アンタねえ!」


 降臨するゼウスに、ヘラの飛び蹴りが炸裂した。

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