ようこそタルタロスへ 3

 タルタロスの奥地。自然の光が一切届かない場所に、その光景があった。

 山積みされた樽、テーブルに並んだ肉と野菜。そのいずれもが巨大であり、大量だった。


「ど、どうしてこんなに沢山……」


「半分は人間たちからの献上品じゃな。野菜の方はワシが育てた。農耕の神じゃからな」


「な、なるほど……」


 それにしても、物凄い騒ぎだ。

 タルタロスの住人はほとんどがティターン神族になる。つまりは巨体の持ち主ばかり。宴会が行われていることもあり、耳を塞ぎたくなる程うるさい。


「うん? こういう騒がしいのは苦手か?」


「まあ、少し」


「ならワシの腹にでも入るか? 静かじゃぞう?」


「い、いやだよ!」


「ははっ、やはりか!」


 当時を思い出してか、ハーデスは顔色を悪くする。

 クロノスは妻が子を産む際、次々に飲み込むという前科があった。自分の支配権を子供に奪われる、という予言を受けたためである。

 ここで飲み込まれたのは、ゼウス以外の全員だ。あとで吐き出されたわけだが――つまりはまあ、いろいろとベトベトなはずで。ちょっと想像したくない。


「いやあ、あのころはワシも若くてなあ。うむ、この席で改めて謝罪をしよう。さ、奥に行くぞ」


「えっと父上……椅子のサイズとか……」


「ああ、それがあったか。ヘカトンケイル殿にでも、持ってこさせるかのう」


 おーい、と会場に声を飛ばすクロノス。

 反応したのは百本ほど腕がある、三人の兄弟だった。

 彼らも酔いが回っているらしく、赤い顔でこちらに手を振っている。しかしクロノスからの意図は伝わったようで、直ぐ会場を後にした。

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