迷惑千万な女神たち 4

「ぶー、ひどくない? 神様に人間の法則を当てはめるなんてー!」


「い、いや、だったらどうして運転免許取ったのさ……」


「だって乗り方が分からないと困るでしょー?」


 それはまあ、そうですけど。

 正論っぽいことを言われて、ハーデスはどう答えたものか迷っていた。

 しかしここでアプロディテを説き伏せれば、先ほどの妙な事件も止まるんだろう。面倒事を避けたい冥界王としては、食い下がること大切だった。


「あ、アプロディテさん? あのですね、不用意に人を殺されると、我は迷惑っていうか……」


「露骨に媚売ってますね」


「まあハーデス様ッスから」


「おお、素晴らしい説得力です」


 変な意味で、人望があるというべきか。

 ハーデスは冷や汗を流しながら、アプロディテの反応を待っている。ほんのりと顔を赤くしているのは、女神が持つ魅了の力に引っ掛かっているからだろう。

 危機感を露わにしたのは、必然的にペルセポネだった。


「いけません旦那様! 目隠ししましょう、目隠し!」


「め、目隠しって……ちょっとセポネさん!? 当たってる! 当たってるんですけど!?」


「ふふ、ナニがですか?」


「そ、それは……」


 純情ボーイには、答えることなんで出来なさそうだ。

 ともあれ、話は再び進み始める。背後から嫁が密着しているハーデスは、それどころじゃなさそうだけど。


「え、えーっとさ! アプロディテはどうして事故を起こしたりしてるのかな!?」


「ふふん、それはねー? 私の気に入った子たちと、冥界で生活するためなのー!」


「わ、我的にはご遠慮願いたいです……」


「えー、どうして? 冥界で暮らせば、死を恐れる必要はないでしょ? だから冥界でも一番綺麗なエリュシオンに、まとめて移住しようと思うの! 名案でしょー?」


「いやまったく」


 そもそも殺される側にすれば、迷惑なだけのような気がするが。

 しかしアプロディテは引く気配がない。自分の案をよっぽど気に入っているようだ。


「旦那様、私は絶対に反対ですからね。アプロディテ様は、トラブルを持ち込むことにしか能がないんですから」


「ちょっとペルセポネちゃーん? どうしてヒドイこと言うの?」


「事実を述べただけです」


 まったく、と嘆息交じりに、ペルセポネは美の女神を非難する。


「貴女は以前もそうでした。私の可愛い可愛いアドニス君のときだって……」


「どうしてー? あの子は、私が母親のようなものよー?」


「育ての親は私ですっ!」


 ハーデスの目を押さえたまま、ペルセポネはしかと言い切った。

 アドニスとは、ギリシャ神話でも一番の美少年と呼ばれる男性のこと。アプロディテは美しい彼に一目惚れし、その養育をペルセポネに託したという経緯がある。

 問題だったのは、このアドニスをペルセポネが気に入ってしまったということだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る