こっち来ないでください! 3

「わ、我にいい考えがあるよ! 我よりもっと公正なルールが!」


「はぁ!? 誰も公正なんて求めてないわよ! アタシに有利なルールを出しなさい、アタシに有利な!」


「む、無茶苦茶だ……!」


 もはや追いつかれたも同然の状態。割と至近距離で会話する兄妹は、いつか城の外へと出ていた。

 普段なら起こらない、ハーデスの外出。

 タルタロスへの移動と、立て続けに起こった事態へ人々の視線が集まる。


「おお、ハーデス様!」


 一番最初に反応したのは、裁判官の一人アイアコスだった。

 有象無象のモブ達は、冥界王の名前を聞いて竦み上がっている。……真実を知ることが出来れば、その恐怖はどれだけ軽減されることか。


「あ、あら」


 慌てているのはヘラも一緒。

 体裁だけは取り繕おうと、彼女は急に上品な振る舞いへ戻っていく。

 まあ、それが強引なものであることは明白だった。実際、こめかみに青筋が走っているし。


「……おお、これはヘラ様。お久しゅうございます」


「え、ええ、久しぶりねアイアコス。元気だった?」


「この通り。ハーデス様はとてもお優しい方ですし、尽くす意味もあるというものです」


「……だ、そうッスよ?」


 ハーデスの心には、重く響くだけだった。

 一方、アイアコスとヘラの間には重い空気が漂っている。……当然か。アイアコスはゼウスが浮気をした結果生まれた子供であり、例によってヘラから虐げられた経歴を持つ。


「じゃ、じゃあ私はこれで。お兄様、ちゃんとルールを、カンガエテオイテネ?」


「なんでカタコトなのさ……」


 ハーデスの疑問に答えることなく、ヘラは来た道を戻っていく。

 直後に溜め息を零したのはアイアコスだった。生前を思い出しているのか、その顔には怒りがにじみ出ている。


「アイアコスはやっぱり、ヘラのことが嫌いなの?」


「好きにはなれませんね。私の民は、あの女神によって殺されました。それもただ殺されるだけではなく、少しずつ少しずつ追い詰められていったのです。簡単には許せません」


「だよねえ」


 餓死。

 ヘラはアイアコスの出生から彼を憎み、彼が統べる島に無数の毒蛇を向かわせる。

 これによって島の川は、疫病が蔓延する毒の水に。さらにヘラは追い打ちをかけ、猛烈な日照りによって島の環境を乱しに乱した。


「我が民は、渇きと飢えに苦しみました。しかし川から水を汲もうにも、ヘラ様が放った毒蛇によって汚染されて……仕方なく、酒を飲むことにしたんです」


「……でもお酒って、利尿作用があるから体の水分無くしやすいんじゃなかったっけ? アルコールがどうとか」

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