ようこそタルタロスへ 8

『いやあ、いつも息子がお世話になってます。ゼウスさんもよろしくお願いしますねー』


「は、はあ……」


 名前しか知らないせいか、ハーデスは唖然としている。

 テュポーンといえば、大地母神ガイアが生み出した怪物として有名だ。神々の王であるゼウスと死闘を繰り広げ、一度は勝利すら手にしている。


『あ、ケルベロス、元気ー?』


「この通り元気ッスよ。いい主人にも巡り合えたんで」


『そっかー。まあ機会があったら、僕のところにおいで、エトナ火山のマグマ、いい湯加減だからさー』


「……」


 それはアンタに限った話だ。

 テュポーンは敗北する際、山を投げつけられてその下敷きとなった。それによって誕生した火山が、地上のエトナ火山。ヨーロッパ最大の活火山であり、休むことなく噴火している。


『あ、他の皆は元気かなー? ヘラさんにコレクションされてる、って聞いたんだけどー』


「いや、俺もしばらく会ってないッスよ」


『そうなのー? あれ、オルトロスとは?』


「まあ連絡は取ってるッスね」


 兄弟の中でも、ケルベロスとオルトロスは特に似ている。

 ケルベロスが三つの頭を持つのに対し、オルトロスは二つの頭を持つ番犬だ。これまた母親との間に多数の子を産んでいる。

 兄弟の中では当り前のように、ヘラクレスへ敗北した経験の持ち主だ。


『まあお父さんは元気だから、子供たちによろしくねー。ハーデスさん、息子をよろしくお願いしますー』


「あ、はい」


 ではでは、と頭を下げていく怪物の父。

 最後の最後まで、ハーデスは唖然としたままだった。

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