ようこそタルタロスへ 7

「そうですねえ。あのころは、旦那様も働いていましたから。最近はアレスさんとも会っていないんでしょう?」


「ま、まあ……」


 ゼウスの息子アレスとハーデスは、ちょっとした友好がある。

 いや、商売仲間とでもいうべきか。アレスは戦いにおける狂気、死を象徴している。彼自身も、死者の山とかマジサイコーっすわ、とか言ってしまう外道で、冥界によく死者を送り込んでくる。


「シーシュポス君に騙された時、アレス君はすごい焦っててねえ。なんでも、我が掴まったせいで人間が死ねなくなっちゃったんだって」


「ええ、聞きました聞きました。伯父貴ィ! って助けに来たんでしたっけ」


「そうそう。いやー、あのときはアレス君が輝いて見えたね。普段はみんなから馬鹿にされてるけど、自分の職務はきちっと果たす男だよ」


「同類として同情してます?」


「え、いや、そういうわけじゃ……」


 きっとそうだ、そうに決まってる。

 何せアレスは、軍神という名称すら背負うに値しない。半神半人のヘラクレスに殺されかけ、鍛冶を専門とする神に敗北し、同じ軍神である姉には手も足も出せない。

 浮気現場を神々に暴露されるわ、うっかりツボに入って出られなくなるわ……

 ここまでくると、やっぱりハーデスとは同類なんじゃなかろうか?


「――そういえばハーデス。お主の犬、ケルベロスとかいうやつか?」


「? そうですけど……」


 ふむ、とクロノスは何やら思案顔。


「では感動の再会とでもいくか。本人も会いたがってたしの」


「ま、まさか父上……」


 二回ほど、両手を鳴らすクロノス。

 応じたのは背後、深い穴の奥だった。何か圧倒的に巨大な、一つの命が上がってくる。


『あ、どうもー』


 ひょっこりと顔を出したのは、ギリシャ神話にて最大最強の魔獣。

 テュポーン。

 つまりは、ケルベロスの父親だった。

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