第三章 女神に公共のルールを求めてはいけない

迷惑千万な女神たち 1

 タルタロスでの宴会を終えたあと、ハーデスは冥界にある居城へと戻っていた。

 もちろん、部屋の構図は外に出る前と変わらない。ゲームに熱中するハーデスと、餌付けされるケルベロスと、それを眺めるペルセポネがいるだけだ。


「平和ですねえ、旦那様」


「地上もそうなればいいんだけどね……そうすれば仕事が減って、ゲームする時間増えて、万々歳じゃないか」


「でも、地上では妙な事件が起こっているそうですよ? ほら」


 ああっ! とハーデスが反対するのを無視して、ペルセポネはテレビのチャンネルを切り替える。

 映ったのは、交通事故の現場だった。

 猫のマークがプリントされた、日本の有名な運送会社。そのトラックが、電柱に衝突した映像だった。


「ふうん、派手な事故だね。むむ、もしかして死人が出たとか? 嫌だなあ」


「それ、被害者の不幸を思ってじゃなく、仕事を面倒くさがって言ってますね?」


「いやまあ、うん」


 否定もせず、率直に答えるハーデスだった。

 現場にいるキャスターは、少し興奮した状態で状況を解説する。


『ここ数日、市内ではトラックによる事故が多発しています。しかも共通して、事故直後のトラックには運転手がいません。運転手も、独りでにトラックが動きだした、と証言しています。他の目撃者も――』


「……なんだか、不気味な話だね」


「でしょう? しかも日本といえば、旦那様がプレイしているゲームを作ってる国じゃないですか! これは無視できませんね!?」


「え、無視するよ。我の仕事が増えるじゃないか」


「私、母のところに帰っていいですか」


「よ、よし調べよう!」


 本当、分かりやすい。

 しかし言葉の意味に気付いたようで、ハーデスの表情は徐々に歪んでいった。


「調べるとなると、外に出るんだよね……?」


「はいっ。いいですよねー、日本! 私、一度観光してみたかったんですよ! 二人も初めてですよね?」


「いや、俺は行ったことあるッスよ。ハーデス様のパシリで、裁判官の人と一緒に」


「ぱ、パシリって言わない! 確かに通販で頼んだゲーム取りに行かせたけど!」


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