兄に勝る弟などいないっ! 2
「よし、じゃあこうしよう」
パン、と両手を打ったハーデスに、場の視線が集中する。
ペルセポネはちょっとした期待の目で。甥っ子たちは緊張した面持ちで見守っていた。
「二人が我の仕事をどれぐらい楽にしてくれるかで、優劣を決める。これでどう? 我、お仕事めんどくさくて困っててさ……」
「――」
一気に空気が冷え込んだ。
ペルセポネはもちろん、アレスとへヘパイストスまでもが動きを止めている。蔑むような視線も一緒だった。
「え、え? 何この空気? 我、変なこと言った?」
「いや旦那様……」
「甥にそれを求めるのはどうなのでしょうか?」
「うぐっ」
真面目なヘパイストスから、これまた真面目な返答。あろうことかアレスまで頷いている始末だった。
「伯父上、伯父としての威厳まで捨ててどうするのです? 父上がまた腹抱えて笑い始めますよ?」
「そうだぜ伯父貴。俺だって、自分の仕事をロクに出来ねえ人間はどうかと思う」
「へ、へっぽこ軍神にまで言われたよ!?」
アレスに同族意識でもあったんだろう。ヘパイストスの指摘より、大分ショックを受けている。
反面、口にした本人は偉そうに胸を張っていた。
「へへ、伯父貴。俺はギリシャじゃヘッポコだが、ローマにいけば違うんだぜ? 何せ建国者の父親だからなあ!」
「なん、だって……!?」
そう。ギリシャでは人気がなかったアレスだが、ローマでは地位がグレードアップしている。名前もマルスというものに代わり、市民から多くの信仰を集めたとか。
ちなみにハーデスは、ローマでもあまり扱いが変わらない。
「はは、俺は伯父貴とは格が違うのさ。ついでに言っちまうと兄貴ともな」
「ぐ、ぐぬぅ」
「ふっ、僕にも一つ、君には出来ないことをやってのけたけどね」
自信満々に言うヘパイストス。確かに、彼の鍛冶の上では相当なものだ。神々や英雄の使用する武具は、有名どころを彼が抑えていることも珍しくない。
例えばアポロン、アルテミスの二柱。二人がそれぞれ使う弓は、ヘパイストスが制作したものだ。
また、トロイア戦争に参加した大英雄アキレウス。彼の武具一式も、この鍛冶神が作り上げた逸品である。ハーデスたち兄弟に武具を与えたキュプクロスを従えているところも、その腕を証明する根拠だろう。
しかし彼には、まだ自慢の品? があった。
「なにせ僕は、美少女をこねくり回したことがあるんだよ!」
また違う方向性で、空気が白けた。
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