来ちゃったよ!? 6

「伯父上のため、このアイアコス、一肌も二肌も脱ぎましょう。王のためとあらば、同胞達も頷いてくれる筈。貴方に尽くすのは、我らの義務なのですから」


「あ、あの……アイアコス君?」


「それでは我が王、失礼します。我ら裁判官、この危機をみごと乗り越えて御覧にいれましょう!」


 言うなり、アイアコスは恭しく礼をする。

 止めようとするハーデスだったが、ぼやき声にも近かったため、アイアコスが振り返ることはなかった。シャキッとした姿勢のまま、静かに部屋のドアを閉める。

 一人と一匹による非難の眼差しが、ハーデスに降り掛かった。


「うわあああ、見ないで! 我のこと見ないで!」


「だって旦那様、アイアコスさん大変だと思いますよ? 今からでも追いかけた方がいいんじゃないですか?」


「そ、それは嫌だ! 我は部屋から出たくない! あと皆に見られるのも恥かしい……」


「でしたら『姿隠しの兜』を使っては如何です?」


 おお、とハーデスは納得して相槌あいづちを打った。

 その兜は、彼が持つ武具の一つである。効果は名前の通り、姿を見えなくするもの。さきほどの問題を解決するには、うってつけの代物だ。

 しばらく使っていないが、部屋の隅に兜はきちんと置いてある。

 ホコリまみれな伝説の武具を、ハーデスは震える腰で持ち上げる。


「お、重い……っ!」


 年取ったんだなあ、と納得させるような一言だった。

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