取り戻せアンケート! 1

 アンケートの話を出してから、一週間後。

 城の中でヘラとアプロディテが口論し続けるため、ハーデスの精神は限界に達しつつあった。


「うう、どうして二人とも我の家に滞在するんだ……落ち着いてご飯も食べれないよ……」


「まあまあ、いいじゃないですか。奥さんの手料理が食べれるんですから」


「そうだね……って、セポネはいつまでここにいるのさ? 地上は大変なことになってるのに」


「うふふ、ずーっと一緒ですよ。ずぅっと、ね」


 冗談なのか本気なのか、ペルセポネは影の指した笑顔で、ハーデスを睨んでいる。


「――まあともかく、私はもう少し冥界に残りますから。旦那様だってそっちの方がいいでしょう?」


「そりゃあ、本音を言えばね」


「だったら問題なしですねっ。新婚さんみたいにイチャイチャしましょう、イチャイチャ!」


「は、恥かしいってば……!」


 抱きつきてくるペルセポネを躱そうとするが、彼女も素直には退かない。じゃれ合う猫のように、夫の傍から離れなかった。

 しかしそれを見て、露骨に機嫌の悪そうな方が一人。


「おいアンタら……」


「う、うわあっ! ヘラ様ごめんなさーい!」


「分かればいいのよ、分かりゃあね。ったく、こっちは旦那と会ってすらいないってのに……」


「ゼウス、どこか行ったの?」


「地上の可愛い女の子を探す、って出てったわよ。時代は純愛じゃな! とか何とか」


「前は浮気と不倫って言ってなかったけ?」


「あ?」


 ヘラが怖い目をしたので、これ以上の追及はお察しください。

 と、そんなタイミングでアイアコスが部屋へと訪れる。前回と同じように、ヘラとは微妙な雰囲気だ。まあお互い喧嘩腰ってわけでもないので、最悪の展開までは至っていないが。


「ハーデス様、一大事です」


「へ?」


「集めたアンケートが、何者かによって奪われてしまいました……! 申し訳ない!」


「う、奪われた!?」


 皆の視線が、一斉にヘラへと集中した。

 しかし彼女に覚えはないらしく、必死に首を振っている。


「じゃあアプロディテだね。さすがにセポネはやらないだろうし……」


「当たり前ですっ。そもそも私が調べたところ、一位は私だそうですよ? 私の名前欄に、デカデカと『冥界の女王』って書いておきましたし! 私を支持すれば冥界での安全は保証します、とも書きました!」


「もう汚職レベルだなあ……」


 彼女も自覚はあるらしく、笑って過ごすだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る