頑張れお兄ちゃん 8

「アンタにゃ宝の持ち腐れよ。ここは魔獣コレクターことヘラ様に譲りなさい」


「え、ヘラって魔獣好きなの? 神々の女王なのに……」


「はあ? 女王がペット好きじゃいけない理由があるわけ? 頭たくさんあるやつとか、もう最高じゃない。ねえセポネ」


「いや、私に振られても……」


 分かりませんよ、と返され、ヘラはこれ見よがしに嘆息した。


「ナンセンスなやつらねえ。多頭とか合成獣は時代を先取りしてるのよ? 今のうちにコレクションしておかないと、出遅れるんだからねっ、ハーデス!」


「別に我は興味ないし……あ、だからってケルベロスは渡さないよ? 我の大切な――」


「大切な? 何よ?」


「の、惚気話を聞かせる相手なんだから、うん」


 どうしてそこで自信なさげなのか。

 それでもハーデスの告白に、ペルセポネとヘラは面食らって動かなかった。もちろんケルベロスは平常心である。実際、冬が去った後に爆発させたくなるような話を延々と聞いたわけだし。


「くっ、何でアンタがリア充なのよ!? こっちは日々、夫の浮気調査で忙しいのよ!?」


「もう放っておけばいいじゃないか……どうせ君、ゼウスから離れられないんでしょ?」


「は、はあ? なにデタラメ言ってんのよ?。わ、私だって、浮気の一つや二つしてやるんだから。べ、別にゼウスのことなんて好きじゃないもの」


「ツンデレ、ってやつだね」


 直後、ハーデスの悲鳴が聞こえたのは言うまでもない。


「仕方ないわね、ケルベロスについてはあきらめてやるわよ」


「そ、それはどうも……」


「ただ代わりにね、ちょっとお願いしたいんだけど」


「?」


 ヘラはなにかを思案している様子だった。

 ハーデスは気が気でないらしく、タイミングを見計らって部屋を抜け出そうとしている。もちろん、ヘラが服を掴んでいるため動けない。


「頼みってのは一つよ。――お父様たちへ会いに行ってほしいの」


「ち、父上に!?」


「ええ。だって――」


 ヘラは一息。


「もう一度ティターノマキアを起こすって、噂だもの」

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