雷藤和太郎

いい思い出も、悪い思い出も、消える時は消える。 消えていく記憶の中で、消えないものを人は選ぶことができない。 どれだけ過去を旅しても、本当に失ってしまった過去を見つけることはできず…続きを読む

中島敦の『文字禍』は、文字に憑りつかれて殺された研究者の話である。 文字は人間によって発明されたが、その利用のために人間は弱くなっている云々。 この物語は、そんな文字の禍などどうで…続きを読む

怒りや嫉妬といった負の感情は、ジュブナイルにはご法度だ。 僕らはいつからそれらを塩辛のように、ゴーヤチャンプルーのように食べられるようになったのだろう？ ただ一つ言えるのは、負の感…続きを読む

告白は、する方もされる方も大変だ。 する方はする方の、される方はされる方の苦労がある。 だからと言ってどちらかしか経験できない人、どちらも経験できない人がいて、その苦労を知るのは難…続きを読む

人工知能の発達は、人類に新たなる問いを生み出した。 「これは人間の手によるものなのか？」 最後の砦と思われた想像的作業さえも奪われたとき、人間“だけ”ができることとは……。 最後の…続きを読む

相手の姿を捉える時、私たちは当たり前のように相手を見る。 見ることで、その大きさや存在を感じることができる。 見えている世界が歪んでいれば、視覚のある者にとって世界は歪む。 本当の…続きを読む

剣と魔法で戦う世界がファンタジーだ。 魔王と勇者、そして姫がいれば、そこに芽生える恋もある。 三人いれば関係はこじれる。ファンタジーでもそこは変わらない。 シンプルイズベスト。そう…続きを読む

彼は人間ではない、化け者だ。 そんな少女の思いはやがて本物の化け物を生み出し、飼い馴らし、内を食らう。 その化け物は、化け者か？ 人ならざる者であることは確かだろう。一つ目の持つ意…続きを読む

これは罰だろうか？誰にとっての罰だろうか？ いつの世にも、人には犯してはならぬ罪がある。罪には罰が与えられる。 他人が与えられない場合には、お天道様が、あるいは神さまが。 しかし罰…続きを読む

戦闘シーンがなかなかに面白いです。 クリスマスの一夜をモチーフにしているにも関わらず、相対する敵は意外にも……。 その敵の攻撃方法もまた意外な搦め手。 そのアイデアと戦闘描写はとて…続きを読む

不思議な雰囲気の中で、不穏に話が進む。 男なら誰しも不安に思う間男の存在。赤鬼、屋根裏、ソファ……。 全ての符牒の先に見える答えは、思わぬ展開を見せる。 妖怪も、鬼も、いるのです。…続きを読む

生き続ける人間と、稼働し続けるロボット。 長く生き続ける、というのは定められた命を越えると孤独を引き連れる。 物語は、二つの個の孤独を通してそれぞれの生き方を問う。 生きるからこそ…続きを読む

人はパンのみに生きるにあらず。パンとパンツを交互に食べるんだ。 欲求とは不思議なもので、簡単には抗えない。 パンを食べたい欲求も、パンツを見たい欲求も、根源は同じ。 自分の足りない…続きを読む

クリスマスは、幸せを求める日だ。 誰かが幸せになって欲しいと願うから、クリスマスは幸せな日になる。 その願いが奇跡を呼び、幸せを呼ぶ。 本当のクリスマスとはなんだろうか。僕には少し…続きを読む

イチゴの花は小さくて白い。 花弁の白と真ん中の黄色のコントラストが心地よく、そして実る果実は赤い。 果実は赤い……。 イチゴの知識が蓄積するほどに謎は増え、ラストで一気に謎は確信へ…続きを読む

既視感というのは、文化の根幹だ。 変身したり合体したり、三分しか活動できなかったり、金髪の姫が小柄な貧乳だったり。 そういう「お約束」の中で作られた物語は強靭だ。共通する文化の中で…続きを読む

フックとパンは約束する。「俺とお前は敵同士だ」と。 パンは子どもの代表として、フックは大人の代表として。 子どもが「不完全な大人」だと思われていた頃、パンはヒーローだった。 でも、…続きを読む

世の中には、自分と波長の合うものと合わないものがある。 好き嫌いでは語れない、肌に合う感覚は言い換えれば「心地よさ」だ。 他人にいくら変だ嫌だと言われようと、自分にとって心地よいも…続きを読む

勇者とは勇ましい者だ。優しい心で世界を救う正義の存在。 しかしその強大すぎる力のために、正義に仇為す悪を倒すために、周囲に多大な犠牲をもたらしうる。 扱いに困る力は、魔王よりもずっ…続きを読む

誰もが「誰かに見られる自分」を意識する。思春期は特にそうだ。 女子は誰かに見られることを一種の化粧のように扱う。主人公の杏奈もその一人。 見られる女子は、見る女子を想う。しかし見る…続きを読む

それを人は「願い」というのだろう。 何かを願うことで、偶然にもそれが実現したとき、それを僕らは魔法だと思う。 友だちと同じ気持ちを共有していると思うことも、一つの願いだ。 憧れのあ…続きを読む

幼心の竜は、三人仲良く暮らしている。 その様子は日だまりのよう。寒い日、暑い日、なんてことない日。日常を生きる竜。 その当たり前の日常を壊すのは好奇心だ。 好奇心が殺すのは、果たし…続きを読む

誰かへの思いは泡のよう。 人魚姫は、その姿を泡と変えて消える。その身全てを誰かへの思いに変えてはじける。 はじけて無くなる泡は、いつまで人の心に残り続けるだろう？ 願わくは、泡その…続きを読む

何かを得るためには、何かを犠牲にしなければならない。 得るものが大きく、摂理に違反しているほど、犠牲は大きくなる。 そうして得た先に手にしたものが、その隙間からこぼれ落ちてしまって…続きを読む

人は、求められるだけでも、求めるだけでも成り立たない。 気づく心こそが思慮深さだ。そして、思慮は他人にも、自分にも働く。 冠婚葬祭は、誰かのために行う。 誰かのために行うのを理由に…続きを読む

夫婦の会話は中身が無い方がよい。 なぜなら、毎日中身のある話ばかりをするのでは、肩が凝るからだ。 ふらふらとあっちこっちへ物語は蛇行し、しかし行き過ぎると引き戻される。 そんな実の…続きを読む

楽しそうな日常だ。読んでいてどこにも疎ましさがない。 登場人物全員が青春を謳歌している。鬱屈した思いがない。 モテることも、モテないで同性とつるむのも、等しく青春だ。 クリスマスと…続きを読む

私たちはどうして遠く思う人に呼びかけるのだろう？ それは文句を言うためでも、涙を見せるためでもない。 呼び声は、常に誰かのやわらかな笑顔のためにある。 届かないはずの呼び声が届くな…続きを読む

古来、日本人は殊更に髪の毛を特別なものとして扱ってきた。 それは力の象徴であり、美しさの象徴であり、そして人体の天辺の存在である。髪は「上」に通じ「神」へ転ずる。 そんな髪を切って…続きを読む

男女の恋愛模様を「男はフォルダ保存、女は上書き保存」などと言う。 男は前の女を忘れられず、女は前の男などあっさり忘れる。 ならば、男のフォルダにたった一人の女しか保存できなかったら…続きを読む

思い出の場所を辿る時、人はさまざまな過去を思い出す。 良い思い出も、悪い思い出も、その場所は思い出させる。呼び起こさせる。 しかしそこは死ぬべき場所ではない。 鳥は、生きるために空…続きを読む

子どもの時は、色んなものと戦う。色んなものから逃げる。 大人になると、戦ったり逃げたりしたものとの付き合い方が分かるようになる。 それを成長というのか、妥協というのかは、誰にも分か…続きを読む

終わりの街、その意味は複雑だ。
ある少女にとってその街は故郷であり、ある大人にとってその街は恐怖の象徴である。
終わり、とは何の終わりなのだろうか。
戦争？平和？それとも……？

狂気とは伝染病のようなものだ。 空気を介して感染し、その集団が根絶を目指さなければ治らない。 人を狩るのは果たして狂気か、それとも人を狩らないのが狂気か。 本当に恐ろしいのは、気づ…続きを読む

私たちは、四季の輪の上をグルグルと歩いている。 円を描くように歩くたびに、次の季節と巡り合い、今の季節と別れる。 しかし別れた季節もいずれまた次の季節となって出会う。 そうやって何…続きを読む

彼誰時の霧は、不思議なセンチメンタリズムを引き起こす。 朝靄の中に仄見える人影に、あなたは問うだろう。 「生きる意味とはなんですか？」 等身大の生きる意味は、彼誰時の向こうに、ある…続きを読む

作家は他人の人生を剽窃する。 ノンフィクションほどそれは顕著で、だからこそ身近すぎる人間のノンフィクションなど、忌み嫌われるものだ。 しかしそこに砂粒ほどの悪意もなく、ただ他人への…続きを読む

いい名前だ、イセカイテンイ村。 まるで異世界へ転移してきたことが丸分かりじゃないか。 何でもかんでも異世界に転移させた結果、辿り着いた安住の地みたいじゃないか。 慈悲も情けも容赦も…続きを読む

人は生身でモーンガータの上を歩けない。 しかし言葉の上でなら、夢の中でなら、魂の形でなら、歩くことができる。 あるいは月夜に浮かんでくらげのように漂うことができる。 魂の重さを備え…続きを読む

狙撃手同士の静かな睨み合いを描いた作品。 その背後に見える物語は、二人の狙撃手の悲しき因果をうかがわせる。 深々と降り積もる雪のように淡々と語られる物語。 猟人は何を狩ったのか。あ…続きを読む

互いに螺旋状に描かれた三本の物語。 弾く指は一つしかなく、そのままだとドミノは一本の線しか倒れない。 ならば三つをまとめて糾おう。違う世界を弾くドミノになろう。 そんな工夫ができる…続きを読む

小さな痛み、わずかな傷、ちょっとした出来物。 身体に生じるほんの些細な違和感が、皮膚の下で蠢くとき、この恐怖はできあがる。 私たちは、自身の身体を知っているようで知らない。 あなた…続きを読む

まるでフ○ーチェのように淡い味わい。 過去と今とをふわりふわりと行き来する構成は、今の方の時が徐々に進んで行く。 だからこそ、過去のエピソードがふわりと匂い立つ。 国見兄妹の原点が…続きを読む

男女で交互に視点を変えて描かれる物語は、社交ダンスのようにスピンする。 社交ダンスは男女の語らいだ。 そこには相手への敬意がある。一方的な好意はシルエットを歪める。 お互いが納得で…続きを読む

手紙は、過去の思いを閉じ込める。 即レスが当たり前の現代で、それでも手紙は消えることがない。 手紙を書くことが、自身の過去を見直し、今を整理させ、明日を生きる糧となる。 推敲をしす…続きを読む

私たち一人一人は宇宙人で、他者を理解するなど本当の意味で不可能だ。 脳という名の宇宙船は、宇宙船同士をドッキングさせることができない。 だからと言って、交信を途絶えさせてしまっては…続きを読む

街の風は、その街にあるチェーン店によって決まる。 セブンイレブンにはセブンイレブンの、サイゼリヤにはサイゼリヤの風がある。 そしてこの文章には、霧煙るイギリスの風がある。 その空気…続きを読む

人々の噂によって形作られる怪異・妖怪。
存在設定が存在を作りだすトートロジーに生じる矛盾。
なぜそんな設定にした！？
そんな恐ろしくも可笑しい怪異の話。

食べ物の生臭さが文章から漂ってくるほどに臭い立つ。 それは、主人公の抱える息苦しさと相まって、邦画のワンシーンのよう。 腐った食べ物は、滞留する人生にも似て、じわりと生活を蝕む。 …続きを読む

人と人との関係は、バランスが命だ。 特にそれが好意以上の何かを内包するようになったときには。 引っぱりすぎると糸は切れ、引っぱらなければ糸はたわむ。 そのさじ加減こそが「やさしさ」…続きを読む