第4回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞者インタビュー|キタハラ【キャラクター文芸部門】

賞金総額600万円、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューを確約する第5回カクヨムWeb小説コンテストを、今年も11月29日(金)より開催します。

そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。創作のルーツや作品を作る上での創意工夫、そして受賞後の変化などを語っていただいた受賞者の言葉をヒントに、小説執筆や作品発表についての理解を深めていただけますと幸いです。



第4回カクヨムWeb小説コンテスト キャラクター文芸部門大賞
キタハラ
▼受賞作:熊本くんの本棚
kakuyomu.jp

──小説を書き始めたきっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

小さい頃からずっと、本を読んできました。はじめて買った文庫は宗田理さんです。それから田中芳樹さんの『アルスラーン戦記』竹河聖さんの『風の大陸』など、ファンタジー小説を読み漁りました。

中学の教科書で読んだ山川方夫の「夏の葬列」が印象的で、それからは文芸作品を読みだします。「夏の100冊」に選ばれる「名作」とされているものを手にとって、面白かったらその作家の作品を続けて読む。
現代作家だと吉本ばななさん村上龍さん山田詠美さん江國香織さん吉田修一さんの作品をとくに読みこみました。古典や新作、国内海外純文エンタメ関係なく、面白そうなものはなんでも読んできました。

一番影響を受けたのは立原正秋です。全集を揃えるほどのめりこみました。
佐藤泰志の文体に憧れて、真似たりもしました。効果は……自分ではわからないです。

「小説を書こう」と思い立ったのは、成人してからです。ちょうどその頃、これまでやってきたことに限界を感じ、別のことを始めようと考えました。いつかは小説を書いてみたい。他にやりたいことはとくにない……ならいまやってみるか! そんなノリで始めました。
何度か新人賞に送ってみるものの、受賞まで至らず、働きながら誰に見せることもなく書き続けてきました。

「書き始めてから10年くらい経ったなあ。このままでは自分の書いた小説は誰にも読まれないんだろうか」と悩んでいたときに、浅原ナオトさんの『彼女が好きなものはホモであって僕ではない』を書店で見つけ、カクヨムの存在を知ります。書いてきた作品を載せる倉庫、くらいの感覚で去年登録しました。
これまで長い作品を書くことができなかったのですが、少しずつ更新していけば、僕も長編を書けるかもしれないと始めたのが『熊本くんの本棚』です。


▲2019年12月13日発売『熊本くんの本棚 ゲイ彼と私とカレーライス』 制作中の表紙イラストを特別に公開!(イラスト/慧子)

──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞せください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

読んでいただくためにさまざまな仕掛けがあると思います。カクヨムでも巧みな書き方をされている方がたくさんいらっしゃいます。
『熊本くん』に関しては、いったいこの先どうなるのかわからない、と気になっていただけるように、毎回謎を残したり深めたり、続きが気になるようにと寸止めでつづく、にしています。
でも実は、書いている本人もさっぱりわかっていなかったからなんです。続きはどうなるのか、と読んでくださっている皆さんと同じような気持ちで書いていました。
とくに後半、僕自身が「どうするつもりだ熊本!」と書きながら理解していくような状態でした。そういうヒリヒリした展開を読んでくださった方は感じ取っていただけるんではないでしょうか。

選評でもありましたが「きもちわるい」こと。人が見て見ぬ振りをしておきたいところをあえてわざわざ書いたことが、注目していただけたポイントのひとつなのではないか、と思います。
読んでいて途中で投げ出してしまう人がいても構わない。最後まで読んでくださる方だっている、と信じて、書き続けました。

書いているあいだは、ライト文芸とかエンタメなんて、一切考えませんでした。型にはまってしまったら負けだ、くらいの気持ちでした。そして応募するとき、キャラクター文芸部門は懐が広いに違いない、と勝手に思っていました。
だめでもともと、応募することで読者を得るきっかけになれば、と。読んでくださった方にジャンルは判断していただこう。
ジャンルを意識しすぎると、型にはまってどこかで見たことのある作品となりがちな印象があります。『熊本くん』を評価していただいたのは、部門のなかで「わりと」型破りだったからだと思っています。

──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?

なにを書くか、よりもどう書くかをより意識しました。長編なので、どこから始めるべきか。最初に「熊本くんの噂」から始めよう。語り手である「わたし」とともに読者はそれが真実なのかを追っていく。続いて「どうして?」という謎を探っていく。しかし探偵役である「わたし」にも問題があり、こんがらがり始める。

主要人物たちをいかに魅力的に、話を展開させながら伝えていくか、意識していきました。人物の魅力は、記号的に表現しても読者にあまり伝わらないです。あくまで物語のなかで、どう行動をしたか、であらわすべきではないか? 語り手はどう見たか、に語り手の個性があらわれる。書きながら、自然と意識していったように思います。

──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。また、今回の作品には無かったけれど、こんな要素がある作品を読んでみたい、というものはありますか?

枠組みは、夏目漱石の『こころ』を借りました。最初の語り手が、謎だった人物の書いた文を読者とともに読んでいく。語り手を変えることで、かつてなにがあったのか、どんな因縁があったのかを明かしてみようと試みました。『こころ』の「先生の遺書」の部分を三島由紀夫の『仮面の告白』にして、途中太宰治の『斜陽』が重なる……というアイデアを歩いているときに思いついて、飛び上がったのを覚えています。「めちゃめちゃエモいじゃん!」と。成功したかどうかはともかく。

また小説のなかに小説や手紙、誰かの語りなど、さまざまな「声」を挿入することで物語が小さくならないよう気を使いました。長い作品ですし、一人称なので、別の意見や考えをどうしても入れたかった。話を展開させるのにも効果的だったと思います。

複数の語り手が一つの出来事について語る、という手法に興味があります。芥川の「藪の中」のような。複数の人物が同じものを語っているのに謎が深まっていくような……。そのためには語り手それぞれの個性をしっかり表現しなければなりません。勉強中です。連作長編にできないだろうかと練っています。

──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

読者選考期間中、ツイッターで宣伝しました。
『熊本くん』は応募時すでに完結済み。完結作品は読者がつきにくい、とよくいわれています。ですがダメでもともと、SNSで宣伝はきちんとしよう、と毎日ランキングが更新されるたびに報告しました。

他の方の作品もいつも以上に読んで、いくつかの作品にレビューを書かせていただきました。レビューも自作の宣伝のひとつ、どう面白かったか、言葉にすることは、自分のスタンスや考えをわかっていただけるサンプルになる、と考えました。

以前『熊本くん』をあるサイトで紹介していただいたとき、PVがどっと増えたことがありました。自分による宣伝以上に、読んでくださった方のレビューはパワフルです。なので期間中、エゴサもしました……。でもこれらは書き手のみなさんはだいたいされていることですよね。

さまざまな思いを抱えながら作品を書いていると思います。もちろん思いは作品にこめるべきです。「作品を読んでほしい!」という気持ちを簡潔に伝える、どんな話か紹介するのは、宣伝以上に自作を見つめるいい機会になるのでやってみてもいいのかなと。的確なキャッチコピーや、気になるフレーズがある作品は、なにを読もうか悩んでいる読者を惹きつけると思います。

──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスがあれば、ぜひお願いします。

僕自身がそうだったのですが、既存の新人賞や小説コンテストにうまくはまることのできなかった書き手にとって、チャンスだと思います。
受賞後に編集の方と初めて打ち合わせをしたときのことです。待ち合わせ場所に向かう途中、興奮しすぎて鼻血を出してしまいました。とにかく緊張していました。 感想や改稿のアドバイスを伺って、「こんなことでビビっていてはいられない」と覚悟したのを覚えています。「本を出版できたらいいな〜」「小説家になりたいな〜」と呑気に考えていた頃の甘さを思い知りました。
編集の皆さんは「面白いものを作る」ことに真摯です。真剣な皆さんが大賞に選んでくださったこと、そして読者の皆さんが後押ししてくださったことにきちんとこたえなくちゃいけない、と褌をキツく締め直しました。履いてなかったけど、イメージで。「緊褌一番」というやつです。
読んでくださる読者の皆さんがいること、面白いものを見つけ書籍化したいと考えていてくださる編集の方々の存在は、書くモチベーションとなるのではないでしょうか。

10万文字以上の執筆は、かなりしんどい作業です。ですが、こつこつ一話一話アップしていくうちに、到達できます。忙しいときは無理をしない。休みたいときは休む。執筆時間がとれない場合は生活を見直す。長期戦ですから健康第一で。ありきたりでつまらないアドバイスかもしれませんが、一番重要だと思います。
「いま書いている小説の続きを考えるのがゲームをしたりアニメを観るより楽しい」のなら、きっと面白い作品になる、と思います。続きが思いつかないと悩むことすら、面白かったです。

書けないときはそれまで書いた部分を推敲してみるといいんじゃないでしょうか。「削ったら文字数が!」と思われるかもしれませんが、書けないとただ悩むより、手を動かしていたほうがアイデアは湧いてきます。僕は、いつだってそうです。

──ありがとうございました。


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