賞金総額600万円、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューが予定されている第7回カクヨムWeb小説コンテストが、今年も12月1日(水)から始まります。
そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。受賞者が語る創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などをヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。
第7回カクヨムWeb小説コンテスト 現代ファンタジー部門大賞
穂積潜
▼受賞作:泣きゲーの世界に転生した俺は、ヒロインを攻略したくないのにモテまくるから困る――鬱展開を金と権力でねじ伏せろ――
kakuyomu.jp
──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。
初めて小説を書いたのは中学二年生の頃だったと思います。きっかけに関しては、当時刊行されていたライトノベルを読み、それにハマり自然と自分でも書いてみたくなったという、ありふれた動機だったと思います。それからちょっと間隔が空きまして、本格的に執筆を始めたのは20歳前後だったかと記憶しております。
影響を受けた、というか当時好きだった作品は、ライトノベルでいえば『ゼロの使い魔』や『キノの旅』、『涼宮ハルヒの憂鬱シリーズ』、『フルメタル・パニック!』など、多くのライトノベルファンの皆様と変わらないかと。適切な表現かは分かりませんが、「図書館に置いてあるような」有名な作品からライトノベルのおもしろさを知り、そこからズブズブとラノベ沼にハマっていきました。
創作論系はあまり読む方ではないのですが、大塚英志様の『キャラクター小説の作り方』を参考にさせて頂いた記憶があります。
また、受賞作はギャルゲーに関する作品なので言及させて頂きますと、メモリーズオフシリーズや、infinityシリーズなど、当時KIDの作品を好んでやっておりました。私は当時未成年だったので、純粋なギャルゲーとして発売されたギャルゲーか、一般向けにコンシューマー機に移植されたエロゲ―(すなわちエロゲ―の中でもヒットした作品)をプレイした経験が受賞作の下地としてあります。
──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?
最大の特徴は、溢れる「ギャルゲーへの愛」でしょうか……。
一応、普通の学園モノのギャルゲーや、ヨーロッパ風ファンタジー?ギャルゲーではなく、『伝奇モノの鬱ゲー・泣きゲー』という特殊な舞台設定が特徴といえば特徴かと思います。でも、そういう作品が他にないかと言われるとそんなことはないので、オンリーワンの特徴と断言するのもどうかな、と思っております。
オリジナリティに関しては、ギャルゲー世界への転生を扱うのはネット小説界隈ではよくあるネタなのですが、そのほとんどが脇役か、親友役か、悪役への転生モノなので、意外とストレートに「主人公」に転生する作品は少ないのかな、と思います。
選考委員の方に支持を頂いた理由は、カクヨム様のHP上に受賞作に関してコメントを頂戴しておりますので、そちらにお譲りします。読者の方に支持されたのは、ライトノベルである以上はキャラクターとストーリー、と言いたいところですが、私の作品というよりは、ギャルゲーというジャンル自体が築きあげてきた、歴史と文化が持つ魅力に依るところが大きいのかなというのが正直な感想です。エロゲーやギャルゲーの文法は本作に限らず、ライトノベルというジャンルそのものにも大きな影響を与えたと私は考えておりますので、そのギャルゲーへのリスペクトは忘れずに執筆に臨んだつもりです。
──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?
本作に関しては、「ただ溢れるパッションに任せて書いた」というのが他の作品と比べて変わった点かもしれません。
私は他にもいくつか小説を書かせて頂いておりますが、やはり商業やネット小説など、ユーザーに評価される媒体だと、どうしても読者の皆様の反応が気になる部分が出てきます。小説である以上、誰かに読ませるものですので、読者の皆様にどう思われるかを気に掛けるのは大切なのですが、どうにもそちらにばかり偏り過ぎるとうまくないな、と思うことが色々出てきました。
そこで本作に関しては、あれこれと計算をせず、『本当に私が書きたいものを書きたいように書く』ということだけを心掛けました。
ある意味で初心に帰ると申しますか、リアル中二時代の純粋な気持ちを思い出しながら書いた作品であるという点が、今までの作品と違うのかもしれません。
──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。
本作にはアイというキャラクターが登場します。このキャラクターは、筆者としては、当初は、ストーリー進行上の要請で、つまり、お話を転がすのに必要だから生み出した便宜上のキャラに過ぎませんでした。ですが、なんだかよくわからない内に勝手に出番が増え、いつの間にか読者からも「アイちゃんがメインヒロイン」と呼ばれるようになりました。まるで私自身がアイに侵略されているようで、筆者に「キャラクターが勝手に動き出す喜び」を思い出させてくれた、個人的にはお気に入りのキャラです。
これも、やはり、本作はパッションで書いているので、自分の好きな属性のキャラクターには自然と熱がこもり、それが魅力に転じたと手前味噌ながら考えております。
──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?
これに関しても月並みなことしか言えないのですが、私がした工夫というか、作業でいうと、
①ある程度作品を書き溜めておいて、最初の内は毎日投稿する。
②投稿の文字数は、長すぎず、短すぎず、ちょっとした隙間時間に読める程度の長さを心掛ける。
③タイトルやキャッチコピーだけで興味を持ってもらえるようなキーワードをいれる。
くらいでしょうか。ですが、これらは他の作者の皆様も当然にやっていることだと思いますので、私ならではの工夫と言われると、正直、何もありません。
──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。
私は他人様の執筆活動についてとやかく言える立場ではないので、アドバイスなどはありません。メッセージというか、web小説は、気軽に始められて気軽にやめられるのが魅力だと思いますので、三日坊主になってもいいので、ノリで投稿してみるのも良いのではないかと思います。また、web上での創作活動全般でいうと、同じ小説投稿サイトといえども、それぞれ千差万別ですので、自分に合うサイトを選ぶか、手間を惜しまないならば、複数のサイトに同時連載すれば、それだけ読者の方々の目にとまるチャンスが増えるかもしれません。
現に受賞させて頂いた本作は、他の小説サイトの方では熱心に読んでくださる読者様もおり大変ありがたく思う一方、客観的な評価という面では、とても人気作とは言い難い作品です。ですが、カクヨム様の方では、私としては望外の数の読者の皆様が拝読くださり、そのおかげをもちまして読者選考を突破することができました。
そういう意味では、初めてweb小説に取り組まれる方はもちろん、カクヨム以外の投稿サイトでご活躍中の作者の方々も、そこでの評価は気にせず、カクヨムWeb小説コンテストに挑戦する価値はあるかと思います。すでに、カクヨムというサイトとそこで開かれるコンテストは、それだけの包容力と独自性を備えたものになっていると、私は信じてやみません。
──ありがとうございました。
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