第6回カクヨムWeb小説コンテスト大賞受賞者インタビュー|慶野由志【ラブコメ部門】

賞金総額600万円、受賞者はKADOKAWAからの作家デビューが予定されている第7回カクヨムWeb小説コンテストが、今年も12月1日(水)から始まります。

そこで、かつて皆様と同じようにコンテストへ応募し、そして見事書籍化への道を歩んだ前回カクヨムコン大賞受賞者にインタビューを行いました。受賞者が語る創作のルーツや作品を作る上での創意工夫などをヒントに、小説執筆や作品発表への理解を深めていただけますと幸いです。

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第6回カクヨムWeb小説コンテスト ラブコメ部門大賞
慶野由志
▼受賞作:陰キャな人生を後悔しながら死んだブラック企業勤務の俺(30)が高校時代からやり直し!社畜力で青春リベンジして天使すぎるあの娘に今度こそ好きだと告げる!
kakuyomu.jp

──小説を書き始めた時期、きっかけについてお聞かせください。また、影響を受けた作品、参考になった本があれば教えてください。

 ライトノベルは中学生の頃から愛好していて、いつか自分でも書きたいと思い続けていました。しかし、結局実際に書き始めたのは就職してから4年経った頃です。
 仕事にもすっかり慣れてくると、「あ、人生ってもう後はこんなふうに家と職場を往復するだけなんだ」と考えるようになり、自分の人生で何か一つこれをやった!と言えるくらいに何かに打ちこみたくなり、ライトノベルを書こうと思い立ちました。

 実際に執筆を始めてみると非常に大変でしたね。ネタ、キャラ設定、ストーリー、オチ、テンポなどの要素も勿論ですが、文庫本一冊分を書き上げるにはとてつもないエネルギーが必要だと痛感しました。今でも「誰か俺の代わりに書いてくれないかなぁ」などと考える始末です(笑)。

 ライトノベルを好きになったばかりの頃にとてもハマったのは、榊一郎先生の「スクラップド・プリンセス」です。キャラクターの内面が深く掘り下げられる作風には、現在も影響を受けています。
 他にも挙げていけばキリがないのですが、賀東招二先生の「フルメタル・パニック!」奈須きのこ先生の「Fateシリーズ」なども深く愛好しています。
 受賞作はラブコメなのに、こうして思い出すと愛読していた作品はバトル物が多いですね(笑)。ですが基本的に小説とは「人間」を書くものなので、感情の描写が上手い作品というのは、どのジャンルに対しても多大な勉強になると考えています。


──今回受賞した作品の最大の特徴・オリジナリティについてお聞かせください。また、ご自身では選考委員や読者に支持されたのはどんな点だと思いますか?

 受賞作の最大の特徴としては、「大人の願い」を強く込めた点ですね。大人になると青春の価値をようやく認識し、ああすればよかった、あのときああだったなら、と誰しも後悔して二度と戻らない日々に帰りたいと願うようになります。
 大人として成長した今の自分ならあの頃にもっと――そういった夢想を柔らかい世界観で表現した事に共感して頂いた読者の方が多かったのだと感じます。

 また、時間逆行作品は往々にして「過去を修正することで未来を救う」のが目的であるケースが多いですが、本作はそういった要素は多少ありつつも、最も大きなミッションを「ダメダメだった自分を新生してもっと素晴らしい人生を送る!」とした事も特色かもしれません。これにより主人公が悲壮な使命を背負う事もなく、読者の皆様からライトな感じの「タイムリープ奮闘記ラブコメ」として読んで頂けたのかなと思っています。


──今回受賞した作品を今までに執筆した作品と比べてみたとき、意識して変えた点や、後から気づけば変わったなと思う部分はありますか?

 小説を書いているとどうしても「流行の要素」は無視できず、私も多分に意識しています。ですが、今回の受賞作はそういった要素を考えつつも、自分が書きたいものを書いてみました。
 私はネタを吟味してウケるウケないの計算をする事は重要だと思っています。
 しかし自分自身の「書きたい!」という想いは作品に勢いや熱を与えてくれます。今回はそういった自分の書きたいものがたまたま読者層にも共感を持って頂けるネタであり、そこに自分の熱量が加わった事で、普段の作品とは少し違ったものになったのだと思っています。


──作中の登場人物やストーリー展開について、一番気に入っているポイントを教えてください。

 お気に入りで言えば、やはり主人公の新浜ですね。
 このキャラの根幹は「後悔」であり、ダメダメで失敗だらけだった自分の人生を悔やみに悔やんでいます。タイムリープという奇跡でその積もりに積もった後悔をエネルギーに変えた男であるせいか、作者でもちょっと驚くほどに想いが重いです
 私は多くの人に共感してもらえるキャラを作りたいと常々思っていますが、この主人公は誰もが経験する悲哀や弱さを持ち続け、そこから脱却しようと頑張る行動力を持ち合わせていることで、多くの読者からの応援を得られたのだと思っています。

 気に入っているポイントは、新浜がとあるイベントで熱弁を振るうシーンですね。
 大人しい学生時代を送った方にはおわかり頂けるかと思いますが、本来決して陽気でない人間が大勢の前で喋って意見を通すのはとんでもない緊張と負担を強いられます。新浜がそういった自身の陰気キャラクター性を認識しつつも振り切って、ヒロインのために動き出すのは見所だと思っています。


──Web上で小説を発表するということは、広く様々な人が自分の作品の読者になる可能性を秘めています。そんななかで、自分の作品を誰かに読んでもらうためにどのような工夫や努力を行いましたか?

 実を言えば今回の受賞作は私にとって生まれて初めてのWEB投稿作品であり、それ以前の作品は出版された文庫本になります。
 その媒体の違いで意識した事と言えば、やはりWEBで読者の皆様に見て頂くために読みやすく工夫した事ですね。行間を空ける、台詞を増やす、地の文をなるべく多くしないなどの、スマホユーザーがとても増えていることも考慮した「空いた時間で摂取しやすい小説」を目指しました。(すでにWEBで長く活動している方には当然の工夫かもしれませんが……)

 また、これはどういう媒体の娯楽作品でも同様だと思いますが、とにかく序盤に読者の興味を惹きつける勢いある展開を目指しました。最悪の人生とその末路→タイムリープ→高校時代に戻ってる!?というような、読者のブラウザバックを防ぐために、続きが読みたくなる物語への熱い導線を作るように心がけました。


──これからカクヨムWeb小説コンテストに挑戦しようと思っている方、Web上で創作活動をしたい方へ向けて、作品の執筆や活動についてアドバイスやメッセージがあれば、ぜひお願いします。

 WEB上で創作を行うにあたり、誰しも「自分の作品を多くの人に読んでもらいたい!」という願望があると思います。けれどなかなか芽が出ずに苦しむ事もあるでしょう。
 そういう苦しい状況こそ、創作のトライを繰り返すしかないと考えています。
 どうすれば面白くなるかなんて、作家各自の創作論こそあれ正解なんてありません。だからこそ、実生活のペースを考慮しつつあらゆる作品を試していく事が重要です。私自身、なかなか努力が実を結ばない時期が長かったです(汗)。

 また、流行のジャンルの分析などは確かにとても重要な事ですが、そればかりにこだわるのも正解とは言えないと考えています。創作の原動力は「好き!」「書きたい!」という気持ちであり、それを無視しすぎると執筆を始めても続きません。

 創作を始めたいと思う人には、何かしら創作物に触れて心を動かされる瞬間や、「こんな話を書いてみたい!」という心に火が灯る瞬間があったはずです。
 慣れてきた時ほどそういった気持ちを思いだして、自分なりの「これ面白いだろ!」を作品に宿らせてみてください。

 受賞作以外のWEB小説を書いた事がない自分が偉そうな事を言ってしまい大変恐縮ですが、いつも自分に対して考えている事ということでご勘弁ください(汗)。


──ありがとうございました。


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