【カクヨム小説創作オンライン講座】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第2回

12月より開催する第4回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらう「カクヨム小説創作オンライン講座」の第一弾!



カクヨムコン歴代応募作品講評会は、過去にカクヨムWeb小説コンテストに応募した作品を対象としたカクヨム運営によるオンラインの作品講評会です。
講評対象に選ばれた作品は、キャラクターやストーリーなど、作品を構成する5つの要素を5段階で評価して作品分析を行うとともに、長所や改善すべき点をコメントにまとめて指摘します。

今回の企画では、プロの目を通してしっかりと評価された講評が、カクヨムブログ上で公開されます。そのため、講評される作品は、だれでも閲覧して参考にすることができます

講評作品に選ばれた方は、プロが精読して判断したご自身の作品の良かった点や改善すべき点について知ることができ、今後執筆する際の指針として活かすことができます。
また、応募しなかった方や講評対象から漏れた方も、他の作品に向けられたアドバイスを読んで、自身の作品にあてはまるポイントを見つけることができます。


【エントリーNO5】
幸高校吹奏楽部、略してサチスイがおくる、青春の1ページ
『サチスイ』 作者 黄間友香
あらすじ:
高校生だけど、音楽家だし、クリエイターだし、チームだ。
もう一度部活をしたいすべての人におすすめ。叶えたかった思い、全部詰めました。吹奏楽部の裏側、青春群像劇

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:2
・文章力:3

◆良かった点:
キャラクターが生き生きしていて気持ちいいですね! きちんとその個性を描写で表わせているのがポイントでした。
キャラの人となりは、著者さんの頭の中で完成されているだけに作品中で捨て置かれてしまいがちです。それを書き出せているのは本当にすばらしい。
そして彼女らの人間関係もしっかり描けていて、キャラの個人戦で終わらない、にぎやかな人間ドラマを魅せられていることも好印象です。

◆改善すると良くなりそうな点:
キャラのすばらしさは先に述べさせていただきましたが、逆に吹奏楽というものの特徴やコンクールについてなど、作品のモチーフになっているものの説明が圧倒的に不足しています。
専用の道具を使うものは特に、それをしていない人にとってはまったく未知のものであることを忘れないでください。各章の最後のMemo以前の基礎知識が描けていないことで、せっかくなにかをしようと思い立った主人公たちの意気も伝わらずに終わってしまっています。
また、地の文章とセリフの配分が偏っていて、物語が荒く見えている感が強いです。
長ゼリフなどは間々に地の文による行動・心理描写や他キャラを差し込み、ドラマ的効果とキャラクター性の発現を打ち出していきましょう。
最後に、文章表現――特に語尾のバリエーションが少ないことで、単調に見えてしまっています。文意に沿いつつ、意識的に変更してみてください。


【エントリーNO6】
歌え歌え歌え笑え舌を切れ歌え殺せ笑え殺せ、徹頭徹尾根を絶やせ!
『鶯舌記 -おうぜつき-』 作者 八島清聡
あらすじ:
紫乃は、生まれながらの奴婢(奴隷)である。
歳は十七、琉斌国に滅ぼされた隣国の神葛の出身だった。
十一の時に琉斌の王族である氷雨に買われ、下女として仕えていた。
氷雨は紫乃に情けをかけつつも、母の身分が低いゆえに皇女・艶夜との結婚を望む。
艶夜は琉斌国皇王を父、神葛の女王・伊邪夜を母に持ち、国一番の美貌と鶯舌(美声)の持ち主だった。
彼女は鶯舌を保つために、とある物を好んで食べていた。
切りとったばかりの、新鮮な人間の舌である。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:5
・ストーリー:2
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
文から匂い立つ“風情”は極上のひと言です。
古風な一人称には自然と語り部の姿を思い浮かべさせるだけの個性があり、語り口には艶がある。これだけでも完成されている感はありました。実際、この文章だけで世界観まで浮き彫りにされていますし、作品の重さが十全に表現されていました。
こうした文章はなかなか書ける方がいらっしゃいませんので、ぜひとも極めていただきたいところです。

◆改善すると良くなりそうな点:
エンタメ作品としての弱さ、これをもっとも強く感じました。
一人称による主人公の明確化は申し分ないのですが、その目を通して描かれる事象に強弱が感じられず、読み進めるにつれ冗長の感が増していくのです。これは主人公の情動の振り幅が狭いことが最大の原因です。
見せるべきドラマを盛り上げるため、心情をどのように表現として高めていくか。一人称の中で物語的緩急(この場合は急よりも、緩のほうですね)をどのようにつけるべきか、ぜひ考えてみてください。
また、文字が詰まり過ぎていること。それでいて地の文章がぶつ切りになっていて単調なこと。そこそこ以上の頻度で長ゼリフが居座っていること。これらのせいで非常に読みづらくなっていることも問題です。
段落を細かに変えすぎず、段落に長短をつける。セリフはいくつかに分けて、間に他の描写を入れる。そのことを心がけ、個性的な文章の利を今以上に生かしていただければ。


【エントリーNO7】
幼馴染は大正義! 幼馴染は負けヒロインではなくて勝ちヒロイン。
『幼馴染に本気で恋しそうな件について』 作者 くろい
あらすじ:
家が農家で周りは畑で何もない。そんな俺は高校に通うため一人暮らしを始めたのだが、どうもお隣さんに問題がある。
そう、お隣さんは同郷の仲である俺の幼馴染だった。
普段俺をからかってくる幼馴染だが最近は可愛くなって美少女過ぎて割と本気になりかねない。
しかし、よく考えて欲しい。あくまで、幼馴染だという事を。からかわれるのは幼馴染だから、ゆえにそれに本気になったら俺は赤っ恥をかくに決まってる。
というわけで、俺はお隣さんに住む幼馴染に本気にならない様に注意して耐えて生活をするのだが……。
でも、耐えられないかも知れません……。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:3
・文章力:4

◆良かった点:
からかい上手な幼馴染ヒロインとあしらい上手な主人公の距離感がいいです。とくに奇を衒ったわけではない王道ラブコメなのに二人の関係が気になって先を読みたくなってしまいます。
惹かれ合っているけれど、お互いにあと一歩が踏み出せないもどかしさがよく表現できていました。幼馴染というネタだけでここまで物語を膨らませられるストーリー構成力に脱帽。
お互いの良いところも悪いところも知り尽くしていて、頻繁に思い出に浸るところが関係の深さを感じさせて胸がときめきました。

◆改善すると良くなりそうな点:
部活動や私生活の平凡な日常風景が単調に続いてしまいがちでストーリーにメリハリがない。キャラクターに夢や目標を与えてストーリーを展開してみてもよいでしょう。
せっかくなのでもう一人の幼馴染の衣里をもっと主張させて凛とダブルヒロインにしましょう。二人を正反対のキャラにして対比を意識させると、より魅力が引き立つと思います。
家庭の事情や学校行事など特別な事件やイベントを通して恋愛フラグを立てるようにして気分を盛り上げる見せ場を作ってみましょう。
自分の気持ちを押し隠して幼馴染という関係に甘えている感があるので、本気で喧嘩させて本音でぶつかりあわせてもいいでしょう。


【エントリーNO8】
ひとに、未来は、もう残っていない
『凋落のエリュシオン』 作者 アリス・アザレア
あらすじ:
西暦2128年。
世界が生んだ毒、星が生んだ毒とも言われる【瘴気】が大地や海を覆い尽くしてしばらく。
人はその毒から逃げるために居住を空の都市へと移した。
あらゆる生命を確実に蝕みつつある毒は『自然災害』という簡単な言葉で片付けられ、人々はその闇を見ないフリをした。あるいは、確たる証拠もないのに、瘴気はその出現とともに存在を認知された【ドラゴン】の仕業とされた。
「ドラゴンは世界に瘴気を運んだ滅びの使者である」
ゆっくりと確実に毒に沈んでいく世界。
終末を想い黄昏れていた少女が灯台で見つけたのは、ボロボロになったドラゴンの死骸と、躯が守っていた一つの卵だった……。
これは人とドラゴン、異種族との共存を問う近未来都市での物語。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:2
・世界観:2
・文章力:3

◆良かった点:
主人公にしっかりとスポットライトを当てられているのはお見事。キャラクターが複数になるとブレてしまいがちなものですが(実際応募作でもこうなってしまっている作品は多いものです)、視点をしっかりと定められていることで読者は安心して共感できます。
そして、ていねいに物語を紡ごうという姿勢が文章から感じられるのもいいですね。
著者さんの「本気」は読者へかならず届きます。姿勢は強い武器ですから、これからも研ぎ続けていただきたく思います。

◆改善すると良くなりそうな点:
世界観の練り込み不足が気になりました。
空中都市に1億もの人数が住めるのか? 総人口に対して学校組織が小さすぎないか? など、この空中都市の有り様が世界観的に大きな注目ポイントであるはずなのに、おそらくは著者さんの頭の内で補完されているばかりでうまくアウトプットされていないわけです。
世界設定に合わせて説得力のある設定を固め、それを必要な箇所にはめ込んでいくことを考えてみてください。
そして全体を通しての感想ですが、展開の山と谷が浅く、物語的に平坦であるという印象を強く受けました。これについては、各章に見せ場となる事件なり展開の種なりを仕込んでいくことである程度以上解消できるはず。
特に、脅威を感じさせられていないために印象の薄いドラゴンは、テーマ性を浮き彫りにするためにも冒頭部でなにかしらの事件を起こさせましょう。
あと細かいところですが、視覚的演出が必要ない文章では、三点リーダーはふたつ繋げて【……】にすることを心がけてください。


第3回は10月24日更新予定です。