【カクヨム小説創作オンライン講座】カクヨムコン歴代応募作品講評会 第1回

12月より開催する第4回カクヨムWeb小説コンテスト応募者に向けて、創作にまつわる様々なヒントやアドバイスを提供し、スキルアップに役立ててもらうためのシリーズ企画「カクヨム小説創作オンライン講座」が始まります。

第一弾は、カクヨム運営がオンラインで公開作品講評を行うカクヨムコン歴代応募作品講評会です。過去にカクヨムWeb小説コンテストに応募した作品を対象に毎回4作品ずつ、全5回にわたってお送りします。



講評対象に選ばれた作品は、キャラクターやストーリーなど、作品を構成する5つの要素を5段階で評価して作品分析を行うとともに、長所や改善すべき点をコメントにまとめて指摘します。

今回の企画では、プロの目を通してしっかりと評価された講評が、カクヨムブログ上で公開されます。そのため、講評される作品は、だれでも閲覧して参考にすることができます

講評作品に選ばれた方は、プロが精読して判断したご自身の作品の良かった点や改善すべき点について知ることができ、今後執筆する際の指針として活かすことができます。
また、応募しなかった方や講評対象から漏れた方も、他の作品に向けられたアドバイスを読んで、自身の作品にあてはまるポイントを見つけることができます。


【エントリーNO1】
二人の男が、私を奪う―――。
『神鳥を殺したのは誰か?』 作者 鳩子
あらすじ:
皇太子との婚儀を控えた灑洛(れいらく)は、好奇心で訪ねた花園にて一人の男と出会う。
黒珠黒衣に身を包み、煙るような黎黒の髪を持つ美しき男は、遊嗄の父親で現皇帝・黎氷(れいひょう)であった。
灑洛にとっては、義理の父にあたる方でもある。
幼い頃から恋い慕っていた遊嗄との結婚生活は、甘く穏やかで順風満帆そのものだったが、何故か、皇帝が灑洛に対して過剰に目を掛けるようになる。
天帝から賜ったとも言われる神鳥を灑洛に下賜するに至り、皇帝の執着の異常さに怖ろしくなる灑洛……。
后妃達からも疎まれ、廷臣たちからも蔑まれるようになり……。
そして、事件は起こってしまった。


◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:4
・キャラクター:4
・ストーリー:4
・世界観:5
・文章力:5

◆良かった点:
悲劇に翻弄される女帝の物語といった趣で、箱入り娘だった灑洛が絶望の中で非情さを獲得して女帝へと開花していく凄絶なキャラクターに魅せられました。
幸せの絶頂から絶望の淵へと突き落とす落差のあるストーリー構成が見事で心を揺さぶられました。
ひとりの女性を巡って父と子が争い、さらに権力を求めて妃たちの思惑が絡み合う泥沼の愛憎に満ちた世界観が迫力満点で、後宮に籠もる熱情にむせ返りそうです。
禁断の恋に狂っていく父帝の異常性の描写がとくに素晴らしかったと思います。

◆改善すると良くなりそうな点:
ディープな愛憎劇が作品の持ち味なのですが、さすがにストーリーに救いがなく、大衆受けする内容ではなくなってしまっているのが残念。
主題の神鳥が殺された事件より、灑洛の身に起きた悲劇の方に読者の興味がいってしまいがち。
例えば、犯人を見つけた者にはどんな願いも叶えると皇帝に約束させて灑洛の解放を願うとか、双方の問題解決を結びつけてみるとでしょう。
さらにミステリー要素に焦点を当てて、もっと読者に謎解きを仕掛けてみてもいいでしょう。


【エントリーNO2】
私はもう、ひとりじゃない。
『独身男の会社員(32歳)が女子高生と家族になるに至る長い経緯』 作者 あさかん
あらすじ:
両親が他界して引き取られた先で受けた神海恭子の絶望的な半年間。
「……おじさん」
主人公、独身男の会社員(32歳)渡辺純一は、血の繋がりこそはないものの、家族同然に接してきた恭子の惨状をみて、無意識に言葉を発する。
「俺の所に来ないか?」
会社の同僚や学校の先生、親友とか友達などをみんな巻き込んで物語が大きく動く2人のハートフル・コメディ。
2人に訪れる結末は如何に!?

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:4
・ストーリー:3
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
終始一貫して、やさしく、あたたかく、強く、気持ちのいいドラマでした。読者層を選ぶことなく安心して勧められる作品は、それだけで高い価値があります。
主人公がブレていないのも好印象ですね。冒頭から一心不乱に突っ走り、空回りする彼の姿は実に一途けなげで、かわいらしくすらあります。
読者が好きになれる主人公が物語にとって本当に大きな益をもたらすことを、あらためて教えていただきました。

◆改善すると良くなりそうな点:
物語に展開がご都合的に見えてしまっているのは問題です。
主人公とヒロイン双方の心情や行動の都合良さ、まわりのキャラの都合のいい行動……言い換えれば“作者の都合”が透けて見えてしまうことで、ドラマもまた予定調和になってしまっているのです。
クライマックスはそのまま置いておいて、他の部分では作者として都合の悪い、書きにくくて困るような物語構成をしてみてください。ヒロインを懐疑的でめんどくさい性格にしてしまうのもいいですね。主人公をもっともっと空回りさせられるように。
山場の盛り上がりは、そこへ至るまでの谷の深さと比例します。
文章のぶつ切り感も改善の必要ありです。短文を重ねるとリズムは出るのですが、それだけ単調にもなってしまいますので。
短文重ねはここぞというときにして、一塊にできる文章はきちんと繋げて段落を形成しましょう。文脈に緩急がつくことで、物語性も高まります。


【エントリーNO3】
ぼくの剣なら、奴を殺せる
『ソウル・スイーパーズ』 作者 沢本新
あらすじ:
魂の突然変異――「獣」を滅する掃除屋(スイーパー)見習い・荒地雄大と、その最強パートナー・姫宮志野が繰り広げるオカルティック・バトルアクション・ミステリー!
「事故」で母と妹を失くした少年・荒地雄大(あれちかつひろ)は、父へのわだかまりもあり、地元から遠く離れた大学に入学した。
雄大が大学の部活で出会った先輩・姫宮志野(ひめみやしの)は、『獣(けもの)』と呼ばれる、この世にあらざる化け物退治を生業とする、見習い掃除屋(スイーパー)だった。
強力な『獣』に取り憑かれた雄大は、志野の雇い主・笹谷にその才能を見い出され、志野と同じく「見習い掃除屋(スイーパー)」として働き出すが――

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:2
・キャラクター:3
・ストーリー:4
・世界観:3
・文章力:3

◆良かった点:
一本気な気性の頼りがいのあるヒロインという先輩のキャラが面白くて好感を抱きました。お互いに才能はありながらも経験不足な二人が支え合って意地と気力で困難を乗りこえていく姿がパワフルで熱かった。
事件を追うなかで主人公・雄大と父親の真実が明かされ、親子の絆が描かれるストーリー展開が胸を打ちました。
大学生らしいゆるい日常にほのぼのとし、テニスにかける情熱も熱くて読み応えがあり、悪霊と戦う非日常のパートとの対比もきいていました。

◆改善すると良くなりそうな点:
「ゴーストバスターもの」は、ありふれていてオリジナリティが足らないかと思います。
道具や能力が原始的かつシンプルすぎるので面白味がない。陰陽道や神道などの宗教によせるか、あるいはまったく逆に現代によせてデジタル機器を用いてオカルトとSFを融合させるのも意外性があっていいでしょう。
読みやすい文章ですが、キャラクターの描写は客観的な動作だけでなく、例えば主人公がヒロインのどこを魅力的に感じたかも読者に積極的に伝えましょう。


【エントリーNO4】
【本編完結済】《鉄の女》成長譚、ここに開幕。
『かくして、少女は死と踊る』 作者 八束
あらすじ:
ユリアナ・ファランドール、十六歳。女学院に通う義足の少女に、ある日突然国家反逆罪の疑いが降ってくる。
美貌の軍人クラエスによって帝都クテシフォンに連行されることになるが、事態はそこから思わぬ方向に進み──?
平凡に暮らしていたはずの少女が、悪逆非道の『死の商人』一族を継ぎ、「鉄の女」となるまでの茨の道を描いた物語。

◆点数評価:
・作品のオリジナリティ:3
・キャラクター:3
・ストーリー:4
・世界観:4
・文章力:3

◆良かった点:
冒頭から不足なく見せ場を作れているのはすばらしいのひと言です。冒頭部は作品の印象を決める重要箇所ですが、これだけ短い文量でこれだけの期待感を引き出せている作品はなかなかありません。好評価で高評価でした。
物語から醸し出される重厚で瀟洒な雰囲気も素敵です。こうした“におい”は技術だけで出せるものではありませんから、その才能は積極的に生かしていただきたく思います。

◆改善すると良くなりそうな点:
リーダー(……)とダッシュ(――)、そして言葉を強調する傍点の多用。これは明らかなマイナスですので、現状の半分以下にまでは減らしてください。
これらは間や余韻、読者の目の引っかけどころを演出できる便利な記号ですが、言い換えれば文章で表現することを惜しんだからこそのもの。特にこの作品のような「読ませる」お話は、表現を惜しむと途端に色あせてしまいます。それは作品にとって非常な損となりますので、ぜひご考慮を。
また、セリフまわしの拙さが散見されることも気になります。ひとつ例を挙げれば「う、嘘よ……!」などですね。
これはセリフでなんらかの説明をしようとすることで起こるものですが(実際、文中のセリフがただ長い説明になっている箇所も多い)、どうすればそのセリフが「生きた言葉」になるのかを考えていきましょう。
実際の会話を思い浮かべ、音にすべきものと説明に落とし込むものを分けてみるのがいいかと。


第2回は10月23日更新予定です。