外伝 女の子には秘密があるんですよ(???視点)

※この物語は遙人はると達が美陽みはるの家にお見舞いに行っている時のお話です。


「――皆~,お待たせ~」


 車を駐車場に置き,駆け足で待っていた4人に私は合流した。


「しおちゃん,常盤ときわさんの方は大丈夫なの?」

「う~ん,遙人はると君だけしかいないからどうかな。直ぐにユフィちゃんが合流するとは言ってたけど……」

椎名しいな先生,神条かみじょう一人だけに常盤ときわの家に向かわせるのは色々と問題があるかと」


 羨ましそうにする陽輔ようすけ君とは違って冨塚とみつか君は冷静に問題があるのではと追及した。


「う~ん,私もそう言ったんだけど身内を優先してって言われたから」

「でも,お姉ちゃん。ハル君ってド変態だから……アンちゃん?」


 灯里あかりちゃんの言葉に反応してか新井あらいさんと陽輔ようすけ君は笑いを堪えていた。


「……椎名しいなさんにまでド変態扱いされている神条かみじょうが可哀そうに見えたぞ」

「えっ?」


 不思議そうにする灯里あかりちゃんを見て二人は我慢できなくなったのか笑い出した。


灯里あかりちゃん,遙人はると君をそんな風に言っちゃ駄目だよ?遙人はると君はちょっとエッチな男の子でシスコンさんな普通の男の子だからね」

椎名しいな先生,世間ではそれを普通とは言わないと思います……」

「えっ!?」


 同じように不思議そうにした私を見て冨塚とみつか君はここにいない彼を哀れんでいた。


「にゃはは……いや~,はるるんって学園ではそんな風に思われてたんだ」

「そういえば,きょうちゃんって遙人はるとといつから面識あるんだ?灯里あかりちゃんもだけど」

「ん?中学の頃からだよ~。あかりんとは小学校の時からだけど……しかし,この子は本当に昔に比べて成長したよね~……ほれほれ」

「ひゃんっ!?アンちゃん!?何処触って……んんっ……」

「!?あかりん,また大きくなってない!?まさか,もう委員長に――」

「アンちゃん!!!」


 いつものようにじゃれ合う二人を見て私は乾いた声で笑ってしまった。


 ――ただ,男の子がいる前でそのようなことは駄目だと思うので後で軽く叱っておこう……鼻血を出して手で押さえている冨塚とみつか君と悶えている陽輔ようすけ君も同様に……。


「――あら,皆さんお揃いましたか?」


 自動ドアから星稜学園の制服に金髪の縦長ロールに赤い扇子という異世界漫画に出て来そうな人物が私達の前にやって来た。


天王寺てんのうじさん,お迎えかな?」

「そうですわよ。お父様に椎名しいな先生達をお迎えするように言付かってますから――それと,お父様達と会う前に……」


 持っていた扇子を畳むと彼女は灯里あかりちゃんと冨塚とみつか君に頭を下げた。


椎名しいなさんに冨塚洸輔とみつかこうすけさん,今回は妹がとんでもないことをしてしまって申し訳ありません。あの子にはそれ相応の罰を与えますのでどうかご容赦を」

「あの,天王寺てんのうじ先輩……私達はもう大丈夫ですから」

「自分も怪我したといってもこれくらいです。流石にあれほどの罰は――」

「そうはいきませんわ」


 頭を上げると持っていた扇子をバシッと反対の手で掴むと溜息を吐いた。


 ――今にも折れそうに持っているのを見ると相当怒っているらしい……。


「あの子がこれで大きな問題を犯したのは――流石にお父様とお母様の堪忍袋は限界ですもの。最低限の生活の援助はしますが,本日付けであの子は天王寺家から勘当です。一度,世間様を自分の目で見て来るべきですわ」


 件の女の子……灯里あかりちゃんを突き落として助けた冨塚とみつか君にも怪我を負わせたことは彼女が自白?したことで学園での処罰はしないことに白星しらほし君は決定した。


 勿論,灯里あかりちゃんと冨塚とみつか君の了承を得てだ。


 ――だが,彼女のご家族に至っては違っていたらしい。


 問題が問題であるため,親御さんには嘘偽りなく事実を報告して私自身も謝罪さえしてくれたらそれでいいと考えたのだが,予想の斜め上を行く事態になったのだ。


「ここだと他の患者さんにご迷惑になりますわね。移動しながらお話しましょうか」


 彼女がそう言うと私達は彼女のご家族が運営する天王寺てんのうじ総合病院の中に入った。


天王寺てんのうじさん,妹さんを勘当って……」

「先程も言いましたが,あの子が大きな問題を犯したのはこれで3回目だからです」


 彼女の妹さんは小学校の頃から素行がかなり悪かったという。


 ただ,大きな問題もなかったので目を瞑っていたのだが,中学生の頃に両親ですら見過ごすことのできない大きな事件を起こしてしまったのだ。


「どんな事件を犯したんですか?」

「複数人を率いてクラスメイトの男の子を虐めて監禁したのです。学校の屋上の清掃ロッカーに1日中閉じ込めて」

「「っ!?」」

「幸いにも翌日には見回りをしていた先生に助け出されましたが,その男の子は酷く怯えて半年間は不登校になりました。それ以外にもあの子は在学していた中学校で家の力を見せ付けて色々と悪さを……」


 当時のことを思い出したのか彼女はまた怒りを露わにしていた。


「……ふぅ~……お父様は激怒して今まであの子に迷惑を掛けていた方々に謝罪をしました。勿論,あの子は別の中学校に転入させました。そして,2回目が……」

「――誠央学園で新居あらい達と一緒にしていたことですか」

「ええ。そちらについては同じ誠央学園の方々がお詳しいですわね?」


 天王寺てんのうじさんの言葉を聞き,冨塚とみつか君は肩を竦めていた。


 私も司馬しば先生から話だけは聞いていたが,本柳もとやなぎ君達が起こした告発事件は彼女達を一掃させたということに関してだけは褒めてもいい出来事だった。


 それほど彼女達が誠央学園で行っていた問題は大問題であったのだ。


「星稜学園に編入する時に今度同じことをしたら家を勘当してもらうと温厚なお母様にすら言われていたのに……あの子は……」

天王寺てんのうじさん……」


 大きなため息を吐く彼女に私は声を掛けることが出来なかった。


 **************************


 「――椎名しいな先生,今回は娘がご家族を危険な目に合わせてしまい誠に申し訳ありません。あの子には相応の罰を与えますのでに何卒……」

「本当に……申し訳ありません」

「お顔を上げてください!何度もいいましたが,私達はもう――」


 院長室に通されて椎名しいな先生が座る高級ソファーの前には何度も頭を下げる白衣を着た男性とスーツを着込んだ女性がいた。


 そんな光景を私達は別で用意されたソファーに座りながら眺めていた。


「何かさっきから謝ってばかりだな」

「俺もそこまで謝ってもらわなくてもいいと思っているんだが……」


 双子の兄弟はお互いの顔を見て苦笑していた。


「もしかして,洸輔こうすけ君達ってお父さんが有名な人だとか?」

「あかりん,ようちんの家ってね――この地域じゃとんでもない一族って知ってる?」


 事情を知らないあかりんに私は簡単に説明をした。


 実はこの地域と周辺地域は昔までは冨塚とみつかと呼ばれていた地域だったのだ。


冨塚とみつか……えっ?冨塚とみつか!?」

「そそ。ようちん達の家ってここら辺一体の土地を所持していた地主……先祖まで辿ると豪族?大名?みたいな家柄らしいよ~」

「何できょうちゃんはそのことを知っているの!?教えてないよね!?」

陽輔ようすけ,こいつは勝手に人のことを調べることが趣味なんだ。今更だから諦めろ」


 溜息を吐いた委員長は続けて自分達の家系のことを話してくれた。


 彼等の両親は普通の暮らしをしているが,祖父に至っては例外であるらしい。


 今でも地区周辺の一部の土地を所有しており,彼等のお爺さんの一言でこの地区に限っては再開発がストップするほどの発言があるのだ。


 ――故に大病院の院長だろうとようちん達は無視できない存在だという。


「そして,大問題なのが――爺さんは俺と陽輔ようすけを気に入っていることだ」


 お爺さんには数人の子供はいるが,孫息子はようちんと委員長だけだという。


 そのため,お爺さんはふたりのことをかなり溺愛しているらしい。


「特に大変だったのが俺が小学生の頃に大怪我をしたことだよな。あの時は爺さんが血相を変えて――」

陽輔ようすけ,その話は二人にするな。椎名しいなさんも新井あらいもさっきの話は……」

「えっ?それって――アンちゃん?」


 委員長の態度が気になったあかりんを私はそれ以上は聞いて駄目だと止めた。


 私は調べて知っているけどあまり気分のいい話じゃないからだ。


「……ようちんもはるるんみたいに幼少期は酷かったんだね」

「ん?何か言った?」

「何でもないよ~。んじゃ,私は別室にいるあの子の様子でも見に行こうかな」

「あら?あの子に何か用事でも?」


 近くに座っていた天王寺てんのうじ先輩が不思議そうに私の顔を見た。


「う~ん,元々あかりん達は私が原因で巻き込まれたんで……」

「なるほど……あの子から詳しい事情は聞いておきたいと。いいでしょう」


 そう言って先輩はあの子がいる別室へと私を案内をしてくれた。


 ようちん達も一緒に行こうとしたが,個人的な要件なので同行は遠慮してもらった。


「この部屋ですわ。今は大人しくしてますけどあなたの顔を見たら暴れるかもしれません。危険と感じたら外にいる警備員を呼んでください」

「は~い!先輩,ありがとうございます!」


 先輩にお礼を言って彼女が居なくなることを確認すると私は部屋の中に入った。


「――誰……って,新井あらい!?」


 殺風景な部屋の中に机と椅子が1つずつ――娯楽もなくお嬢様である彼女に取っては非常に窮屈な場所だろう。


「いや~,本当に何も置いてないねぇ。これは酷い」

「何よ!私を笑いにきたの!?」

「ひぇ~,怖い怖い。それだけ元気そうなら大丈夫かな」


 私は彼女に近付かず壁にもたれながら彼女を見つめた。


「言っておくけど私が勘当されたからって状況は変わらないわよ!学園に戻ってあんたをあの子の下に連れて行けば――」

「あの子が自分を家に戻すように動いてくれる……でしょう?あのね,本当にあの子がそんなことをすると思っているの?」

「――えっ?」

 

 私が何でそのことを知っているんだと不思議そうにしている彼女に私はゆっくりと近付いて真実を話した。


「教えといてあげる。あの子は最初からあなたを差し向けてたのよ」

「そ,そんなはずないでしょう!?だって,私はあの子のために多額の……」

「親に黙って病院のお金をあの子に提供していたんでしょう?苦学生達を自分の手駒にするために資金が必要だったから」

「!?どうしてそれまで――!?」


 慌てて口を押えたがもう遅い――私はスマホを取り出すと録音機能を終了した。


「はい,言質取った!駄目でしょう,そういうことは喋っちゃ」

「そ,それをどうするの……?」

「どうするって……まだこの話ってご両親にバレてないんでしょう?流石に額が物凄いから何れバレるとは思うけど傷が浅い内に――」

新井あらい!!お願いだからパパ達には言わないで!そんなこと知ったら勘当だけでなく資金援助まで……」


 彼女は必死に私に縋って来た――予定通りではあるが本当に簡単過ぎる……。


「大丈夫よ~。親御さん達には言わないから。あと,これも渡しておくね~」

「えっ?」


 彼女に通帳を渡すと中の額を見て彼女は目を見開いて私を見た。


「それだけあれば病院から盗んだお金は戻せるでしょう?あと,少しぐらいなら親御さんから毎月貰えるお金と合わせて贅沢は出来ると思うよ~」

「ど,どうしてこんなことを!?私はあなたを……」

「そりゃあ,やって欲しいことがあるからね~」


 ニコニコと笑いながら彼女の前にしゃがみ込むと私は普段とは違う顔をした。


を私の前に引きずり出しなさい。それから――」


 私が続けて話した内容に彼女は信じられない顔をして拒否しようとしたが,逆らうことも出来ず,彼女はただ私のに頷くことしかできなかった。 

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